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“視点”の記録 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-10-24 『視点 vol.1 Re:TRANS』 各作品賞発表!

『視点 vol.1 Re:TRANS』 各作品賞発表!

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審査によせてのご挨拶

「"視点"というコンペティションは、あらゆる視点を並べたり発見したりして、語り合うのが目的です。その劇団の現在に、もっとも似合う洋服を教えてあげるような、またチャレンジしたくなるような服を教えてあげるような。最低限の優劣は、審査員や観客のみなさまにはあるかもしれませんが、それをただ「順位」とかで押し込んでしまうようなものは乱暴過ぎるんじゃないかと考えるからです。そもそもそれぞれが感じた「面白いってなに?」って視点にこそ興味があるからです。それが僕が考える「品」でもあるし、演劇業界にいま欲しいものとしての大きな提案です。

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司会進行は主催である、わたくしMUのハセガワアユムが務めまして、審査委員のみなさまとともに審査会議した一部の議事録を掲載致します。審査は(写真の左から)劇評サイト「ワンダーランド」編集長の水牛健太郎さん、演劇サイト「CoRich!」の手塚宏二さん、劇評家のカトリヒデトシさん、の御三方にお願い致しました。演劇業界で公私ともに演劇を沢山観ている方たちであり、なおかつそれを「形にして残している」方にシンパシーリスペクトを感じてお願いしております。意外と「形にする」ということは難しいものです。御三方での議論は和やかななか、時に厳しく、時に鋭く盛り上がりました、その一部掲載となります。観客のみなさまのアンケーデータを踏まえた上で、審査に臨み、それぞれの点数を持ち寄り各賞を決定致しました。

「公演後もその公演を追いたくなる」そんな公演を目指して、余白にも魅力が詰まる短編をMUではやって来ましたが、公演全体という形では、それが初めて完成出来そうです。観客や審査委員、スタッフのみなさま。そして参加してくれた劇団・ミナモザと鵺的に心よりの感謝を。このページをチェックしに来てくれた、あなたに新しい発見と余韻が伝わりますように。

“視点”は、またvol.2も考えていますので、また色んな視点を聴かせてください。」

“視点”主催・ハセガワアユム(MU)

ミナモザ『スプリー』について(審査議事録)

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脚本・演出:瀬戸山美咲(ミナモザ) 出演:木村キリコ宮川珈琲・実近順次

□あらすじ□ 両足と右腕を負傷した男(宮川珈琲)が入院していると、深夜にひとりの女医(木村キリコ)が彼の上にのしかかり肋骨を折ろうとする。女医は「理由なんかない」と言い切るが、同じ医者であり元恋人のカサイ(実近順次)がやって来て「その女は病気だ」と告発する。女医はそれを認めず、患者の男を巻き込み出す。

手塚印象的なシーンはベッドの上に何度も女医が乗りかかって(骨を折ろうと)行くのがなんとも強烈なシーンですよね。逆説的な「愛」もあるし。具体的な台詞というよりもビジュアルを含めた世界観全体の印象が強いです。作家の独自性は出ていたのですが、断片的に感じたのでもっと長編も見てみたいと思いました。

カトリ:「スプリー」って意味は「浮かれ騒ぎ」ですかね? その上で考えると"倫理的じゃない医者"が、さらに病んでいて浮かれ騒ぐってのはとても現代的な恐怖でしょうから、面白かったですね。

─── 瀬戸山さんと『トランス』のときと現状が一番違うのは、精神病の扱い方が変わって「カジュアルになったよね」って話をしてたんですよ。

カトリ:そうだよね、あとゲイ認識も随分変わったしね(『クィアK』)

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だから女医の「みんな何かのせいにしているだけなの、何かいやなことがあったら理由に逃げるの。でも理由に甘えてるうちには、何も変わらないのよ。大事なのは過去の理由じゃない。いま目の前にある結果だけ。」って台詞が印象的だったね。そういう意味で、「世界観(&ビジュアル)」に票を入れました。ただ、後半が唐突な気がしてしまって、患者が罪を償って宇宙論的なモノローグを始めてしまうのはちょっと唐突で、あの長さでは難しいかなと。

─── あの劇構造は、プログレロックのように”あえて”入れてあるのかも、と僕は斬新に感じたました。思い切ったというか。

カトリ:あえてだとしても、それまでドカンと面白かったのが、急に独白になってしまい静かに終わっていくってというのが劇構造としても工夫が欲しいかなと。

水牛:わたしも台詞としての面白さは判るのですが、これはコントとしての面白さを求めてるのか? と、それら前半〜中盤で消化しているうちに後半の独白の部分に繋がって行ってしまったのが、やや急かなと。独白も、自分の位置からはでは(ベッドの構造上)顔が見えないし、動きが無いですから。

─── ああ、確かに。下手側からは観辛かったかもしれません。でも、あそこで急に理屈っぽい別役実のようなというか、コント寄りでもあったものが急に変化してしまう不条理さも感じました。

水牛:匙加減ですかねえ。

カトリ:別役さんの名前が出たからいうと、まあ不条理劇自体はコントなんだけどね(笑)最後にもっと不条理があった方が振り切れたかな。

水牛:そうやって振り返ると、やはりオープニングのベッドで患者にまたがっているシーンの「ビジュアル」の印象が強かったですね。これで決めてやろうという意思が見えたし、ドキッとするものがありまして、わたしは木村キリコさん(女医)がかっこいいなと思って追いかけました。

鵺的『クィアK』について(審査議事録)

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脚本・演出:高木登(鵺的) 出演:今里真・平山寛人(鵺的)・宮嶋美子

□あらすじ□ マンションの一室で、頭の上の箱を乗せた女(宮嶋美子)がいる。それを見つめ続ける男(平山寛人)。女が箱を落とすと、その音を嗅ぎ付けたように、もうひとりの男(今里真)がやって来て、女を「奴隷」だと罵り始める。

手塚舞台に色、色彩を感じましたね。非常にモノトーンな色彩と言いますか、それが鵺的にしっかりハマっていたんじゃないのかなと。僕は、その、女性を苛めるような芝居はあんまり好きじゃないんですけど・・・

全員:(笑)

手塚:だけど、面白かったです。逆にそこが魅力的だと思いましたね。印象的なのは、宮嶋さんが横たわって本を片付けようとするシーンは、居たたまれない気持ちにあるんだけど逆に色気も感じたりしてですね。奴隷の宮嶋さんが苛められれば苛められるほど、神々しく見えて来るんですよね。

カトリ:凄く面白かったです。脚本もよくて、今里真くんはパラドックス定数(『元気で行こう絶望するな、では失敬。』)でも観たけど良い俳優だね。役者のカラダを通しての台詞が非常に立っていて、そういう意味で脚本の力がよく判るし、演出も手堅いんだけど…『トランス』をもとに考えると当時の80年代と「ゲイ」っていうセクシャリティの問題が本当に変わっちゃったから。最近はLGBTレズビアン、ゲイ、バイセクシャルトランスセクシャルの略)が、モントリオール宣言やジョグジャカルタ原則に基づいて「性的にマイノリティな人たちに当たり前に人権を認めよう」「いかなる差別もいかなる偏見も排除しよう」って、国連人権委員会でも議決されたわけでね。実際はLGBTの中でも中でも込み入っていて統一がある訳でもない。LGBは性的な嗜好な訳じゃないですか。自分が男が好きか、女が好きかみたいな。それは性的な同一性は壊されてない上に、しかも先天的か後天的かって議論が絶え間なくあるんだよね。心は女だけど、身体は男みたいなものの「ジェンダーセクシャリティ」と「性的嗜好」は別だから一緒にしないでくれって議論もある訳で、非常に複雑な話に成ってる。

そうすると(核心のネタバレのため反転してあります→)今里くんの役が「ずっとゲイだったけど、女を好きになってしまった」っていうところも、じゃあバイでいいじゃないかって(笑)そういうことに突っ込むのであれば、もっと深く背景や現代的な視点も盛り込んで欲しかったなと。「どっちでもOKだよ」って時代になって来てるし。面白かっただけに、いろいろ不満は残ってる。

─── なるほど。

カトリ:印象的なシーンは、(核心のネタバレのため反転してあります→)「好きにすればいいよ。たまに聞かせてくれればいいよ。さっきふたりがやっているところ聞いて、わたし、ちょっと興奮しちゃった。」と「ペニスが生えて来そう」というトランスジェンダーにお互いがなっていくところが面白くて、こういうとこから更に突っ込んでくれれば、もっと面白かったんじゃないかとも思う。この先をもっと観たかったな。

─── たぶん短編だと、自分がそうなる入り口までしか描けなかったんですよね。それとミナモザと同じように"あえて"があるんですけど。劇作テーマとして、ゲイの人がゲイの話題を持って来るってのはよくあると思うんですよ。でも高木さんはノーマルなのに、"あえて"踏み込んでるってのが面白い視点ですよね。

カトリ:(頷き)マイノリティに対して共感を抱くってのは、芸術のある種の使命だから。書けてるからこそ、もうちょっと先に行って欲しかったなと。

水牛:あんまり深く踏み込みすぎると(観客が)付いて行けなかったり、書いてる本人はノーマルだという前提があるので、本当に深い部分っていうのはゲイの人にお任せすればいいんじゃないのかという気持ちも私にはちょっとあるんですよね。私は「作品全体」をいいと思っていて、そういう甘い箇所もあるけれど、脚本も作品も完成度が高かったです。なかでも鵺的の平山さんを評価していて、とても存在感があった。

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印象的なシーンは絵を書いたんですけど、木谷(今里)が奴隷(宮嶋)を抱え込むシーンがまるで腹話術のように見えたんですね。何気ないシーンなんですけど何故かここは目に焼き付いちゃって。この状態で行われる質疑応答も、それもまるで人形のように見えるんですね。

─── 主従関係が滲み出てますよね。

水牛:また平山さんの台詞にはっと思わせる台詞が多くて。木谷(今里)が最初苛立っていて、それが「苛立っている」って判らなくて。なんかこの人だけ浮いた感じで、テンションが高くて変だなと思っていたら、「変だよ」と指摘する台詞が平山さんにあって。それで「変」という状態を演じていたんだと判ったり。

─── なにか観客側が感じているような"違和感"を代弁する役割を果たしていたのかもしれませんね。

水牛:それがリアリティに繋がっていったんだと思います。

MU『無い光』について(審査議事録)

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脚本・演出:ハセガワアユム(MU) 出演:秋澤弥里・杉木隆幸・武田 諭(バジリコFバジオ)・金沢涼恵(クロムモリブデン

□あらすじ□ 臨死体験ルポを連載しているライター後藤(杉木隆幸)は、中学校の同級生である修造(武田諭)と、同じく同級生のイラストレーターとして活躍する理英(秋澤弥里)を取材するため再会を果たす。しかし、後藤のアシスタント・朝子(金沢涼恵)は、理英の臨死体験は掲載に相応しくないと抗議する。

カトリ:さあ、みんな悪口言おうぜ。

全員:(笑)

手塚MUは「作品全体」がよかったですね。お世辞じゃなくて、僕はMU、すごくよかった。ただ初日、すごいお客さんがウケていたんだけど、他の日もずっとあんな感じだったの?

─── いや、初日はちょっと…ウケ過ぎですね(笑)僕的にもちょっと自分の手を離れたところで笑いが起きてるなって所もあったし、水牛さんがワンダーランドの劇評で触れていましたけど「ライターがどういう動機かが伝わらなかった」と感じたのは、作者としてはちゃんと書きこぼしてはいないしおかしいな、って思ってたんですけど。それはたぶん初日は笑いに消されちゃったってところもあるんですよ。結構大事なシリアスなシーンでも笑いが起きていたので(笑)次の日からは自然と絞られて行くんですけど、ただ初日はバーストし過ぎましたね。

手塚:僕もそう思った(笑)面白いんだけど、ここまでウケてしまうとコントじゃないんだからと。

─── 笑い自体はすごい嬉しかったですけど。ただ、テーマも「自殺」ですからね…

手塚:だけど全体の作品としてもまとまっていたというか、他の二作品は長編のなかの断片を取りあげたように感じたんだけど、MUは充分、完結してると。やっぱり短編づくりに馴れてらっしゃるんだな、と。印象に残った台詞は、やっぱり「光は無いけど、楽になりたいの?」など「光」なんですね。ただ「光」という単語は前半から沢山出てくるのでもうちょっと押さえても、メインテーマとしても活きてくるんじゃないかと。

カトリ:仰る通り。題名が直接すぎてそこは駄目(笑)

─── え〜と…落語のサゲみたいに、「そういう意味か」ってなるのを狙ったんですけど(笑)

カトリ:まあ、臨死体験の話は面白かったし勉強したんだなって思ったんだけど「中学校の屋上の話」っていうのが、これがなんとも鴻上さんティストでね。鴻上オマージュとしてはこれが一番バカウケした。屋上が出て来たとき。『トランス』だけじゃなくて、鴻上世界に対するオマージュとして。屋上から飛び降りたり、ベランダから飛び降りたり、"飛ぶ"という。ああいうのは鴻上さん特有の世界だから。そういう意味で面白かったんだよね。手塚さんも仰ってるけど、ハセガワ君は物語が上手いよね。大塚英志風に言うと「物語を母国語」として生きてるから。僕は「物語を外国語」として学んでるタイプだから、まあ観てから脚本を読むと雑なところも発見するんだけど(笑)でもそれで破綻してないのは、太い物語を母国語として生きてるから。雑な所も見事に物語に取り込まれていくというか。物語が演劇の全てではないんだけど、ハセガワくんの特性だよね。

水牛:重さと軽さが調和していて、これは都会的というのか、とてもセンスがいいなあと思いました。以前観たとき(『神様はいない』『片想い撲滅倶楽部』)も思ったんですけど、広がりがある感じで良いと。

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ただ印象的なシーンは…臨死体験の絵が出て来るシーンなんですけど、それがなにか微妙な感じで(笑)これが上手いという前提で話が進んで行くんですけど、リアリティとしてどうなのかなと。

カトリ:もっと精神分析療法みたいな、心象風景に近い方がよかったのかもね。

─── 僕としては、あんなにシリアスな話をしたのに羽海野チカみたいな絵を描いてる方が狂ってるなって思ってやってるんですけど(笑)ズレというか。でも、あそこはもっと確実に狂っててもいいかもしれないですね。笑いにズラさないで、シリアスな部分を太くする為にも。

水牛:印象的な台詞は、アシスタントの朝子さん(金沢涼恵)が言う「あたしも好きなんですから!」の一連ですね。

カトリ:「なんでこのタイミングでコクってるんだ」とか、おかしいよね。僕の印象的な台詞は後藤(杉木隆幸)の「中3だから!」だね。中2もやばいけど、中3も確かに痛いなって。

─── MUは、そんなズレた会話ばっかりですよね(笑)

[〆]


以上が議事録の掲載になります。いよいよ、気になる審査結果はこちらです!↓



[作品各賞一覧]

“視点” ビジュアル賞:ミナモザ『スプリー』 独自の世界観インパクトのあるビジュアルや空気の評価に対して

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“視点” 総合作品賞:鵺的『クィアK』 脚本、配役、演出、の総合的評価に対して

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“視点” 脚本賞:MU『無い光』 ストーリーのある物語性、台詞の評価に対して

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に決定致しました!