昨日と今日

05年02月03日(木)

[][][][] Macユーザーとして松下電器に抗議する

ITmediaニュースジャスト一太郎」の販売中止を命じる 松下アイコン訴訟判決*1

すでに色々な所で話題になっている判決ですね。*2


さて判決文ですが、

http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/c617a99bb925a29449256795007fb7d1/79b15c35c791549249256f9b0023169e?OpenDocument

アイコンは,前記1(3)で認定したとおり,「表示画面上に,各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示して,コマンドを処理するもの」であって,現実のキーボードのキーと対応する必然性はなく,むしろ現実のキーボードのキーに存する数量的あるいは位置的な制約を離れて,多様な機能を自由に担わせることができるものであって,この両者の間には,なお質的な相違が存在しているといわざるを得ない。

つまり松下特許は「多様な機能を自由に担わせることができるアイコンを選択することによる機能説明」に新規性が存在するとされているようです。

実際、出願情報審査フリーワード記事に「表示項目の選択で機能説明表示」とありますね。

しかしながら、古くからのMacユーザーなら知ってる通り、アイコンを選択することによりその機能を説明するヘルプ機能は、System7のBalloon Helpを待つまでもなく、System6の時点で既知の技術でした。

http://www.mactech.com/articles/mactech/Vol.03/03.11/HelpSystem/index.html

Context Sensitive Help

On-line context sensitive help is an implementation of Apple’s guidelines of giving the user extra help without referring him to external documentation. By the very nature of context sensitive help, it must be initiated from within the program. We suggest that you implement context sensitive help in two steps: (1) When the user hits ‘Command-?’, convert the pointer to a “?”. (2) When the user selects anything on the desk top with the “?” pointer: an icon, a menu item, or a field in a document, make your program call the Help desk accessory and passes it a parameter that indicates which message should be displayed. (See figure 7, Extended Alerts)

このMacTechの記事は1987年のものです。

上の引用部分によると、commandキーと?キーの同時押しにより、カーソルが?に変化し、次に画面上のアイコン、メニューアイテム、文書のフィールドなどを選択することにより適切なヘルプが表示される機能の実装をデベロッパに促しています。*3

もう一点、松下特許は「機能説明用アイコン」の表示にもポイントがあるように見えます。

しかしながら同じMacTechの記事に

Invoking Help

There are three ways in which users can activate the Help desk accessory: (1) From the Apple Menu, (2) using ‘Command-?’ if you have implemented Help In Context and, (3) pressing the Help button in an alert box if you have implemented Extended Alerts.

ヘルプ機能の実行には1)メニューから、2)キーコンビネーションから、3)ヘルプボタンから、の3つがあるとしています。

Macにおける「ボタン概念には当時アイコンを含むものも含まれていたことはHyperCardの記事などからも明らかでしょう。

http://www.mactech.com/articles/mactech/Vol.03/03.10/HyperCardProgramming/index.html

この1987年のHyperCardに関する記事には、Helpアイコンクリックすることによって、画面上に機能説明を表示する方法について書かれています。*4

松下特許は「Helpアイコン」から「Context Sensitive Help」を呼び出せるようになっているだけであり、「表示項目(アイコン)の選択で機能説明表示」という核心部分の技術松下独自の発明ではないことが理解できます。

したがって松下1989年10月出願の特許は以上の1987年MacTech記事を知るものなら容易に想到できたレベルのものと評価せざるを得ないです。

(05/2/5追記:当時の日本は刊行物公知に関しては既に世界主義をとっていたようで、マルチウインドウシステムが争点になった訴訟ではカシオ特許の無効が認められた例があるようです。*5

知的所有権保護が叫ばれる昨今ですが、我々が守らなければならないのは、この松下特許のようなレベルの低いものではなく、むしろ今回敗訴したJustSystem日本語変換に関する独自の技術などではないでしょうか?

正当な権利の行使と言う人もいるでしょうが、このような些末なUIに関する特許とその権利の濫用は、日本ソフトウェア技術のレベルの向上を阻害するものでしかないでしょう。

IBMが自身の持つ特許500件をオープンソースに無償提供*6したのと対照的であり、日本社会ソフトウェアやIT技術に関する理解が、あまりにも低すぎる*7ことを証明した判決だと思います。

松下製品の購入を止め、松下イメージが非常に悪いことを表明することで、こうした権利濫用の動きに抗議していくべきなのではないでしょうか?*8

この記事に関連するエントリ

アイコンとicon

http://d.hatena.ne.jp/shiomaneki/20050206/p1

続・アイコンとicon

http://d.hatena.ne.jp/shiomaneki/20050207/p1

まとめ

http://d.hatena.ne.jp/shiomaneki/20050207/p2

*1 ジャスト「一太郎」の販売中止を命じる 松下アイコン訴訟で判決 - ITmedia ニュース

*2:ちなみにこの記事は2chのななしさん情報によるところが大です。情報提供者の方、ありがとうございますた

*31987年当時のMacintoshはSystem4であり、まだMultiFinderは登場していません。したがってMacTechの文脈ででてくる、デベロッパがContext Sensitive Helpを実装しなければならない「icon」とは、デベロッパ自身のアプリケーション内で使用されている「icon」のことであると考えられます。05/02/06追記

*4:この1987年刊行のMacTech記事の図に見るように、HyperCardのボタン属性設定ダイアログには「Icon...」というボタンがあります。この「Icon...」ボタンからボタンアイコンを貼付けることが出来ます。scriptを設定すれば、「絵又は絵文字として表示して,コマンドを処理するもの」という先の判決で出された「アイコン概念に該当するものを実現できます。05/02/06追記

*5no title

*6 IBM?A500???????????I?[?v???¥?[?X???u?????v - ITmedia エンタープライズ

*7:理解が貧困である例:新規サイト 共通エラーページ asahi.com : ネット最前線 : 朝日新聞ニュース

*8no title

矛盾は特許制度にあり矛盾は特許制度にあり 2005/02/14 20:22 古くからのMacユーザーとして「特許性がない」という抗議の趣旨は理解できますが、この抗議は「松下電器」ではなく、まともな技術的な判断ができない「特許庁」に対して行われるべきものです。そもそも「社会の発展に貢献すべき特許制度」が、結果としてあたかもその趣旨に逆行するような制度に堕落したのも特許庁や国の政策の結果ではないでしょうか。長年特許を書いてきましたが、10年ほど前から、この特許制度の矛盾に悩み、出願する意欲がなくなりました。松下電器としての問題は、出願され権利化された特許の運用が、現場を離れ「純ぜんたる権利行使や利益確保のみに走る」本社機構の世間知らずな行為に結びついたことにあると思います。

HiroHiro 2005/02/15 01:47 特許庁がお粗末なのはもちろん許せませんが、そうして獲得した特許を名だたる電機メーカーである松下がこうした形で訴訟を起こして攻撃するのが許せない、というのが一般的な感情ではないでしょうか。

hhhhhh 2005/02/15 15:38 興味深く拝読しました。
今回の判決に憤る人がなすべきことは、実効性に乏しい不買運動よりもむしろ、該当特許を無効にする理由=先行技術の探索及び提示を行うことにあると考えます。
本記事は、一審の判断(本件特許に無効理由が存在することが明らかか否か)で
参照・言及されていない先行技術(MacTech誌、HyperCard)を明らかにしている点で有意義です。ジャストシステム側に通知してもいいかもしれません。
あと、特許庁の先行技術調査能力も当然に有限なので、新規性・進歩性に疑義がある特許が成立してしまうことがあるのはやむを得ない部分があります。特許庁の先行技術調査能力の向上には多大なコストが必要で、そのコスト増を賄うには出願料、審査請求料の引き上げが不可欠です(同種の問題が米国でも議論されています)。そして、出願料、審査請求料の引き上げにより、ベンチャーや中小企業に著しい不利が発生しかねません。

PatentPatent 2005/02/19 19:08 「新規性」と「進歩性」の区別をはっきりさせた方がよいと思います。裁判で争われたのは「進歩性」です。当然「新規性」と「進歩性」では特許無効の主張ロジックも異なります。今回のケースは「新規性」を否定できる先行技術が見つからなかったためにジャスト側が苦労しているのだと思います。

しんごしんご 2005/02/21 00:17 「一太郎」のアイコン訴訟では、論理のすり替えがおこっていて、みんなそれにごまかされているように思います。「一太郎」画面上の「マウスの絵と?の書かれたボタン」を押したあと、第2のボタンをクリックすると、第2のボタンの機能が表示されるのが、松下の特許の、「第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて、前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段」にあたる、という議論はまったくおかしい。
まずボタンそのものはアイコンでないという立場にたちます。Hypercardではボタンとアイコンを区別しているようですので。
「一太郎」のヘルプボタン上のマウスの絵はアイコンであって、「?」の字はアイコンでないのなら、両方書いてあるボタンをおすことは、マウスの絵を指定することになるのか、「?」の字を指定することになるのか、マウスのアイコンと「?」の両方が合わさったものもアイコンなのか。操作する者がやっていることは、画面上のボタンを押していることであって、ボタン上のアイコンを指定していることではないと思います。ここが論理のすり替えではないでしょうか。画面上のボタンをおすことによって、カーソルの機能が変わるのは、Hypercardで1988年10月までにやっていたことではないでしょうか。ツールパレットの「ボタンのアイコン」のついたボタンツールをクリックしてカーソルにカード内のボタン選択機能をもたせることはすでに行なわれていたことではないでしょうか。ボタンツールをクリックするかわりにキーボードからcommannd-tab-tabを押しても同じことができました。そこから「command+H」のキーボード操作を画面上のボタンクリックで代行することまではほんの1歩もないと思います。また、画面上のボタンを押してヘルプ機能を呼び出すのが、独創的かどうかが問題であって、そのボタン上に字がかいてあろうが、アイコンで説明がついていようが、些末なことではないでしょうか。ボタンにアイコンをつける程度のことで特許になるのでしょうか。Hypercardではボタンに字を書くことも、アイコンを張り付けることも日常茶飯事ではなかったかと思います。
長くなるので、残りはまた明日。MacTechのサイトが見えなくなりました。陰謀でなければいいのですが。

patenpaten 2005/02/21 21:52 「新規性」を否定するにはその物ズバリの単独の証拠がなければダメです(特許法29条1項)。「進歩性」を否定するには複数(多くなると説得力無し)の証拠を組み合わせることの必然性が片方の証拠に明示されているか、当時当たり前に組み合わされていた(阻害要因がなかった)ことを示す必要があります(特許法29条2項)。ここで示されている資料と発明の違いは画面に第1のアイコンと第2のアイコンが同時に表示されているか、さらに、ポップアップヘルプを表示させるのにユーザーは2アクションだけで目的を達成できるのかの点と思います。この作用効果に差が出るのであれば進歩性を否定することはできないと考えます。審査時とは異なって、いったん登録になった特許を無効にするのは至難の業で、特に今回の特許は他社からの異議申し立てもはねつけて登録されているようです。このあたりを考えるとジャストはかなり頑張って応戦したと思いますが、無効審判ではなく、裁判で無効にするには上記に加えて「明白事由」(特に高裁以上)を必要としますので、無効化は大変難しいと思います。裁判長が批判されていますが、中立的の特許弁護士から見れば、裁判長は民事の弁論主義にしたがって判断しただけで、独断的な判断は見つからないと思います(私は特許弁護士ではないです)りません。進歩性でもう少しジャストの身になった裁量をして欲しかったという面はあるかもしれません。

PatentPatent 2005/02/21 21:59 ごめんなさい。上記のpatenとPatentは同一人です。

PatentPatent 2005/02/21 22:10 たびたび、ごめんなさい。論理のすり替えに対する疑問を投げかけておられるのですよね。これについては「絵が書いてなかったらアイコンではない」としてジャストが勝訴した前回の訴訟(ジャストが松下を提訴)の判決文、場合によっては準備書面まで見ないと、なぜそのようにねじれたのか判断できません。双方のうちどちらかがそのような結論に至らせる弁論をしないとこのようなねじれは起きないと思います。これも含めてジャスト側は勝てるロジックを組む必要があるのではないでしょうか。

しんごしんご 2005/02/22 23:00 patentさん。そのものズバリの証拠でないとダメというのはきびしいですね。でもジャストシステムは、このサイトで紹介されたMacTechの記事を掲げるともう少し善戦できると思います。HyperCardのHelp iconの絵というのは、ボタンにはりつける他に使い道のないものです。Help ボタンによってポップアップヘルプを呼び出す以外に使い道のないものです。MacTechの「HyperCardにかんする別の記事」にはこのHelp iconの絵が載っているのですから、そのものズバリの証拠でなくとも、「アイコンのついたボタン」でポップアップヘルプを呼び出すアイデアが公知のものであったと主張するのは簡単です。「新規性」はあるかもしれないが「進歩性」はないと言えるでしょう。
また裁判官の論理はしろうとの私にはやはり理解できません。裁判官はボタンはアイコンでないという立場で判決を書いています。ボタンの上に字(?)で説明があれば、アイコンでないから特許にふれないと言っているのです。画面上に二つのボタンがあって、「ポップアップヘルプを表示させるのにユーザーが2アクションだけで目的を達成でき」ても、ボタンの上がアルファベットの文字たとえば「c」「x」「V」「H」などばかりであったら、それはアイコンでないから、特許に触れないと言っているのです。おかしいでしょう。アプリケーション画面の「ボタン」がどんな機能であるかを知らせるのが、このポップアップヘルプの主たる役割なのですから。なんのための特許でしょうか。また、松下の特許の実施の1例をみると、スクロールバーをアイコンと呼んでいるのです。スクロールバーがアイコンであるなら、ボタンもアイコンとしてよいと考えるのが普通でしょう。(ボタンというのは、ワンクリックで、コンピュータにある動作を実行させるものです。)特許を曲解して判断するようなことをやっている。裁判官は「画面上のボタンを押してHelp機能を呼び出す機能」がこの特許には含まれないと判断しているのですから、その上に字が書いてあろうが、絵がかいてあろうが、関係なく、一太郎のヘルプボタンは無罪でしょう。
松下の特許の説明図をみると、MacintoshのGUIそのものです。実施の1例では、ヘルプアイコンをウインドウのスクロールバーにドラッグ&ドロップしてポップアップヘルプを表示させていますが、この図は、MacintoshやWINDOWSでファイルをフォルダに重ねて、中に納めさせるなど「ドラッグ&ドロップ」の操作を知っていないと理解できないでしょう。アイコンをドラッグできるというようなことの説明は松下の特許にはないのではないでしょうか。要するに松下の特許はたいへん抽象的で舌足らずのもので、MacintoshなどのGUIを知っている人間が、想像力で拡大解釈をして、やっと成り立つものです。ですから特許の申請者は正しくMacintoshの用語で説明しないといけません。「画面上のボタンをおして、ポインターに通常の機能ではなく、ポップアップヘルプを表示させる機能を一時的に付与したのちに、未知のオブジェクトをポインターで選択した場合にポップアップ機能を表示させるしかけ」として特許を申請すべきでした。特許審議官も裁判官もただしく、GUIの言葉で審議し、判決を書かないといけません。裁判官の解釈によると「アイコンをはりつけた画面上のボタンを押したあと、ポインターで画面上のオブジェクトに張り付けたアイコンを選択するとそのアイコンの意味を表示する機能」ということになります。これはけったいな特許でしょう。あるいは特許のけったいな解釈でしょう。ユーザーは画面上のオブジェクトの機能を知りたいのであって、オブジェクトに張り付けたアイコンの意味が知りたいのではないのですから。

PatentPatent 2005/02/23 23:55 あまり細かく書いて当事者に荷担したり不利になったりすることは本意ではありませんので、ここで紹介された資料だけでは進歩性を否定するのはキツイナアと考えた理由だけを列挙します。
裁判では無効貸料として「HELPキーに続けて機能キーを押せば画面に対応した機能ヘルプが表示される装置」と「キーボードを画面上で仮想キーボードとして表示するもの」が提出されました。後者の仮想キーボードで前者の装置を構成すれば同じ事ができるというのが技術者の考えだと思いますが、法律解釈(特許請求の範囲の解釈は技術論ではなく法律論です)としては両者を組み合わせてもこの発明とは別物という主張が採用されました。この論理でいけばこのページのプルダウンメニューはダメで、Invoking Helpの中にある(2)番目の ’Command-?’ が一番近いかなと思いますが、各アイコンの依存関係が複雑で動作が単純でないだけに、いろいろとイクスキューズを交えて抗弁しなければならず、法廷上では余計に不利になると感じました。また、裁判の中では第1、第2のアイコンを選択するときの制御フローの違いも指摘されています。HyperCardの資料だけで今回の発明の主たる構成要件と制御フローを具備していて、残りの構成要件は当時の技術から自明で、追加することも自明であると証明できれば進歩性を否定できると思います。

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