太田文平『寺田寅彦』表紙絵のモチーフはなぜビワなのか?

 数年前に食べた枇杷(ビワ)の種を鉢に蒔いたのが40〜50cmに育ってきた。枇杷は成長が遅く、「桃栗三年 柿八年 枇杷は早くて十三年」といわれる。が、私は「柚子の大馬鹿18年」と教わった。購入すると高価な枇杷の実だが、最近は公園の片隅などにたわわに実っていてもそれを採取して食べる人は殆どいない。


 人気低迷中の枇杷だが、実よりは葉の方が知られているのでは? 葉はアミグダリンやクエン酸などを多く含み乾燥させてビワ茶とされる他、葉の上にお灸を乗せる(温圧療法)とアミグダリンの鎮痛作用により神経痛に効果があるとされ、テレビCMでもみたことがある。



田島隆夫:装幀、太田文平『寺田寅彦』(新潮社、平成2年)


表紙絵のモチーフがなぜビワなのか? 内容とはあまり関係がなさそうなのだが。恐らくは「はじめに」に、「寺田寅彦の作品に関心を抱いてから、すでに六十年を閲していたのである。」とあるように、やっと刊行に至った作品を、成長が遅いビワに例えたのではないだろうか。単なる内容の解説図でもなく、かといってデザイナーの自己中心的な表現に偏っているワケでもなく、内容と装丁の距離感のバランスが何とも気持いい。