Listen to the patient! 患者の声を聞きなさい

研修医の時に最初に部長に言われた言葉である。
医学生はたくさん勉強する。
特に国立大の医学生だった私は、国家試験対策についていえば
決して効率のいいとは言えないプログラムだったため、
12月から国家試験の3月までは8畳ほどのワンルームは布団を敷く場所もないくらい部屋中、本が積み重なっていた。
当時は3月に医師国家試験だったが、私立大学では夏休み前には卒業試験が終わり、その後国家試験対策に集中する大学が多いとのことだったが、
私の在籍していた東京医科歯科大学は1月末まで卒業試験で3月に国家試験だった。

何が大変かというと国家試験には出題されない科目も卒業試験では詳しく勉強しないといけないのだ。
確か、20教科くらいあったんじゃないかと思う。
皮膚科、眼科、耳鼻科などマイナー科と呼ばれる科目は年度によって出題されない年もあるのだが、卒業試験は全教科なのだ。
さらに、私はアメリカの外国人向け医師国家試験のUSMLEまで受けることにした。
ある人からの助言により12月から突然勉強を始めたのだった。
母からは
「頼むからアメリカの試験は止めてちょうだい、日本の国家試験落ちたらどうするの」
と懇願されたが、気に留めずに自分の目標しか見えてなかった。
そんな試験勉強づけの毎日だったが、大学入試に比べたら大したことなかった。
そして、国家試験合格後、5月に研修に入った。
内科研修の後、眼科に入局し外来の陪席や手術の助手に入ることになった。
そこで言われたのが、
"Listen to the patient!"
だった。
教科書や本よりも、患者さんの声をきくことが一番の教科書なのだ。
ついつい、それまで本から習得することに特化していた私で、
患者さんの所見と採血などの客観的データに目がいきがちである。
しかし、本やデータだけでなく、患者さんの話は様々な発見の源になるのだ。
この言葉の大切さは10年以上経つ現在になってさらに実感している。
効率性を考慮しすぎて声を聞く暇もない外来もある。
実際に私が経験した精神科クリニックでも、
忙しくて詳しく話を聞けないこともあったり、
また産業医として関わる社員が受診したクリニックでも、
「話を聞いてくれない」という声はしばしば耳にする。
その患者さんの病気の背景要因を主治医が把握せず投薬だけという状態も
ときどき見られる。
これは、産業医先の社員の紹介先を慎重に選択しないといけないゆえんである。