TOMOO SHOKEN

うつわとともに 祥見知生

 吉岡萬理 色絵と鉄彩、新しき器展によせて。新しきとは何か・・。

こんばんわ。

今日は、うつわ祥見にとって、2011年の一年の始まりの一日でした。

常設の店「onariNEAR」で、今年最初の展覧会「吉岡萬理 色絵と鉄彩 新しき器展」が始まりました。


器のギャラリーには色々なタイプがあると思いますが、うつわ祥見では時間をかけて、年間の展覧会のスケジュールを決めていくんですね。緻密に「組み立てて」いく・・という作業に、時間をかけていきます。

一度スケジュールを決めたならば、その搬入の日まで、作り手の方と、絶えず、真剣な勝負をしていると言ってもよいくらい、真剣なやりとりをするんですね。しかもほとんど無言で。・・・そうそう連絡もとらずに。

今、そう書いてみて、

「真剣勝負」という言葉が、本当にこの言葉通りなのかもしれないと、思うのでした。

とにかく、大変生意気ながら、わたしは、作り手の皆さんに「宿題」を渡して、その日を待っていると言えなくもないのです。

これは、もう、大変なことです。

よく、「わたしは何の注文も出さないんです。ただ、よい器を作ってくださいとしか言わないのです」・・・と、口にすることがあるのですが、考えてみると、これ以上の厳しい注文はないんですね。

とくに、常設の「onariNEAR」では、あるテーマに沿って、その仕事へ集中して向かっていただく・・そして発表する、というやり方をしていただくわけですから、作り手にとっては、やりがいがあると同時に、非常なプレッシャーをおかけすることになります。

展覧会は「山」なんですね。

展覧会という「山」に向かって、作り手と使い手の方、そして、伝えるわたしたちが、三方面から上っていき頂上で出会う・・という「山」なのです。

さて、2011年、この大事な年に、どんな展覧会を組み立てるのか、お願いするのか、
すぐに思い描いたのが、奈良で作陶している吉岡萬理さんでした。

萬理さんは、わたしが器を伝える仕事を始めた頃の「憧れ」の方でした。

粉引き、刷毛目、そして鉄彩の器たちは、萬理さん自身のおおらかな作風で注目を集め、当時から大変人気がありました。

その萬理さんが初めて「色絵」の器を発表されたとき、世間の人のなかは、「どうして?」と首をかしげた方が多かったと聞きます。

華やかな、弾むような色使い、そして自由溌剌した絵の筆・・・色絵。

いっぽう、渋く、侘びさびの世界へ通じる・・・粉引き、刷毛目、鉄彩の器。

ふたつの作風は、こんにちも、「同じ作者の器とは思えない」という感想の声が多く聞かれます。

今回の展覧会テーマ「色絵、鉄彩、新しき器展」では、まさに、それぞれの器の新作が並び、

NEARの店内が、吉岡萬理の世界に彩られたのです。

今日訪れた方も「全部同じ方のものですか?」と訊ねられた方が実際にいらっしゃいました。

萬理さんも「粉引きなどこちらは修行時代に勉強した器で、色絵はその後でやりたくて作り始めた器です」と説明されています。

わたしはその説明は、大変、分かりやすいと思いながらも、

何か引っかかるような、納得できないようなものを感じていたのです。

ふたつの作風を別々のものとして説明しているような感じが・・なんとなく解せないような・・・

しかし、昨日届いた器たちを見て、正直、はっとしました。

当たり前のように聞こえるかもしれませんが、これらの器は、まぎれもなく、「吉岡萬理、その人の器」なんですね。

そして、萬理さんが、この展覧会のために注いでくれたものが、ひしひしと感じられて 胸が熱くなったのでした。

色絵も、そのほかの器も、同じところから生まれた「核」が、はっきりと見えたのでした。
・・それくらい、突き抜けた素晴らしさ、ある意味、開き直って「自分であることに」に目をそむけずに向かわれた仕事が、痛いほど「迫ってくる」ような器たちでした。

これは、まさに、吉岡萬理その人の「新しき器」でした。

よく、展覧会では、新作の器を出さなくてはいけないと思っている作り手がいると聞きますが、

わたしにとっては、作風や絵柄そのものの新しさを見たいわけではないのです。

「新しさ」とは、挑戦し続けたあとに初めて生まれてくるもの、ある意味、情熱、パッションです。

萬理さんの器の魅力は、おおらかさであり、開かれた心であり、器への清らかな熱意である、とわたしは常々思っていますが、それ以上の何かが、今回の器たちのすべてにあるように感じられたのです。

それは、皆さん、本当に素晴らしいことなのです。

いまここで、出展された一つひとつの器について、それこそ、手に包み、「どこが素晴らしいのか」を皆さんに説明をしたいのですが、それにはこの場は足りません。

ぜひ、お出かけになり、展示の器を実際にご覧になり、ゆっくりとゆっくりとご覧になってください。

見所は随所にあるので、時間をかけて、一つひとつの器の魅力を堪能していただきたいと思います。

ひとつだけ、見るべきヒントをお伝えするならば・・・

色絵の華やかの下にある「白いボディ」、実はこの「白」こそが素晴らしいのです。

このつややかで透明感のある「白」が、色彩豊かな「赤」やそのほかの色たちを引き立てるのです。

今回は新作の絵柄、たとえば、子供の絵のように無邪気に描かれた赤のチューリップが、視る者に訴えかけます。

明るく、確かなメッセージが、聴こえてきます。

そこにあるのは、やはり、突き抜けた何かなんですね。

その「何か」は、下地の白の上に、迷いのない筆遣いによって描かれる絵付けによって、より明確に、見る人を説得するのです。

次に、鉄彩の器や刷毛目の器。

まずは手の上で表、裏を見て、轆轤の潔さを感じてください。

大変美しいかたち、無駄のない、そして、当たり前の心地よさ、やきものとして、使う人にとっての安心感とは何かを、きっと手が感じられると思います。ここも萬理さんの器の素晴らしいところです。


そして、今回、うつわ祥見で初めて発表された器があります。

長石釉を使った碗や皿、湯のみです。

使うたびに、貫入が入り、味わい深く育っていく器です。

実際に萬理さんが使われて育てた器をお持ちになっていますのでご覧ください。

展覧会では、いつも、出展の器の写真をここで紹介するのですが、

今日は完全に写真を撮ることを忘れていました。

そこで、言葉だけで伝えてみようと試みたのですが、伝わったでしょうか。

吉岡萬理さんの「色絵と鉄彩、新しき器展」は、1月21日まで行っています。

ぜひ、この機会にお出かけになり、実際に手に取り、ご覧ください。

わたしは吉岡萬理さんのことを、「陶芸界のピカソ」と呼んでいます。
冗談ではないことを、ここに宣言しておきますね。


案内の葉書にも紹介しましたが、

今回出展された油絵も本当に素晴らしい作品です。木の額も萬理さんの作です。ぜひご覧ください。


※onariNEARでは、毎週火曜日と第二第四水曜日が定休日となりました。ご注意ください。