『「論語」に帰ろう』

一条真也です。

『「論語」に帰ろう』守屋淳著(平凡社新書)を読みました。
著者は、中国古典分野での第一人者として知られる守屋洋氏の息子さんです。
お父さんと同じく、中国古典の研究家です。


                 日本人の基本がここにある。


著者は、本書の「プロローグ ――日本人を育んだ『論語』」で、『論語』とは、われわれ日本人がぜひとも知っておくべき古典の一つに他ならないと述べます。
なぜなら『論語』を知ることは、われわれ日本人の「無意識の思い込み」を理解することに直結するからだというのです。
たとえば、現代日本における社長の給料の安さなども、『論語』を中心にした儒教教育の余波であると著者は述べます。2008年の世界的な金融危機の際、アメリカのCEO(最高経営責任者)の年俸の高さが大きな話題となりました。
会社を破綻させたにもかかわらず、その責任者たちに数億円から数十億円という、一般社員の数百倍の年棒や退職金が払われていたのです。
一方で、日本の会社社長の年棒はせいぜい数千万円であり、新入社員の年収のわずか十倍から三十倍程度しかありません。
著者は、ここには、江戸時代以来の儒教教育の影響が強く見られるというのです。
もともと『論語』では、人の上に立つ人間は利益を追求するべきではないという考え方があります。これが江戸時代における武士のモラルとなりました。
やがて日本人に「リーダーは、高額の報酬を求めてはならない」という風潮や空気を作り出していったと推測されるわけです。



また、日本人は会議などで、必要以上に控えめな態度を取ることで知られています。その理由として、著者は2つの理由を次のように推測しています。
まず1つめの理由として、「集団でいるときに『空気を読む』ことが染みついていて、誰かが口火を切るのを待ってしまう傾向がある」と述べています。農耕民族であった日本人は、一律の集団作業を繰り返してきました。そのため横並びが習い性になってしまい、それが「空気を読む」原因になったというのです。確かに現在でも日本人は一律になびくところがあり、「KY」などという言葉が一般化しています。
もう1つの理由として、著者は、ここにも『論語』の影響を見ることができると述べます。
本書は、もちろん『論語』入門でもありますが、ある意味で日本文化論としてもユニークな内容となっています。


親子二代で『論語』を学び習った著者は、「〈仁〉と〈恕〉――世界に、未来に愛を広める」、「〈知〉と〈勇〉――人の上に立つ人間に欠かせない徳」、「〈天命〉――自分の人生を見出し、生きる」、「孔子の生涯」、「『論語』が世界に与えた影響」の5つの章で、現代人に『論語』のツボを指南します。



興味深かったのは、『論語』における「君子」のリーダーシップを語る上で、著者がピーター・ドラッカーの言葉を何度か引用しているところでした。
10年ほど会社勤めの経験があるという著者は、次のように述べています。
「『この上司なら、ついていこう』と思う最大の動機は、孔子ドラッカーの指摘のように『人柄』や『品性』、『真摯さ』に尽きるところがあります。いくら仕事ができたり、立派なことを口にする上司でも、平気で二枚舌をつかい、保身に走り、倫理観に低ければ、信用してついていく気にはなれません」
さらに、著者は続けて次のように述べます。
「結局、部下がついていこうと思う『身の正しさ』とは、『そう思わせるに足る人柄と実践』がキモなのです。裏を返せば、いくらご立派な徳目を学んで知識として持っていても、それが本人の行動と切り離されていては、意味がありません」
孔子とドラッカー』(三五館)を著し、両者の思想に「人間尊重」という共通項があると訴えるわたしにとって、非常に共感できる本でした。


                    ハートフル・マネジメント


2011年2月8日 一条真也

初牛

一条真也です。

東京に来ています。
昨日から、伊藤忠本社で打ち合わせをしたり、全互協本部でCMの最終チェックなどをしました。今日も、各種の打ち合わせや面談の予定などが入っています。


                  「産経新聞」2月8日朝刊より


今朝、ホテルで朝食を取りながら、「産経新聞」を読んでいました。
産経には南ひろこ作「ひなちゃんの日常」というマンガが連載されています。
主人公の「ひなちゃん」が次女の小さかった頃に似ているので愛読しているのですが、今日は「初牛(はつうま)」がテーマでした。
初牛とは2月の最初の牛の日です。稲荷社の縁日として知られています。
稲荷社の本社である京都の伏見稲荷神社に神が降りた日が和銅4年のこの日であったとされています。この日は、蚤や牛・馬の祭日とする風習もあります。
江戸時代には、この日に子どもたちが寺子屋に入門したそうです。
寺子屋では、『論語』の素読を徹底して行ったことはよく知られていますね。


                      豊川稲荷にて

                   初牛は稲荷社のお祭りです

                  多くの人でにぎわっていました

                 真向かいは東急エージェンシーです


わたしは、執筆中の『世界一わかりやすい論語の授業』が無事に完成し、多くの読者を得ることを願って、東京の赤坂にある豊川稲荷を訪れることにしました。
ブログ「豊川稲荷」に書いたように、かつて勤務していた東急エージェンシーの真向かいに位置し、東京を代表する稲荷社として知られている場所です。

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                 ジャニーズ事務所も奉納しています

                   森光子、東山紀之の名前も


東京に本社を置く企業の経営者をはじめ、多くの人々が奉納しています。
あのジャニーズ事務所のメンバーが信仰していることでも知られています。
奉納の証となる提灯には、ジャニーズ事務所をはじめ、堂本光一堂本剛東山紀之滝沢秀明今井翼、といった名前もありました。
そして、なぜか東山紀之さんの横には「森光子」さんの名前も・・・・・。ちなみに東山さんの提灯には「芸道精進」、森さんの提灯には「健康成就」と書かれていました。


               油揚げが貼り付けられたキツネの石像
                    手水場の二頭の龍


豊川稲荷は非常に幻想的なムードに包まれています。
数多くのキツネの石像もリアルで、今にも動き出しそうな感じです。
そのキツネの石像には、油揚げが貼り付けられていました。
また、今日あらためてよく観察したのですが、手水場には二頭の龍が絡み合っており、これまた神秘的な雰囲気を醸し出しています。


                   「幸福之小槌」の御主人

                  さまざまなグッズを買いました


縁日というだけあって、多くの露店も出ていました。わたしは「幸福之小槌」と書かれた店に立ち寄り、さまざまな御利益グッズを買い求めました。テレビに何度も出演したことがあるという御主人から、それぞれのグッズの由来を聞きました。
それにしても、豊川稲荷全体が一種の異様な熱気に包まれています。
わたしは、稲荷信仰という民間信仰のパワーを思い知らされた気がしました。
稲荷信仰については、拙著『知ってビックリ! 日本三大宗教のご利益〜神道&仏教&儒教』(だいわ文庫)にも詳しく紹介しています。
「ご利益」という視点から、日本人の「こころ」をさぐった本です。
もし機会がありましたら、ぜひ御一読下さい。


                   日本人の「こころ」がわかる本


2011年2月8日 一条真也

映画人

一条真也です。

東京に来ています。
いくつかの打ち合わせを済ませた後、赤坂で「出版寅さん」こと内海準二さんと待ち合わせをしました。今日は、内海さんがある映画関係者を紹介してくれるのです。
その方の名前は、新藤次郎さん。わが国を代表する映画プロデューサーであり、なんと日本映画界最高齢である新藤兼人監督の息子さんです。
新進気鋭の女流監督である新藤風さんのお父さんでもあります。


                      新藤次郎さん


内海さんと一緒に、わたしは赤坂サカスのすぐ近くにあるシナリオ会館を訪れました。
ここに、新藤次郎さんが代表を務める近代映画協会が入っているのです。
ブログ「鬼婆」ブログ「藪の中の黒猫」、そしてブログ「裸の島」からもおわかりのように、わたしは新藤映画の大ファンです。特に、「裸の島」には大きな衝撃を受け、拙著『葬式は必要!』(双葉新書)にも紹介させていただきました。
その「裸の島」への熱い想いを早速、新藤さんにお伝えしたところ、とても喜んで下さいました。また『葬式は必要!』も読んで下さったとのことで、感激しました。



               「裸の島」のお話をいろいろお聞きしました


「裸の島」製作の裏話もいろいろお聞きしました。
あの映画に出演していたプロの役者は乙羽信子殿山泰司の2人だけで、子どもの兄弟も、僧侶も教師も、みんな現地の人たちだったそうです。
そして、観客の感涙を誘った兄弟役の2人も、すでに亡くなられているそうです。
映画の中で病死した兄役の人は、つい最近まで存命で、広島の映画記念館の館長をされていたとか。その他にも、いろいろな貴重なエピソードをお聞きしました。
「裸の島」は、今でも世界中で上映されており、絶賛を受けているそうです。





今日は、「裸の島」や小倉の物語である「無法松の一生」のリメイクの可能性などについても意見を交換させていただきました。大好きな映画の話がたくさんできて、非常に有意義かつ楽しい時間を過ごすことができました。
新藤さんは、これまで「パートナーズ」(2010)、「能登の花ヨメ」(2008)、「転がれ! たま子」(2005)、「雨鱒の川」(2003)、「群青の夜の羽毛布」(2002)、「祈り梅」(2001)、「三文役者」(2000)、「生きたい」(1999)、「午後の遺言状」(1995)などの名作・話題作を数多く作ってこられました。


                  「一枚のハガキ」のチラシ


そして最新作は、「一枚のハガキ」です。監督は、98歳となる新藤兼人監督です!
主演は、豊川悦司大竹しのぶ。日本映画界を代表する実力派の2人です。
「一枚のハガキ」の映画チラシには、次のように書かれています。
「98歳の日本最高齢映画監督・新藤兼人が、反戦への強い意思をこめ、
“戦争が庶民にもたらす悲劇”と“たくましく生きぬく力の素晴らしさ”、
そして、“再生と希望”を描ききった、集大成とも呼べる傑作。
新藤自身『映画人生最後の監督作品』と語る、
最後にして最高の一本が、いよいよ今夏公開となる」



この「一枚のハガキ」は、第23回東京国際映画祭審査員特別賞を受賞しました。
同映画祭の審査委委員長は、映画監督のニール・ジョーダンが務めました。
彼は、「一枚のハガキ」について次のようなコメントを寄せています。
「16歳の時、ダブリンで新藤兼人監督の『鬼婆』と『本能』を観て、大きな影響を受けました。その新藤監督がコンペティションに参加している映画祭で審査委員長を務められたことは、とても光栄です。とても美しい、いい映画でした」
今年の夏に公開される「一枚のハガキ」を観るのが、今からとても楽しみです。
なんでも、この映画には葬儀の場面も4〜5回登場するそうですし・・・・・。
新藤さん、今日はお会いできて嬉しかったです。
今後とも、よろしくお願いいたします。


2011年2月8日 一条真也