「畑中純の世界」展を観て(連載22)

清水正が薦める動画「ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ」
https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk

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畑中純の世界」展を見て
藤田 夏実




 展示会で印象に残っているのは版画でした。コミックの絵柄の様で、立体的な版画は、素朴であるのに神秘的で、目を惹きます。
 特に「銀河鉄道の夜」の4枚にわたる作品は、額ごとの一枚一枚も作品として美しく、額縁という隔たりも介さない迫力があります。また、他の宮沢賢治に関する作品も同様の印象です。畑中先生の宮沢賢治に対する思いが、形になっているように感じました。
 版画では、動物にキャラクター性を持たせているものも、かわいらしいです。「オッペルと象」や「ツェねずみ」、「猫の事務所」は、動物たちの素朴な本来の可愛らしさを描いている印象でした。反面、そこに含まれたストーリー性こそが、魅力なのではないかと思います。
 「オッペルと象」の、鎖につながれ木材を運ぶ、泣いている象は、絵柄の可愛らしさだからこそ強調させる哀愁がありました。
 版画以外でも、オバケ15話『明暗』の「黒く塗れ」と吹き出しに書かれた作品は、インパクトが一番強く、何より描写力に驚きました。一度描いた街を黒く塗り、改めて白ヌキで主線を描いていて、黒く塗るスペースの街も描きこんであった事に驚きました。
 作画における技術的な面はもちろんですが、観察力がずば抜けています。漫画ではなく、絵画や版画の技術があってこその表現だと思います。

 畑中先生の世界観は、人間の本能と素朴さを一貫して描いているように感じました。女性を描くときに乳房より臀部が強調されていて、フェチズムというか、そこに女性らしさ、母性を求めているのではと思います。母性を求めるというのは、男女問わず人間が捨て去ることのできない本能です。また、女性に対する一種の信仰というか、崇拝の様なものが、漫画や展示されていた絵から伝わりました。創作において、女性の描き方こそ、創り手の人となりが顕著に見えるものです。畑中先生は、単純なエロスではなく、生物の本能的な欲求や、情動のロマン、女性の神秘性を大切にしている作家さんだと感じました。
 描かれている人間たちや動物たちは写実的ではないですし、キャラクターらしさが強いです。しかし、一枚の絵に表れている情景や場面は、現実的で親近感があって、体験してもいないのに懐かしい気持ちになります。それは人間の普遍的な本能や、特に日本人の遺伝子的な根本を的確に押さえているのだと思いました。