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清水正ブログ

2015-04-26

『うちには魔女がいる』講評

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矢代羽衣子さんの『うちには魔女がいる』(平成二十六年度日本大学芸術学部奨励賞受賞)は好評のうちに掲載を終わりました。今回はわたしの講評を紹介します。



『うちには魔女がいる』講評

清水正

 


ウイにとって魔女を一言でたとえるなら〈愛〉ということになる。毎日、ユイのために独創的な料理を作り続ける魔女の、日常と化した愛に心打たれる。このエッセイには魔女の作品(料理)が数多く紹介されている。撮影し続けたウイが、その作品に込められた愛を不断に実感していた一つの証である。このエッセイは著者が書いたものには違いないが、魔女の作品との共作ともなっている。張り付けられた作品(撮影された料理)の一つ一つに真心が込められていて、わたしはそれを食するようにたっぷり時間をかけて味わった。

山手線の電車の中で、この卒論エッセイを読みながら、わたしの涙腺はゆるみにゆるんだ。人の目もはばからず、流れるものは流れるままにまかせた。山下ゼミの学生の中にこんなすばらしい文章を書けるひとがいるなんて、と思いながら、このひとはどんなひとなんだろうとも思った。羽衣子という名前だから、天女のような美しいひとなんだろうとも思い、面接時に会えるのが楽しみだった。池袋に着く寸前に読み終え、西武線に向かってほのぼのとした気分で歩いている時、とつぜんウイの姿が立ち上がってきた。えっ、あのウイか、知らないどころではない。会うたびにウイ、ウイと声をかけていた、山下ゼミでも特に目立っていた学生であった。

魔女のウイに注がれた愛、ウイの魔女に向けられた愛の秘密の壷口には堅い栓がとり付けられている。が、密封された壷の中から、ひとの心をほのかにくすぐり癒す香りが漂っている。魔女の愛の料理には純度の高い悲しみの調味料が溶け込んでいる。魔女とウイの大げさに落ちない、日常へと浄化された絆のすがたが明確にきざまれたエッセイで、読んでいるあいだ、絶え間なくほのぼのと、せつなく、かなしく、あたたかかった。魔女の料理のお相伴にあずかった喜びを感じた。

さりげない表現で、人間の愛と悲しみを浮き彫りにする、否、あいとかなしみの時空へといざなう、その力はほんものである。  

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2015-04-24

うちには魔女がいる(連載26)


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矢代羽衣子さんの『うちには魔女がいる』は平成二十六年度日本大学芸術学部奨励賞を受賞した文芸学科の卒業制作作品です。多くの方々に読んでいただきたいと思います。



矢代羽衣子

うちには魔女がいる(連載26) 

 

   あとがきに寄せて

一月の深夜に、はなの小さなイビキを聞きながらこれを書いている。朝はまだ遠い。


ハーブ大国のドイツでは、ハーブや薬、料理などに詳しい女性を魔女と呼ぶらしい。見るともなしに見ていた旅番組でそれを聞いた時、「あ、うちにも魔女がいる」と思った。

そういえば庭でハーブを育てているし、よく鍋で何か煮ている。それに、あの人の料理を食べるとやさしい気持ちになるのだ。

母が死んでもう十五年経つ。私は六歳で、魔女はまだ二十三歳だった。

私は昔から、それこそ母が生きていた頃から魔女のことが大好きだった。祖父と喧嘩をして母が私を連れて家出をする時、寂しくて魔女と抱き合って二人で泣いた。

だから母がいなくたって父が忙しくたって、魔女がいれば私は寂しくなかった。ちょこちょこと魔女の後を追っては、彼女の名前を嬉しそうに呼んでいた。

それは幼い頃の幸福な記憶であるが、同時に成長するにつれてほろ苦い思いを私に植え付けた。

二十代前半で、きっともっとやりたいこともたくさんあっただろうに、小さな子どもを抱えた魔女はどんな時だって私の手を迷いなく握り返してくれた。そのぬくもりに、何度掬われてきたのだろう。


絶対に離れるなんて無理だと思っていたけれど、結局私は十八の時に家を出た。大学進学のときはお互い寂しさと不安で何度もぶつかり、それでも最後は応援してくれた。

甘えたで魔女離れができなくて、ろくにバスにも乗れなかった私が、いまでは都内で一人暮らしをして、電車を乗り継いで新幹線のチケットを取って、大阪にひとりで旅行したりしているのだから信じられない。

誰もいない部屋に帰るのはいつまで経っても慣れなかったし、添加物だらけのコンビニ弁当は体にやさしくなくて何度も泣いた。そして少しだけ、大人になった。

私はこれからあのやさしい人に、何を返せるのだろうか。今までもらってきたあたたかくてやさしいものを、少しでも魔女に渡せているんだろうか。



親愛なる魔女へ。

あなたがいるから、私はいまここに立っているのです。

どうかいつまでもお元気で。



姪であり、一番弟子のウイコより。

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2015-04-23

うちには魔女がいる(連載25)


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矢代羽衣子

うちには魔女がいる(連載25) 

 

  

    

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2015-04-22

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矢代羽衣子

うちには魔女がいる(連載24) 

 夜なべの筑前煮

  

    

昔から私は聞き分けの良い子どもだったが、唯一、祖母にだけは生意気な態度をとっていつも叱られていた。

怒ると低く冷たい声で理詰めしていくタイプの魔女とは違い、祖母は随分とヒステリックで感情的なタチだった。甲高い声でキャンキャンと吠えられると、普段は素直で穏やかで、大人たちに口ごたえなんてしたことのない私も、気がつくとつい負けじとキャンキャンと子犬のように吠え返してしまうのだ。

泣きながら大喧嘩して居間を飛び出し、暗い階段でひとりぐずぐずと鼻を啜っていると、決まって祖母は不機嫌そうに部屋から顔を覗かせた。わざと怖い声で「オバケが出るぞ〜暗い廊下はオバケが出るぞ、連れてかれちゃうぞ〜」と大人気なく脅かし、それにより一層大泣きした私が涙声の罵詈雑言を吐きながら居間に走り戻る、というのが二人の喧嘩のお決まりのパターンだった。

きっと、誰よりも甘えていたのだと思う。

魔女が出掛けていない夜に祖母の部屋にいくと、なにも言わずに布団を持ち上げ、体をずらしてスペースを作ってくれた。

トイレの扉の前で間一髪間に合わなくて、汚れた下着と廊下を一緒に掃除して、魔女には内緒にしておいてくれると約束してくれた。

家の階段で一緒にグリコをしてくれたのも、夜の布団の中で古いわらべ歌を教えてくれたのも、酷い点数を取った社会のテスト用紙を指さして笑い、けれどもそのあと勉強に付き合ってくれたのも。全部祖母だったのに。

祖母は車椅子に乗っていた。赤と黒のチェックのクッションが敷いてある、大きくてタイヤのついた彼女の相棒。私は今でも、あの冷たい鉄の感覚と、タイヤがフローリングで高く鳴く音を時々思い出す。

彼女は私が一歳のときに脳溢血で倒れ、一命は取り留めたものの、家に帰ってきた祖母の左半身は思うように動けなくなっていたそうだ。魔女は当時、まだ高校三年生だった。

古い家族の写真の中では、若い祖母が何の支えもなくしゃんと背筋を伸ばして立っていて、その姿を見る度に何だか不思議な気分になった。私は車椅子に乗っている祖母しか知らない。けれども写真の中の笑顔は、私がよく知る少しシニカルな、いたずらっ子みたいな溌剌としたものだった。



祖母が死んだ。

十一月の寒い夜だった。私は中学二年生で、今度はひとりで祖母の病院に泊まりに行こうか、なんて話をしていた矢先の事だ。

祖母はもう随分と長いこと腎臓を患っていた。最後の方は意識もだんだんと濁り、私の知っている、わざと小憎らしい顔で笑う祖母とはあまり会えなかったような気がする。

病院から容体が急変したという電話が来た時、とうとうか、とも思ったし、嘘だ、とも思った。きっとこれから、何度も経験する傷みだ。私の好きな人たちは、みんな私を置いていってしまう。

そこからはあっという間だった。

葬儀のためにしなければいけないことはたくさんあって、遺族にはゆっくりと悲しむための時間はそう与えられない。祖父も魔女も憔悴しきっていて、私は何ひとつ直視できずに、ずっと曖昧に笑っていた。空気に一枚薄い膜が張ったみたいな、透明であたたかいぼんやりとした悲しさが、肌に張り付いては少しだけ呼吸を苦しくさせた。

祖母が亡くなってから葬儀までの約一週間、食事はすべて出来合いやお弁当ばかりだった。ウチのごはんは全て魔女が担っているといっても過言ではないし、彼女は家族のなかでも相当参っていたので、無理もない。誰が一番つらいとか、そういう話ではないのだ。ただただ、祖母がどれだけ探したってもうどこにもいないという事実が、ずうっと後ろを付いてきて離れてくれない。

しかし、やらなければいけないことは次から次へとやってくる。仕事に追われて案外日常を慌ただしく過ごしていた中、お通夜が終わった夜に、魔女がぽつりと呟いた。

筑前煮、食べたいね」

夜の冷えたキッチンに、魔女と二人で立って、包丁を握った。

手間のかかる料理だ。何より下準備に時間がかかるし、そこがミソといってもいいだろう。野菜を切って面取りをして、味が染み込みやすいように切り込みを入れて、蒟蒻や八つ頭を下湯でして。

ひとつひとつの工程を丁寧になぞっていく作業は楽しかった。ちょうどいい具合に頭と心を空っぽにして、飽和したかなしみでぶよぶよに溶けていた思考を、少しだけまともに戻してくれた。

「ママがね、意識があるときに最後に食べたの、私が作った筑前煮だったのよねぇ」

魔女は祖母のことをママと呼んだ。私も魔女も、とうとう二人揃って母親を亡くしてしまった。

「あんたの作ったものが一番美味しい、って言っててねぇ」

ママの筑前煮、食べたいねぇ。何でもないことのように言った魔女の声が、一番心に突き刺さった。

祖母は料理上手だった。その味は、確実に魔女に受け継がれている。魔女や母や祖父の血や肉をつくり、めぐりめぐって私の身体に回ってきた、やさしいごはん。

ああ、私たちは、あの人の作ったものを、もう二度とは食べられないのだ。



出来上がった大量の筑前煮はあたたかくてやさしい味がして、お弁当続きの身体にじんわりと染み渡ったが、魔女としてはいまいちの出来だったらしい。何度も首を傾げていた。

真夜中のキッチンでふたり、他愛もない話をして、食べて笑って、時々泣いた。

いまでも日常のふとした瞬間、流れていく時間のなかで思い出す。

タイヤのゴムが高く鳴く音、車椅子の鉄の匂い、歯に衣着せぬ物言い、大きな真珠のイヤリング、シニカルな笑顔、赤縁のメガネ。真夜中の筑前煮。あの人の作る、やさしい料理。

思えば祖母は、あの魔女の料理の師匠なのだ。そうなると、彼女は大魔女といったところか。

私もいつか、あんなに美味しくてやさしい料理が作れるようになる日が来るのだろうか。

大魔女と魔女のごはんで出来た身体で、今日もわたしは明日へ歩く。

  


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2015-04-21

うちには魔女がいる(連載23)


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矢代羽衣子

うちには魔女がいる(連載23) 

 いちひめにひめさんなすび

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ウチは根っからの女系である。

母と魔女は二人姉妹だし、続いて私、はるな、と近しい間柄の子どもは決まって女ばかりだ。

そのおかげか、ウチの女性陣はみな非常に逞しい。一番年少のはるなや飼い犬のはなでさえその片鱗を少なからず覗かせているものだから、数少ない男性陣はたまったものではないだろう。男の子と一緒に虫取りやキャッチボールをしたかったとこぼしていたのに、娘、初孫と全員女が続いてしまった祖父が「脱ぎっぱなしにしない!」と魔女に叱られているのを見るたび、ほんのりと切ない気分になる。しかし女が強いほうが家庭は円満、なんて昔から言うから、案外収まりはいいのかもしれない。

そんな女の園である我が家では、女の子の節句であるひな祭りには、毎年潮汁を拵えてちらし寿司を作る。雛人形もあることにはあるが、部屋の半分が埋まるほど立派なものなので、この数年はすっかりお役目御免になってしまった。

キッチンにハマグリの出汁のいい匂いが漂ってきた。コトコトと鍋に火をかけている音を聞くと、無性に安心する。

ちらし寿司のお手伝いは毎年私の役目だったのだが、ここ最近、新しいお手伝いさんが加わった。

「じゃあはるなは卵切ってね」

 気をつけるんだよ、という魔女の言葉にはぁい、と良いお返事をしたはるなは、意気揚々とエプロンを被った。去年まで使っていた、キティちゃんの絵がプリントされたピンク色のエプロンは、あっという間にサイズが合わなくなってしまった。この年頃の子どもの成長には、目を見張るものがある。

応急処置で魔女のカフェエプロンを着けたは良いもののはるなの身丈では足りなかったらしく、ギャルソンみたいになってしまって声をあげて笑った。手ぬぐいを頭に巻き、やる気満々で包丁を握る子どもにハラハラするのは、いつも周りの大人たちの方だ。

「目離さないんだよ!」

「猫の手、猫の手ね。あーほら危ないって」

「もーわかってるから大丈夫だよ!」

あまりにもやいのやいのと口を出すから、お手伝いさんはすっかりご立腹だ。不器用な手付きで、小さな手が錦糸卵を刻んでいく。その横顔は真剣そのものだ。太さがバラバラなのは、ご愛嬌。

寿司桶に炊きたてのごはんを移して、寿司酢を垂らし、しゃもじで切るようにして混ぜる。つやつやと光るお米のなんと美しいことか。酢とお米が一緒になった甘い匂いに誘われて、はながふらふらと近づいてくる。犬のくせに酢飯が好きとは、渋い奴だ。

飾り付けになったら、いよいよお手伝いさんたちの本番だ。

酢飯を大皿に乗せて、はるなが切った錦糸卵をまんべんなく散らしていく。ふんわりと黄色いお布団を被せると、途端に見目が華やかになった。

はるなとあーでもないこーでもないとクスクス笑いながら盛り付けをした。サーモンや海老やタコ、いくらを乗せていく。薄くスライスした酢漬けの蓮根は、食べたときにシャキシャキとした歯ごたえが楽しい。

せっかちな祖父が適当に盛り付けしていたのを目敏く見つけたはるなが「もう! おじはテキトーなんだから!」とかしましく怒っていて笑ってしまう。

やっぱり、我が家の女は強いのだ。

  


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