『鞄 図書館』

一条真也です。

『鞄図書館』第1巻、芳崎せいむ著(東京創元社)を読みました。
ブログ『金魚屋古書店』シリーズで紹介したコミックと同じ作者による作品です。
主役は、あらゆる書物を所蔵するという、幻の「鞄図書館〉」です。
不思議な鞄と司書の2人が世界を巡り、出会った人々と温かな交流を繰り広げます。


あらゆる本を揃えるという、幻の「鞄図書館」



現在、コミックの世界には「図書館もの」というジャンルがあるようで、本書をはじめとして、『夜明けの図書館』とか『図書館の主』とか『永遠図書館』といった作品がよく読まれているようです。大の本好きであるわたしは、もちろん図書館も大好きですので、こういったジャンルが育ってくれることは何とも嬉しい限りです。でも、本書『鞄図書館』は単なる図書館ものというよりも、摩訶不思議なファンタジーの部類に入るでしょう。
なにしろ、ひとつの鞄の中が途轍もなく広い空間になっていて、その中に、この世のありとあらゆる本がすべて納まっているという話なのですから・・・・・。



本書の帯には「出会いと知識を詰め込んだ、不思議な鞄の物語。」と大きく書かれ、「あらゆる本を揃えるという、幻の『鞄図書館』。あなたのお探しの本も、ここにあるかもしれません・・・・・」と続きます。鞄図書館の司書を務めるおじさんは、世界中いや、あるときは異世界にまでも足を延ばして本を貸し出します。
貸与期間は1年間で、そこにさまざまなハートフルなドラマが展開していきます。
それぞれのエピソードは約10ページ前後と短いですが、どれも内容が濃いです。
そして、登場する本たちのラインナップの渋いこと!



名作絵本の『ぐりとぐら』にはじまって、英国人エドワード・ウエバリーを主人公とする歴史小説『Waverley』、谷川俊太郎訳の『マザー・グース』。
アガサ・クリスティの『アクロイド殺害事件』、ダシール・ハメットの『血の収穫』。
ラヴクラフトの『ネクノロミコン』、ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』、大阪圭吉の『とむらい機関車』、日本聖書協会の『聖書』、エドガー・アラン・ポーの『黒猫』。
レイ・ブラッドベリの『10月はたそがれの国』と『スは宇宙(スペース)のス』。
本書の版元が東京創元社で、もともとが同社のミステリ専門誌である「ミステリーズ!」に掲載されていたためでしょうか、創元推理文庫とか創元SF文庫が多いのが目につきますね。でも、それぞれの本たちはじつに魅力的に描かれ、なんだか読みたくなってきます。また、鞄はことあるごとにゲーテの言葉を持ち出しますが、これも味わいがありました。本好きには、たまらない短編集でした。早く、第2巻が読みたいです。


*このブログ記事は、1992本目です。


2012年8月29日 一条真也