1月14日 ブラー日本武道館公演

ブラー 日本武道館

 ほぼ定刻、客電が消えると同時に大歓声。メンバーが登場するとさらに歓声は大きく…。コンサートではどこでも起こる現象です。でもこの日、日本武道館でブラーを迎えたファンの熱気はすさまじいものでした。待望のというよりも「実現すると思わなかった」来日公演でしたから当然ではありますが、本当にすごかったです。
 僕が観たこの日のコンサートを一言で表現するなら「熱の交換」です。カッコつけ過ぎですみません。でも本当にそういう感じでした。立ち見まで出た超満員の武道館を埋めつくすファンの熱気、そしてそれ以上といっていい、バンドの熱気。デーモンもステージでひっくり返ったりジャンプしたりコーラス隊にまざったりギター弾いたり最前列に向かって行ったり。グレアムの、ものすごいフィードバックさえ美しいギターを中心にしたポップと前衛をゴッチャにしたような素晴らしい演奏も「熱」としか言いようのないものでした。ほとんどすべての曲で大合唱だったし。バンドが熱を放出し、観客がそれを吸い込んでそれを上回る熱を出し、それを受けてバンドがさらに…、という感じか。よくわるコール・アンド・レスポンス的な盛り上がりだけではなく、まさに「受け取り合い、手渡し合う」コンサートでした。それにしてもあのすさまじい「量」のフィードバック。ライヴ・アルバムではコントロールされていたトレブル成分満点の耳をつんざくようなノイズが、とてつもなく美しく気持ちに届いてきます。僕はちょっと初期のピンク・フロイドを思い出してしまいました。
 「Parklife」ではあのフィル・ダニエルズが登場!最高に盛り上がった瞬間でしたが、この曲、この演出に限らず、この日のコンサートは根底にある種の「モッズ的テイスト」が感じられました。よく知られていながら、実は日本では生理的に理解しにくい「モッズマナー」ですが、この日のコンサートにはそれが満ちていたように感じました。僕が嬉しかったのはそういう空気が音楽として成立し、それが共有されていたことです。ファッションではなく音楽で、というところが。日本における洋楽受容はそういうレベルにまで至ったんだと思うと感無量です(今から30年前などに、こういう空気で行われるロックのコンサートなど日本では望むことさえできなかったでしょう。そのころすでにザ・フーのファンだった僕は実感を持ってそう言えます)。僕がブラーを熱心に聴いていたのは今から20年前で、もういいかげん大人でしたが、もっと若いファンがブラーに熱狂し、その気持がずっと続いているということがなによりも嬉しく感動的でした。
 演奏も素晴らしかったですが、音楽そのものも、もちろん素晴らしかった。自戒を込めて書きますが、僕くらいの年齢のロックファンは90年代以後の音楽に対して冷淡です。というか、要するにあまり聴かずに「スピリッツがない」とか「70年代までのものに比べて…」みたいな感想を持っています。しかし実情は全く違う。どの時代にも優れた音楽、音楽家はいて、誰がなんと言おうと時代を越えていくのです。今回のブラーのコンサートは再結成という文脈で語られますが(正確には活動再開ですが、グレアムのことを考えると事実上の再結成ですよね)、同時に「90年代に生まれた素晴らしいバンド、音楽の再評価」という側面を持っています。それがこの日本で熱狂と共に迎えられた。僕みたいなオヤジも混じっていたでしょうが、多くはもっと年下のファンでした。それが嬉しい。大衆音楽はこうでなければ。すべての世代にアンセムがあり、すべての時代に天才が、傑作があるんだということを、今回ブラーに思い知らされました。
 この日のコンサート、ラスト「Song2」の演奏中、メンバーが握手とハグをしていました。もちろん大喝采でしたが、その幸福は、音楽の勝利を目の当たりにした幸福でもあったと思っています。僕はまた、伝説に立ち会えました。