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書房日記

2016-10-13

竜王戦挑戦者出場停止事件

10月12日夕刻、まず三浦弘行九段の12月末までの出場停止処分と丸山忠久九段が代わって挑戦者として竜王戦に出場する旨の第一報の記事が発信され、同日夜間には日本将棋連盟常務理事島朗九段による会見での説明が詳報された。

 報道されている範囲で島常務理事の会見内容を概観すると、

  • 今年夏以降の三浦九段の対局時の行動にスマホの不正使用についての疑義があり、理事会で三浦九段に対する聴取が行われた。
  • その際三浦九段は不正を否定すると共に、疑惑をもたれたまま対局することは出来ないとして休場を表明した。
  • その翌日を休場届の提出期限としていたが提出が為されなかったことから、理事会は三浦九段を12月31日までの出場停止処分とした。
  • 三浦九段が挑戦者となっていた今月からの竜王戦七番勝負には、三浦九段に挑戦者決定戦3番勝負で敗れた丸山九段を代わりに出場させることを決定、主催紙の読売新聞社にも了承を得た。
  • 不正使用に関する疑義については、竜王戦挑戦者決定トーナメントの際の対局者から提示され、今年夏以降の不自然な離席やソフトの指し手との一致率から判断した。三浦九段からは別室で休んでいただけであるとの反論が在ったが、理事会としては疑義に関し十分な説明が為されていないと判断した。

といった内容が骨子のようだ。

現時点では、日本将棋連盟理事会の説明と対応は不十分であると言わざるを得ない。まず理事会は、三浦九段が疑義に対し納得のいく説明を行わなかったと判断したことは表明しているが、不正を行ったか否かについて事実認定を行っていない。

仮に不正を行ったとする事実が立証されたのならば、当然当該対局は三浦九段の敗退とし、除名等の処分が速やかに提起されなければ、プロ将棋自体に対する信頼が失墜する。

ところが現時点で、理事会側は三浦九段灰色扱いはしているものの、客観的根拠を提示した不正行為の立証を行えていない。不正行為の立証が出来ずに結着した場合は、当然三浦九段に対して謝罪した上で何らの処分も行わず通常通り対局させる必要がある。

しかし現状では、調査が完了したとは言えず、理事会側の認識に対して三浦九段は疑惑を否定する見解を表明している。この段階で、休場届の提出という点を理由に3か月の出場停止処分とするのは、事実がいかなる場合であっても、不十分な対応であり、ウェブ上でささやかれる竜王戦七番勝負前に三浦九段の出場を取りやめさせること自体が当面の目的だったという憶測が生じる原因となっている。

もし理事会が真に真相究明による信頼回復を意図しているのならば、まずは調査を徹底し、客観的根拠に基づいて不正行為を立証するべきであろう。その際、対局相手の棋士からの疑義等の情報も開示して、公正な検証・追及を行ったことを示す必要がある。

対局者は、対局相手の不正による敗退を容認しないという点で、当然理事会に対し疑義を申し立てる権利を有しているので、疑義が余程妥当性を欠くものでない限り、外部がとやかく批判すべきではないだろう。ただその疑義と、理事会が疑義を取り上げ追及する根拠とは客観性を有することが説明されない限り、恣意的な疑義の取り上げ方で棋士生命を左右する疑惑が公表される恐れを排除できず、現に一部の棋士からも理事会の対応を疑問視する意見が表明されている。

2005年の銀河戦で、加藤一二三九段勝利した後に、着手を変更する「待った」を行ったと理事会から認定され、反則負けに変更されて出場停止処分を受けた事例もある。しかしこういった事後の処分には繰り返しになるが納得のいく根拠説明が必要であるし、不正行為が立証できなかった時点で当然疑義を受けた者に謝罪をした上で、不正行為の無かったことと勝敗結果を改めて確定する必要がある。

最終的に、理事会は竜王戦本戦の対局で不正行為が存在したか、存在せず結果が有効であったかを立証する必要があるだろう。

そして今回の件でもう1点考慮する必要があるのは、スマホの持ち込み・使用自体を禁止するルールの制定前の行為であったという点だろう。仮に三浦九段が、別室でスマホを操作していたとする事実があったとしても、将棋ソフト等の利用が立証されない限りは、単に別件でスマホを操作していても即不正と見なすことは出来ないのだ。理事会側で、指し手に直接関わるスマホ操作の立証が果たして為されるかどうか。


以上、本件についてはまずは理事会側の更なる説明か調査が求められるが、いかなる展開となるにせよ、A級棋士を理事会が不十分な証拠で追及し出場停止に追い込んだか、A級棋士によるスマホを用いた不正行為が為されたかの、重大な事実を伴う可能性がある。

これはタイトル戦の対局が行われないという事態となり、棋士の出場停止処分や連盟の分裂まで取り沙汰された1952年の陣屋事件をも上回る、数十年に一度の将棋界における大事件である。今後の理事会の対応によっては連盟会長の谷川浩司九段、専務理事の青野照市九段の責任問題どころか連盟の存亡自体が問われることも有り得るし、最悪の場合にはプロ将棋の根幹に対する信頼自体が崩壊しかねない。

筆者個人は不正行為が立証されずに、理事会側が三浦九段への処分を取り消し、疑義を招く行為と理事会への説明については改めて注意が為されるといった最も穏やかな展開を望むものではあるけれども、全ては盤上での棋士による指し手が全てであるという、実力制名人導入以来のプロ将棋の存在自体が問われている事態であることを念頭に置いた、日本将棋連盟理事会の慎重な対応を改めて望みつつ、不確かな点の多い現時点でのこの憂鬱な一文を終えることとしたい。

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