プチ家出
連日30℃越えてるの真夏日。
週末文伯は保育園がないから、こんな炎天下でどこに連れて遊んだらいいのかと悩んだ。
「ふみ、どうしよう、どこ行きたい?」
「電車みたい、かいじみたい。」とふみは少しも困った様子がなかった。
カイジは、ふみが今のところの一番の気に入り電車だ。
毎日のように橋の上から、本数の少ないカイジが走り去るのを眺るため、いくら待っても飽きないのだ。「かいじ、デジャインきれぇい」ふみはしみじみと言う。
「ふみ、かいじ乗ってみようか」
「かいじ?乗る!」
ちょっと後悔しちゃった。
土曜日だし、駅のびゅーブラザーはやってないと思いだした。でももう言っちゃったことだから、頑張ってみるしかないな。
急いで荷物を小さい旅行カバンにまとめ、ふみを連れて、新宿へ向かった。新南口のびゅーブラザーなら、確かに休日もやってる。
午前の日差し、すでにキラキラして眩しく、まるで梅雨明けでもなったようなからっとした暑さです。
「ふみ、暑いね。だいじょうぶ?」
「だいじょうぶ。ママかいじのる?ふみものる?」
ふみは私を仰ぎ見て、私のかすかな迷いを察したように、念入りに言った。
「うん。カイジ乗るよ」
ふみは安心した。私と手をつないで駅へ向かう。
急に
「線〜路続く〜よ
どこまでも
野を越え、山越え
谷越えて
遥かな町まで
僕たちの
楽しい旅の夢
つないでる」
とふみはとても大きい声でこの大好きな歌を歌い始めた。
しかも替え歌バージョンではなく、正規版で。
「らららららーら、らららららー…」と、ふみは真面目に最後まで歌った。
真夏の太陽に照らされ、小さいふみと手をつないで早足で歩きながら、この歌声を聞いて、なんだか悲壮感すら湧いてきた…
夏休み前のせいか、新宿南口のびゅーブラザーは混んでる。
整理番号を取って、ふみと椅子に座って順番待ち。
「かいじ、乗れるかな、間に合うかな」ふみは何回も私の顔を覗き込む。
「どうかな、乗れないかもしれない、間に合わないかも」と言うと、ふみはまっすぐに座り直して
「乗れる!だいじょうぶでし」
私たちの番になった。
「今日の。あまり遠くなくて。カイジ乗って。温泉宿。一泊」と私はポイントだけを店員さんに伝えた。
決まりました。カイジ乗って、石和温泉へ。しかも温泉宿の名前も甲斐路(かいじ)です。
高島屋の地下からお弁当を買って、ふみは、念願のかいじを乗り込んだ。
熱海とかと違って、山梨・長野方面だから、車窓からの風景は山景色。
海好きだとばかり思った自分は、山も案外こんなに気分をすっきりさせるもんだと、嬉しくなりました。
雲はもう、盛夏らしい雲です。宮崎駿のアニメに出てきそうな。
宿からの車を待っている時、七十近いかな、ご老人が近づいて、
「奥さん、お名前はなんとおっしゃるんですか?」
「え?」と思わず聞き返したところ、そばにいた中年女性が慌て
「お父さん、やめてよ、もうそんな時代じゃないんだから」と、また私に
「ごめんなさいね」と、頭を深々と下げた。
そんな時代じゃないんだからって…(^_^;)
どんな時代でも、このような老紳士に名前を聞かれるなら、私は答えますとも。
一泊2日の温泉宿、楽しかった。帰りももちろんかいじ。
「いさわおんしぇん、ばいばい、またくるからね」