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shin422の日記

2010-08-12

派遣労働者の労働契約について

15:47

 前に派遣労働者問題に関して酔いに任せて書きなぐった駄文に感想をいただいたついでに、派遣労働者の労働契約についての諸問題を考察する前段階的予備作業としてこの方面に関する若干の知識の確認をしておきたいと思う。もっとも、この方面については、僕とはところどころ見解の相違があるものの良質な「入門書」がいくつか書かれていて、とりわけ岩波新書から出されている数冊は一読の価値があるので、この場を借りて紹介しておきたい。

 中野麻美『労働ダンピングー雇用の多様化の果てにー』

 濱口桂一郎『新しい労働社会ー雇用システムの再構築へー』

 島本慈子『ルポ 解雇ーこの国でいま起きていることー』

 湯浅誠『反貧困ー「すべり台社会」からの脱出ー』

 いずれも岩波新書でその他にも参考になる本が出版されているので、書店なり図書館なりで見つけてください(笑)。僕の近くの区立図書館にも労働問題関係の書物は他分野に比べてやたらと充実しているのも、世相を確実に反映したものなのだろうなあ。ただ気になるのは、労働法学者によるものが少なく、なにやってんだ!と言いたくなりそうにもなる。確かに『労働法律旬報』(どうでもいいけど、あのページ数であれだけ高いのはどうかと思うのだが)で地味にやってる先生もいるにはいるのだけど。同じ労働法学者でも、小嶌典明やら大内伸哉やらといった御用学者とおぼしき人たちはそこそこ出てきてるんだけどねぇ(彼らに限らず、この類の主張を絶叫していらっしゃる方々に対して「明日から来なくていいから」とか言って解雇通知をつきつけてやったり、あるいは「明日から時給制にして最低賃金スレスレの金額でいきますのでよろしくね」と労働条件の著しい不利益変更を告知してやったりすればどういう反応を示すことだろうかと想像してみると面白い。おそらく血相変えて怒りだすことだろう。自分は特別な能力の持ち主であると自惚れているのか勘違いしているのかはともかく、いとも簡単に他人のクビを切ることを容認する連中に共通しているのは、自分だけは例外的に能力があるとの認識なのだろう)

 さて、労働者派遣は1999年及び2003年の労働者派遣法改正を契機に増加している。ただ、業務処理請負との区別がついていない言説をしばしば目にするのも確かなのでとりあえず改めて労働者派遣について、その意味を概括的ではあるが確認しておくことからはじめたい。

 労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を当該雇用関係の下にかつ他人の指揮命令を受けて当該他人のために労働に従事させることをいう(いわゆる労働者派遣法の2条1号参照)。この対象になるのがいわゆる派遣労働者と位置づけられる一群の労働者である。

 この派遣事業は労働者供給事業に該当し、職業安定法により禁じられていたことは周知のことだろう。早い話、口入れ業を認めないとの趣旨である。労働者そのものの商品化に結びつくとの危惧からこのような規制が設けられたとも考えられよう(通常の雇用契約は、労働者そのものの商品化ではなく「労働力」の商品化である。マルクス剰余価値学説からすれば、この労働力商品化にこそ「搾取」の根源ということになるのかな。それはさておき・・・)。

 1985年になって労働者派遣法が制定され、当初は通訳等の対象業務13種に限定することを条件として専門的労働者の需給調整を目的として認められた。長期雇用の正社員の雇用環境悪化を懸念する声があったからである。それが、1999年になって原則的自由化に踏み切られ、ついに2003年には派遣期間を最長3年に延長し、製造業派遣の解禁にまで労働関係規制の緩和が断行された。

 この労働者派遣の法的関係を整理すると、労働者と派遣元企業との間に労働契約関係が存在し、労働者と派遣先との間に指揮命令関係が存在するといった三面関係を構成する形態をとる。

労働者派遣法4条1項によると、労働者派遣事業は、港湾運送業務、建設業務、警備業務その他政令で定める業務を除いてすべての業務について行うことができるとされる(僕の経験上実際は建設業務などでは全く守られていないのが実情である)。

 労働者派遣法26条1項本文によると、労働者派遣契約は、派遣元企業が派遣先企業に対して労働者派遣をすることを約する契約である(このことすら知らずに「派遣労働者は高い報酬を得ているから、この問題を追求するNHK特集は嘘だ!」とサンデープロジェクトでまくし立てて派遣元にピンはねされている金額を勘定にいれていないアホな自称経済ジャーナリストがいたっけ(笑)?)。

 

 とりわけ製造業派遣を解禁した結果、不況期にあって露骨なしわ寄せが派遣労働者に降りかかってき、いわゆる「年越し派遣村」の騒動が起こったことは記憶に新しい。派遣先から物品のように取り扱われた人々が数多発生している現状が、湯浅誠らの地道な努力によって注目されたわけである。

 この雇用形態の問題は散々論じられてきているので繰り返すことはしないが、一つだけふれておくと、労働者派遣においては派遣先企業が優位な地位にあることが否めないので、派遣期間中に労働者派遣契約を解除し、労働者の解雇をもたらすことがしばしばであるということ。労働者派遣法はそのことを見越してか、一応の対策としていくつかの規制を設けているが、実際のところは派遣労働者の雇用環境保護にあまり役に立っていないのではないかと思われる。その一つが、労働者派遣契約の中途解除がなされたところで派遣元企業との労働契約関係は存続しているわけだから派遣元企業による派遣労働者の解雇には解雇権濫用規制(労働契約法16条、同17条1項)の適用があるものの、実際のところは中途解除事由が当該派遣元企業に対する労働義務違反を構成するとの理屈でもって派遣元企業を解雇されるというケースがまま見られることである。法解釈上は、派遣先との中途解除は直接的には派遣元との労働契約関係の解除の客観的合理的理由となるわけではないということになろうが、実際にどのように運用されているのかの実態を観察することが必要だろう。そうすると、派遣法の規制があるからといって派遣労働者は守られるどころか極めて劣悪な状況におかれてしまっている実情がうかがいしれてくる。

 加えて、このような中途解約に仮に否定的な見解がとられていたとしても、派遣労働者が後に訴訟において賃金請求権を主張した場合、通常適用が予想されもするいわゆる危険負担法理における債務者主義の例外規定たる民法536条2項の帰責事由の認定に際して派遣元企業が労働者の債務不履行の存否につき判断することが困難であるからして認めることができないとの理由に基づき反対債務の履行請求を否定する判断が下されるおそれがあり、それがために結局、賃金請求権の主張が認められないことが考えられるし、仮に何らかの金銭給付請求が認められるにしても、せいぜいのところ、休業手当請求の認容にとどまることだろう。これが当該労働者にとってどれほど苛酷な結果をもたらすものであるか、想像に難くない。

派遣労働者にかかるリスクを一方的に背負わせる構造になっている労働者派遣法については早急な見直しが求められるところ、民主党参議院選挙のために改正案提出を見送り(あの内容ですらほめられたものではないが)、参議院選挙惨敗で国会運営上とりわけ「みんなの党」の意向を無視できない状況に置かれてしまった現在、それは当面期待できないだろう。

大企業あるいは口入れ屋さんやらその提灯持ちをつとめる三流学者・評論家(実際、学者としての業績は冷静に見てもゼロというほかない者ばかりなのが切ない。イデオローグというのは概してこのようなものであろうが、戸坂潤もいうように、たとえ三流以下の学者や評論家の言説であっても、その水準の低さから無視を決め込むことは賢明ではない)がまたぞろわいて出てくることにもなろう(既にわいているが(笑))。

 最近、よしゃぁいいのに専門外の分野にもしゃしゃりでてその一知半解ぶりをさらけだしてる某社会学者がまたまたわけのわからんこと言ってるみたいだしね(笑)。

 こういう時、かの小林秀雄の言葉が思い出される。

「例へばテキ屋諸君はテキ屋諸君の符牒を活用する。そして彼等の間では、符牒は実際行為に関して姿をあらはすだけだから、符牒は常に正当な役割を謙譲に演じてゐる。だが、批評家諸君の間では、符牒は精神表現の困難に関して、而も、精神表現の困難を糊塗する為に姿をあらはして来るのだから話が大変違つてくる。この困難を糊塗するといふ事は、別言すれば、自分で自分の精神機構の豊富性を見くびつて了ふことに他ならない以上、見くびられたこの自分の精神機構の豊富性の恨みを買ふのは必定であつて、符牒は勝手に反逆し、自分の発明した符牒が人をまどわすと同程度に当人を誑かす」(小林秀雄「アシルと亀の子?」『小林秀雄全集第1巻』所収)。

 社会科学だか何だか知らんが、その科学的思考とやらを標榜しつつも(よくよく検討するまでもなく、一見して杜撰な論理構成になっていることの多いことよ)、本来あくまで現実のほんの一端に説明をあてがうための道具すなわちハゼを掬う笊でしかなかったはずの社会科学の諸理論をこれみよがしに振りかざして悦に入っているうちに、いつのまにやら、笊をふりまわしてダボハゼを掬うことにとどまりきれず調子に乗って、笊で以てダボハゼ全体の生活を捉えうると信じ込むにいたるという救いがたさ!笑いの種にしかならぬが、御用聞きとして自身がダボハゼになってしまっている滑稽さ!悲劇というべきか喜劇というべきか?

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