小林リズムの紙のむだづかい(連載73)

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紙のむだづかい(連載73)

小林リズム

【目を患って心も患う】


 朝起きたら、目に違和感があった。まあ、いっか、と放置していたらみるみるうちに腫れていき、左目だけ殴られたボクサーみたいになった。慌てて眼科に行くと「ものもらいですね」と軽くあしらわれ、処方された目薬を必死につけたのだけど状態は悪化。目の周りまで赤くただれてきて、なんともグロテスクな状態になってしまったのだった。「うわ、こんな気持ち悪い顔見たくない…」と、私は家にある鏡の位置をかえ、遮光カーテンを閉めたのだった。これぞ、本当の引きこもり。

 鏡で顔を見ないにせよ、かゆい。そしてまぶたが重く目が開きづらい。この顔で道を歩くのはさすがに嫌だと眼帯をして行った新しい眼科では、受付の人に「へぇー!腫れていると。どんな感じですか?眼帯とって見せてください」と言われた。好奇心まるだしな美人受付嬢に言われたので、「なによ、このアマッ!」とイライラしながら眼帯をはずすと、あまりの衝撃だったのか美人のテンションは一気に暴落。「あぁ…」とうなったあと、ではこちらをお書きください、と目を合わさずに紙を渡されたのだった。
 ちょっと、あなた、見せた意味あります?おねーさんが診察するわけじゃないんだから、せめて「お気の毒に…」みたいなリアクションはほしいんだけど。と心のなかで悪態をつきながら診察してもらった。「結膜炎ですね」と言われた。人にうつるので外出は控えてください、とか言われたのだけど、控えても何もこの顔じゃどこにも行けない。でもまあ、新しい目薬で治るかなぁ…と思ったのだけれど、これまた一向に治らない。目が開かないから本も読めないし何をするのも億劫。
 となると、もうイライラもヒートアップして、何かにつけて八つ当たりをしたくなった。長年使っていなかったマニキュアのふたが開かないこととか、たこ焼きを買ったのに割りばしが入っていなかったこととか、小さなことへの怒りが止まらない。
 
 顔が原因で友達と約束していた予定も断ってしまい、申し訳ないなぁと思っていると、その子が「顔の異常って落ち込むよね。私も前に顔に発疹ができて…」と慰めのメールをくれてやっと気付いた。そうだ、私は落ち込んでいるのだ。このあふれ出てくる猛烈な怒りは落ち込んでいることを隠そうとしているからなんだ。と、思ったらすーっとラクになって、再び病院に行ってみようと思ったのだった。

 眼科へ行くと今度は皮膚科を勧められ、半分諦めかけて行った皮膚科のおじいさんの耳がものすごく遠くて言葉が通じなかった。けれど、周りの看護師さんが必死に通訳してくれて、よくわからないけれど軟膏を処方された。結局私の目は何が原因でこうなったのかはわからないけれど、軟膏のおかげなのかだいぶ治ってきてメイクですっかり隠せるくらいになった。心の余裕ができるとともに新たに気になるのは、医療費。社会保険は父の扶養に戻っているとして、無職としては痛い出費。しかもすべてが初診料。というわけで、心の隙間に付け込むように、無職という名の傷がうずくのだった。