世界格闘技の日

一条真也です。
6月26日は、「世界格闘技の日」です。40年前の1976年6月26日、プロレスラーのアントニオ猪木とプロボクサーのモハメド・アリが「格闘技世界一決定戦」を行いました。そんな記念すべき日なのですが、日本記念日協会が「世界中が注目し、その偉業は現在へ続く全世界レベルでの総合格闘技の礎となった試合」と評価し、正式に記念日に制定したのです。


「世紀の一戦」のことは、よく記憶しています。わたしは中学1年生でした。
試合は土曜日の昼間に行われ、米国へも衛星生中継されました。日本ではその日の夜にも再放送され、昼夜合わせて視聴率は50%以上を記録しました。本当はわたしは学校を休んで昼間のテレビ観戦をしたかったのですが、親が許してくれませんでした。今から思えば、なぜあれほど話題性のある(視聴率が取れる番組)を土曜の夜か、日曜日に行わなかったのでしょうか。当時は今のように週休二日は普及しておらず、土曜日はみんな学校や会社に行っていたのです。また、今のようにネットが発達していたら、昼間の試合結果はすぐ情報拡散して、夜の番組では視聴率が望めなかったでしょう。


そんなふうに思っていたところ、『永久保存版 アントニオ猪木vsモハメド・アリ40周年記念特別号』週刊プロレス責任編集(ベースボールマガジン社)を読んで、長年の謎が解けました。同書の「猪木vsアリはすべての原点である」という記事に以下のように書かれていたのです。
「当日のゴングは米国のゴールデンタイムに合わせて午前11時50分に設定され、米国、カナダ、英国の約170カ所でクローズドサーキットも実施された。つまり日本よりも海外での生中継が最優先されたことになる。よって日本では昼の時間に中継された後、夜にも再放送(!)。なおかつNHKのニュースでも報じられたことを考慮すると、日本のみならず世界規模で非常に注目度の高い一戦だったことは間違いない」


試合は、猪木が寝転がった状態からアリの足に蹴りを仕掛け、アリのパンチが届かず攻めあぐねる展開でした。結局、両者決め手に欠け、15ラウンド引き分けに終わりました。 当時、ルール説明の不徹底から酷評された一戦も、アリ側からの厳しい要求によるルール上の制約があったためで、猪木側にとっては不利なルールであったことがのちに判明しています。現在の総合格闘技でも、片方が寝て、片方が立っている状態を「猪木・アリ状態」と表現し、寝ている選手が放つ蹴りは「アリキック」と呼ばれています。
いま、DVDで「世紀の一戦」を観直すと、15Rをひたすら寝て闘う猪木の姿に感動すら覚えます。


じつは、アリは猪木戦以外にもプロレスの試合を何度も行っていました。
アリは幼少の頃より大変なプロレスファンだったと自伝にも書いています。
アリ少年のアイドルは「吸血鬼」「銀髪鬼」と恐れられた大ヒールのフレッド・ブラッシーでした。後年のアリのビッグマウスは、ブラッシーから影響を受けたとされています。熱心なプロレスファンであったアリは、プロレスの仕組みを熟知していました。アリと戦ったレスラーたちは、アリに完敗することを事前に義務づけられたワークをリング上で演じたのでした。


アリは、当然ながら猪木戦も同じようなワークをやるものだと思って来日にしたといいます。しかしながら、猪木はアリと真剣勝負で闘う決意であることを知り愕然とします。アリは、自分が負けるとは思っていないにしても、万が一ケガをさせられては大損害だと焦りました。その結果、アリ陣営が猪木に突き付けたのが、かの「がんじがらめルール」でした。華やかには欠けたものの、世紀の一戦は、正真正銘セメントマッチ(真剣勝負)だったのです。現在でいうMMA(総合格闘技)の原点でした!


ブログ『1976年のアントニオ猪木』で紹介した本で、著者の柳澤健氏は猪木・アリ戦について詳しく書いています。その柳澤氏は現在発売中の「ゴング」14号で「『INOKI 1976』最新の語り部が猪木vsアリ戦の深層を語る。」として、同誌のインタビューに答えています。そこで柳澤氏は、「アリには“殺してしまうかも”という恐怖があり、猪木には“ヘビー級チャンピオンのパンチをまともに食らったらどうなるかわからない”という恐怖があった。そこに踏み込む猪木さんはやっぱり凄いよ!」と語っています。


ゴング 14号 (Town Mook)

ゴング 14号 (Town Mook)

また、同じインタビュー記事で、柳澤氏は以下のようにも語ります。
「40年前に、レスラーとボクサーの真剣勝負が存在して、しかもやったのがアントニオ猪木モハメド・アリだったということが凄い。UWFもPRIDEも、みんな猪木vsアリの延長線上にある。総合という概念を生み出した佐山(サトル)さんの発想だって、猪木さんの異種格闘技戦が原形なんだから、偉大としかいいようがない」
わたしは、この柳澤氏の発言に100%同意します!


ブログ「世界最強の男」にも書きましたが、わたしは幼少の頃から強い男に憧れていました。「柔道一直線」の主人公・一条直也に憧れ、「空手バカ一代」の大山倍達に憧れ、ウルトラマン仮面ライダーに憧れました。
誰の発言だったかは忘れましたが、「男は誰でも、最初は世界最強の男を目指していた」という言葉が強く印象に残っています。


「世界最強の男」に憧れていました!



小さい頃、男の子は誰でも強くなりたいと願う。それが叶わないと知り、次に「世界で最も速く走れる男」とか「世界で最も頭のいい男」とか、長じては「世界で最も女にモテる男」や「世界で最も金を稼ぐ男」などを目指す。つまり、世界最強の男以外の「世界一」はすべて夢をあきらめた落ちこぼれにすぎないのだという意味ですね。極論のようにも思えますが、「速さ」や「賢さ」や「魅力」や「金儲け」などより、「強さ」こそは男の根源的にして最大の願望であることは事実かもしれません。


ブログ「アリよさらば!」にも書いたように、今月4日、プロボクシングの元世界ヘビー級王者モハメド・アリが、アメリカ・アリゾナ州の病院で死去しました。死因は敗血症性ショックとのことで、74歳でした。
今日は、「ザ・グレーティスト」であったアリを偲ぶ日でもあります。
また、この「世界格闘技の日」の制定をきっかけに格闘技ブーム、プロレスブームがもう一度起こることを心から願っています。
それにしても、人生最大のライバルと戦えた猪木氏は幸せな方ですね。
1ヵ月後の7月27日、わたしは島田裕巳氏と対戦、もとい対談します。



*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2016年6月26日 一条真也