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XRQ技研の業務日誌(XRQ Tech Lab)

2015-05-07 手間を愉しむ

MBDC2トランシーバー

 公園を散歩していると犬を連れた老夫婦に出会った。杖をついたご主人がベンチに座り、ボールを取り出すと犬がはしゃぎだしたように思えた。どうしたのだろうと見ていると、ご主人がボールを投げた。犬は少し離れたところからそれを見ていて、ボールを投げると同時に全速力でボールを追っていった。そしてボールが地面に着くか否かというタイミングでボールを口にくわえ戻ってきた。ご主人の前にボールを置くと少し離れたところから見ている。そしてボールが投げられると一目散に追いかけ、取ってくる。これを何回も何回も繰り返している。ご主人から褒められたり、ご褒美をもらえることを期待するのではなく、ボールを取るという行為自体を愉しんでいるように見えた。

 一つのことを成し遂げるということは満足感の得られることである。自分の能力を生かして思い通りの成果を得られたとき達成感に満たされる。この喜びを得るために私たちはさまざまなことに取り組んでいる。犬の様子を見ていて、この楽しさは生き物の根元的なものなのかも知れないと思った。

 KD1JVデザインのキットであるMBDCという無線機がどうにか動き始めた。DDSという仕組みでマイコン制御により直接目的の周波数を生成する最新の設計である。しかし、とても手間の掛かる仕組みになっている。電波での交信は同一周波数で行うのが普通である。互いが同じ周波数で電波を出し、交信する。この無線機はダイレクトコンバージョンという受信の仕組みを使っている。受信した周波数にごく近い周波数を受信機内部で生成し合成する。するとその2つの周波数の差を取り出すことができる。この差を音として聞く仕組みである。もし、外からの電波と同じ周波数を構成してしまうと、差として聞こえるはずの音が聞こえないことになる。(ゼロビートzero beat)従って、内部で生成した周波数と交信に使っている周波数では600〜800Hzの差がある。この内部で生成した周波数をそのまま送信したのでは相手の周波数と同一というわけには行かず、交信が成り立たない。

 そのため、相手の周波数とゼロビートを取ったら、その周波数を固定しておき、ここから600〜800Hzの差の周波数を新たに生成して受信する仕組みが必要になる。(RIT回路)通常はこの操作を自動で行うよう仕組まれているのだが、このMBDCでは手動になっている。

 アマチュア無線の初期のころ送信機と受信機は別々のもので、相手局を受信して、それに応答するときには送信機から弱い電波を出し、受信機で聞きながら同一の周波数になるよう調整を行ったものである。(キャリブレーションcalibration)それからトランシーバーが出現し、これらの操作が自動化され、受信した信号に即、応答できるようになった。  交信を楽しむために機器は進歩してきたのだが、ものづくりと同じように自分の技量を発揮する場としてさまざまな手間を掛けていくのも楽しいものである。

 風呂上がりにMBDCのスイッチを入れると3.5MHzでパイルアップが起きていた。移動局が出ているようだ。各地からの電波が錯綜している。相手局にゼロインし、RITを調整して聞きやすく混信の少ないように調整する。そしてタイミングを見計らってコールする。何回かの繰り返しのうち相手局からこちらのコールサインが打ち返されてきた。挨拶とシグナルリポートを交換する。ダイヤルで調整しながらの手間暇を掛けた交信である。