明け方、目がさめるとヒロが目を開けてぼんやりしていた。
ここ数ヶ月続いていた心配ごとが、今朝はもう無い。
毎日のように話をしていた人がいなくなってしまった。
声をかけられなくてじっと目をつむっていた。
亡くなる前の晩、消え入りそうな声で話すばあばあの言葉をヒロはずっと聞いていた。
あの着物は誰々に、あの大島は誰々にやってくれ、とか。
部屋に貼ってある孫のタカ君とみかちゃんが団地の前で写ってる写真を持ってきてくれ、とか。
写真パネルの裏にツツジといっしょに写っている写真があるやろ、と言う。
そのツツジの写真を持ってくればいいのかな、とヒロは思った。
夜中にばあばあが言った。
「おとうさんが枕元におる」と。
「おまえもこっち来るんか?って言うてる」
写真パネルの裏にあったのはばあばあが一人で写っているお気に入りの写真だった。
10年以上前に六甲へ登ったときに、おそらく僕が撮った写真だ。
季節は春、ピンク色のコバノミツバツツジの前でばあばあが笑っている。
遺影にして欲しいんやわ、とヒロが言った。
今夜は通夜だった。
遺影はヒロがオーダーしてツツジの写真にしてもらった。
僕の写真をリクエストしてくれるのは嬉しいけど、死んだときより10 以上も若い。
やるね、ばあばあ。
いつか落ち着いたら思い出を書きたい。