小林リズムの紙のむだづかい(連載106)

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紙のむだづかい(連載106)
小林リズム

【原動力はドキドキ】


 「この人のことを心からわかってあげられるのは、わたししかいない…!」
と思った。場所は自宅のベッド。横たわった体勢で、私は彼と向き合っていた。
 …と、言ったら語弊がある。正確には、彼の書いた本と向き合っていたのだった。男性作家が書いたエッセイで、恥ずかしかった出来事や心のなかをさらけ出していて、それがなんとも情けなくて、みっともなくて、だらしがなくて、かっこわるかった。そのかっこ悪さに胸がきゅうっとなって「大丈夫、わたしならあなたのすべてを受け入れてあげるわ」みたいな気持ちにさせたのだった。

 どれくらい本気で思ったかというと、その作家をググッて検索し、ウィキペディアを眺め、住んでいそうな場所と出した本の多い出版社をサーチし、コネで自宅の住所…には及ばなかった。本気度はウィキペディアの時点で終わった。なんと、結婚していたのだ。しかもだいぶ昔に。あまりにもショックで、今度は画像検索で「作家名 嫁」と検索してしまったくらいだ。「結婚相手」「相手 女性」「恋人」で検索をしても画像が1枚も出てこなくて、さらにどうしようもないような気持ちになったのだった。

 やり場のない思いの矛先は男性作家へ向かった。ずるい!と思った。こんなことを書いておきながら、ちゃっかり結婚しているなんて、こんな気持ちにさせるなんて、ずるい。ずるいずるいずるい…。と思い、その本を貸してくれた友達に相談したのだった。
「あの作家、ほんといいよねぇ。たぶん、彼のことはあたししかわかってあげられないと思うんだけど。でも結婚してるんだって、信じられない」
 すると友達はびっくりしたように「え…結婚してるのは知ってたけど。でもあの作家をわかってあげれられるのは私だけかと思ってた…」と言うではないですか。なんなんだもう。そこからは意気投合し、ひたすらその作家への思いの丈をぶつけあったのだった。こういうところがいいとか、ここが情けなくて笑えたとか、こういうことって自分にもあるよね、とか。ドーナッツを食べ終わってコーヒーをおかわりしても話が尽きなかった。

 それにしたって、なんであんなに「わたししかわかってあげられない」なんて思ったんだろう。結婚相手、友人、と私を含めて少なくとも3人がそう思っているのだ。ということは、世の中にはそういうふうに思っている女の子がもっといてもおかしくなくて…ああ、そうか、だから彼は人気作家なのだった。


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