「円本」とは、「一冊一円の本」のことで、市内一円均一の料金で大都市を走ったタクシー「円タク」とともに、昭和初期における文化の象徴であった。1926(大正15)年11月、改造社は『現代日本文学全集』全37巻別巻一冊の予約募集を発表した。




現代日本文学全集』内容見本(改造社、大正15年)



現代日本文学全集』内容見本巻頭ページ(改造社、大正15年)

威勢の良い前文をタイプアップしてみよう。

「善い本を安く読ませる! この標語の下に我社は出版界の大革命を断行し、特権階級の芸術を全民衆の前に解放した。一家に一部を! 芸術なき人生は真に荒野の如くである。我国人は世界に、特筆すべき偉大なる明治文学を有しながら、英国人のセキスピアに於けるが如く全民衆化せざるは何故だ。これ我社が我国に前例なき百万部計画の壮図を断行して全国各家の愛読を俟つ所以だ。日本の第一の誇り! 明治大正の文豪の一人残らずの代表作を集め得た其事が現代第一の驚異だ。そして一冊一千二百枚以上の名作集が唯の一円で読めることが現代日本最大の驚

八、本全集あれば一生涯退屈しない。


予約出版法による予約募集で、申込金一円(最終回配本充当)、その他の細かい規約があった(今日と違って、予約読者以外の一冊売りは原則としてしなかった。だから、奥付に定価の記入はない)。この計画は、不況乗り切り策である。改造社の山本実彦の大胆な賭博行為だと考えられていた。ところが、案に相違して、これが大当たりをとって、予約読者はたちまち二十三万セットにのぼった。のちには四、五十万セットを数えたというが、申込金が出版資金として大いに役立ったわけだ。

杉浦非水装丁、菊判・紙装並製本、6号総ルビつき三段組、平均500 頁、予約定価一円(上製本は、天金、総クロース金文字、1円40銭)。改造社社主・山本実彦は「我社は出版界の大革命を断行し、特権階級の芸術を全民衆の前に解放」すると宣言し、35万余という空前の予約を獲得した。当初は賭博行為と冷ややかな批判ばかりだったが、この勇気ある決断による大成功を目の当たりにした多くの出版社が、次々と改造社の後を追うように全集を刊行することになり、出版界の不況を打開する先駆けとなった。



杉浦非水装丁、『現代日本文学全集』(改造社、大正15年)函入布クロース上製本特装版と、カバー付き並製本普及版

「美しい本の話─装丁、さし絵、製本─」講演が、JR中央線・日野駅前の実践女子学園生涯学習センターで、11月の毎水曜日、10日、17日、24日(いずれも 15:00~16:00)に開催されることになった。受講料は3回分で3,150円。

講演内容は

安さだけではない美しさも備えた円本全集

の3つのテーマ。毎回たくさんの本と映像を使って、マニアックで楽しい講演にしたいと思っております。
詳しい内容、お申し込みは
http://www.syogai.jissen.ac.jp
0120-511-880へ。

77講座ある講座案内の最初の見開きページに私の講座が紹介されているのには、ちょっと驚きでした。どんなにいい場所に掲載されても、受講者が最低10人集まらなければ講座は開催されないきびしい世界だが、すでに開講されることが決まりました。ホッ!よ・か・っ・た・です〜!(戦場カメラマン渡辺陽一風に)

実践女子学園生涯学習センター、2010後期講座案内部分拡大