たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。
そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。
その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。
今回ご紹介するハートフル・キーワードは、「与」です。



「他人に与えるものの多い人が、より多くを得る」というのは、人生の法則の1つです。
ここで注目すべきは、「多くを得る」という点です。これは、何も金銭的な報酬を売ることに限りません。むしろ、多くの人々に感謝される場合だとか、自分ではなくて家族や子孫が恩恵を受ける場合もあります。



よく「ギブ・アンド・テイク」という言葉が使われます。これは一見すると、「多くを与える者は、多くを得る」という法則と同じようです。しかし、実は2つの考えは対極に位置しています。ギブ・アンド・テイクの方は「〜が欲しいから」という前提があっての「〜を提供しよう」、つまり「与えよう」です。一方、「多くを与える者は、多くを得る」という方は、「〜を得よう」という前提から出発してはいません。その人は、ただただ提供する人です。見返りや報酬を期待しながら、与えてはいない人です。



評論家の福田和也氏は「どうすれば、モテるか」ということを考え抜いた結果、「与える」という行為が重要な意味を持つことを悟ったといいます。モテる人間は実在します。彼らは、なぜモテるのでしょうか。それは、彼らが贈与関係を巧みに利用しているからだと福田氏は言います。多くの人は認めたくないかもしれないが、若い人を見回してみても、男女を問わず、お金を持っている、あるいは、お金を持っていると思わせることに長けた人たちが、ある意味モテていることは確かです。彼らは、より多くを与えうるという期待を周囲に抱かせるのです。



これは、金銭だけではなく、性についても同様です。例えば、若い頃は、デートに気軽に応じてくれる、簡単に体を許してくれる、そういう期待を抱かせる女性がモテていたことは事実です。これもひとつの贈与関係だからです。知性というのも武器になりえます。この人とつきあうと、自分も頭が良くなるんじゃないか、それは無理でも、つきあっているという事実だけで、自分まで知的に見えるような満足感を得ることができます。



強い男や優しい女に魅力を感じる人も多いでしょう。この場合は、安心感を与えるわけです。要するに、あげるものがなければモテないのです。「持てる」人が「モテる」ということなのです。そして、これは精神論のみならず、物理的な意味でも真理です。つまり、プレゼントのことですね。ケチよりもプレゼント魔に人気者が多いというのも人類普遍の法則なのです。
なお、「与」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。


龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2015年11月21日 佐久間庸和