小国民13の頭注挿絵

古書市に足を運ぶのは2ヶ月ぶりくらいになる。神保町へ仕事で行ったついでに古書市をのぞいた。何冊か購入した中から、「小国民」第5年13号(学齢館、明治26年)を紹介しよう。

この雑誌は、活版印刷の冊子で挿絵がたくさん掲載されているということで以前から興味を持っていた。いわば近代の書物の最初期の挿絵といえるからだ。近代挿絵がいつから始まったのか、ということについては諸説あるが、私は、この「小国民」が近代と近世の橋渡しをしているものと思って目をつけている。今回購入した第5年13号は、頭注挿絵がたくさん掲載されているのが面白くて、ついつい購入してしまった。脚注というのは読んで字のごとく足の部分にある、詰まり本文の下にある注意書きなどをそう呼ぶ。頭注は本文の上にあるものをさす。

「八十珍」といって、明治になってから新たになったものを江戸時代のものと比較している。つまりbefore & after、使用前VS使用後のようなものだ。天地3cmほどの小さな挿絵だが、文明開化によって一気に機械化され習慣までもが代わっていく様子がよく表現されている。

「御所車が 六頭馬車」「櫂であるく船が 石炭で」などと80の珍しいものが並んでいる。今回掲載しなかったものでも「番傘が 蝙蝠傘」「矢立が 鉛筆」などの物の変化だけではなく「土下座が 敬礼」「将軍御成に人払いが 今の行幸は拝観勝手」など作法や習慣なども描かれていて、よく観察されているのには感激させられた。


最後の80には「早打ち籠が 官用電信となる」とあり、伝言を伝える人が籠に乗って伝えたのが、電話などで伝えられるようになったということだろうか。

大正時代の始めに書かれた板垣鷹穂『芸術機械論』という書物に、機械化が進むことにより人の感性が、それを送るほうも受けるほうも変わってくる。様々な生活用品が機械化によって大量に生産されるようになり、芸術も写真や映画のように機械によって同時にたくさん作られるようになり、これからは、一品制作の絵ではなく、複製物が新しい芸術になる。モチーフとしても機械が用いられるうんぬんという話だが、明治の中ごろから機械化、スピード化、大量輸送などのいわゆる前衛美術がテーマにしたことが始まっていあtことが、この挿絵であらためて認識させられた。