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2013-08-25

[]ネット依存報道について(4)

「ネット依存症」報道のその後です。
今回の記者発表をした「研究班」の代表である大井田隆氏(日大医学部)に、直接メールで事情をお伺いしました。
そこからいくつかわかってきたことがありますので、まとめてみたいと思います。

●記者発表の資料

大井田氏によれば、以前の日記で書いた、日大医学部公衆衛生学分野のページ
http://www.med.nihon-u.ac.jp/department/public_health/gakunen-dayori.html
に掲載されている、「H24年度喫煙飲酒全国調査結果(インターネット依存)」
http://www.med.nihon-u.ac.jp/department/public_health/2012_ck_KI.pdf
が、そのまま記者発表会で配布されたそうです。
これが大元の一次資料ですので、皆さんもぜひご確認ください。

●ネット依存の話がなぜ突然出てくるのか?

これも以前の日記で書きましたが、この研究のメインテーマは未成年の飲酒・喫煙問題の調査です。
しかし資料の途中で突然ネット依存の話が出てくる形になっています。
この点について大井田氏に確認した所、当初は飲酒・喫煙問題の調査だけをする予定でしたが、研究班のメンバーの中から「ネット依存も大きな問題だ」という指摘があり、その質問項目を後から調査用紙に追加したそうです。
しかし多くの報道では、後半のネット依存の部分だけが取り上げられていて、こうした研究全体の事情はほとんど触れられていません。

●「厚生労働省の研究班」という報道について

この点も大井田氏に確認したのですが、「過去の研究結果が厚労省施策に反映されているので、無関係ではない」という回答でした。
とはいうものの、今回の研究は厚労省の直轄事業ではなく、研究内容に厚労省はタッチしていない訳ですから、「厚生労働省の研究班が発表した」という報道はかなりの確率で間違いだと私は思います。
なお、「研究内容に厚労省はタッチしていない」件については、以前の日記に書いた沖縄の方の他にも、直接厚労省へ連絡を取って確認した方がいらっしゃいます。なぜメディアはこうした「裏を取る」作業をしなかったのでしょうか。

●「病的使用」という表現について

発表資料のスライド16枚目以降では、ヤング氏の基準に当てはまる(評点5点以上)子ども達を「病的使用」と表現しています。が、これも以前の日記で書いたようにヤング氏の本来の基準は「5個該当したら診断を受ける必要があると考えられる」というスクリーニングに過ぎず、これで「ネット依存」の診断が確定するものではありません。
この「病的使用」という表現については、大井田氏によれば「医学雑誌『Addiction』からの直訳」とのことです。具体的な巻号や記事名などがわからないのですが、ぜひとも確認したい所です。
この点については、記者発表会で記者からもかなり質問があったそうですが、大井田氏によると「同席した精神科医も含めて、私達の解釈としてはネット依存になる可能性が大いにあると考える」と答えたそうです。

●「ネット依存が睡眠週間に影響」の報道について

またメディアでは、今回の研究の結果として、「ネット依存は睡眠習慣に影響する」と報道されました。
発表資料では、スライド20枚目以降に、ネット依存度と睡眠習慣に関する相関のグラフが並んでいます。
例えば最初に、回答者の「ネット依存度」と「入眠困難」の相関グラフがあり、調査からこのような結果が得られたそうです。
f:id:shiro0922:20130825233619j:image:w360
(数値は元資料から。グラフは斎藤が作成)
しかし、このグラフから「ネットに依存すると、寝付きが悪くなる」と結論づけるのは間違いです。
このグラフから言えるのは、「ネット依存度と入眠困難関係がある」ということだけです。「ネット依存が原因で入眠困難になる」とは言えないのです。(相関関係は証明できますが、因果関係は証明できません)。
f:id:shiro0922:20130825231433j:image
もしかすると何か別の「原因X」があって、「ネット依存」と「入眠困難」は、その原因から生じた2つの結果かもしれません。同じ原因から生じた2つの結果だったら、その数量をグラフにすれば互いに関係があるのは当たり前です。
例えば、「今の子ども達は大きな孤独感や不安を抱えていて、自己評価が低い」という心のありようが「原因X」かもしれません。寂しい気持ちから誰かとつながろうとしてネットの利用時間が長くなり、その不安感から夜なかなか眠れないのかもしれません。
だとすれば、仮にネット利用を制限しても、子ども達は眠れるようにはなりません。元の原因である心のありようはそのままだからです。
こうした詳細な状況は、今回のような調査ではわかりません。

この点についても大井田氏に確認したのですが、「因果関係は証明できない」という点は大井田氏ももちろん了解しています。が、「同席した臨床医はネット依存が睡眠障害を引き起こしていると指摘している」「一般的に考えてネット依存が睡眠障害を引き起こすと推測していいと考える」ということです。

★どうも…

大井田氏には、どこの馬の骨ともわからない私の質問メールに、丁寧に答えていただきました。感謝しています。
(「情報センターにいて、情報モラル教育などに関わっている」と自己紹介はしましたが)
実際にお目にかかってはいませんが、メールのやり取りでは「まじめな研究者」という印象でした。
今回の研究自体は一つの大きな成果だと思いますし、詳細はいずれ論文にされるそうですので、詳しい分析はそちらを待ちたいと思います。
しかし、調査にネット依存の項目が追加されたことといい、記者発表会でのやり取りの様子といい、どうも「同席した臨床医」にうまく利用されてしまっているように、そしてメディア各社もそれに踊らされてしまっているように、私には思えます。

ともあれ、今回の「ネット依存症」報道については、疑わしい点がたくさんあります。皆さん、メディアリテラシー情報リテラシーを持って、よく考えて判断するようにしてください。
まずは上記の発表資料を、自分の目で確認してみてください。

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