DVD 《今日から明日へ》@Teatro la Fenice、指揮:Eliahu Inbal、演出:Andreas Homoki

雪が積もったベルリンで、今学期2度目の風邪でダウン。不摂生には気をつけねば。

外出して悪化させるのもなんなので、夜は購入してあったDVDを見る。

Von Heute Auf Morgen [DVD] [Import]

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2008年、ヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場での《今日から明日へ》。演出は今シーズンからチューリッヒ歌劇場の監督となったAndreas Homokiである。昨シーズンまではベルリンのKomische Operの監督で、日本でも上演されたプッチーニラ・ボエーム》を始め、ヴァーグナー《マイスタージンガ―》、スメタナ売られた花嫁》、R.シュトラウスばらの騎士》、ヴァイル《マハゴニー市の興亡》、そしてプロコフィエフ《三つのオレンジの恋》などなど、魅力的な舞台を多く残してくれた。ベルリンの財産である。

今日から明日へ》は、登場人物が5人(1人は子役で歌唱なし)で、Homoki演出の特徴である舞台を縦横無尽に掛け回る合唱団はいない。舞台装置は、舞台中央に置かれた白地のソファーのみ。舞台背景となる黒地の壁には「現代人って何?」というラストでの子供のセリフが数ヶ国語で書きつけられ、冒頭から強調されている。文字のフォントは様々だが色はすべて白。大きな白地のクエスチョンマークが特に目を引く。

 夫と妻の会話が続く前半は、舞台上の動きが少なく、Homokiが《マイスタージンガー》や《売られた花嫁》で生み出していたようなキネティックな演劇性には欠ける。歌手陣はレチタチィーヴォ風の箇所と旋律的な個所をきちんと歌い分け、なかなかの好演。オーケストラも、アクセントや特殊奏法、金管の鋭い響きなどをコミカルに強調してクリアな響きである。後半の4重唱ではダイナミックな動きも加わり、Homoki演出の魅力の片鱗も見ることができた。
 主人公の二人も歌唱からSprechgesangに切り替わる最後のシーンでは、背景の黒字の壁が最終的に解体され、ソファーに乗ったテノール歌手と妻の友人は舞台の外へ追いやられる。壁のクエスチョンマークすらばらばらに千切れてしまい幕切れ。何とも言えない余韻が残る。作品の構造上、Homoki演出の魅力がすべて発揮されている訳ではないように見えるが(あるいは、ヴェネツィアで実際に見てた人がいたら、生の舞台では歌手陣の動きにどれぐらいインパクトがあるのかぜひ教えて欲しい。)、このオペラの魅力の中心が、作品が聴衆に残す「クエスチョンマーク」にあることを改めて実感。そこを上手く引き出している点で明快な演出である。あるいは、そうした問いそのものを問うているのか?とも考えさせられる。

ストローブ/ユイレの映画化(指揮:ミヒャエル・ギーレン)と並ぶ重要な上演資料で、ありがたい限り。ベルリンの州立歌劇場でも再演されないかなぁ。