shooesの日記

2016-10-16 魚論文受理

Ito MH, Yamaguchi M, Kutsukake N. in press. Sex differences in intrasexual aggression among sex-role-reversed, cooperatively breeding cichlid fish Julidochromis regani. J Ethol. こちら

  • タンガニーカ湖のシクリッドの一種、ジュリドクロミス・レガニを対象に、攻撃頻度の性差を報告しました。この種は協同一妻多夫を取り、メス優位、性的役割が逆転している協同繁殖種だと考えられています。この種で、オス同士、またはメス同士を水槽で同居させて攻撃頻度を比較しました。大きな個体が小さな個体を攻撃するパターンが多く見られたのは驚くべきことではないのですが、小さな個体から大きな個体への攻撃も頻繁に見られ、その頻度はメスのほうがオスよりも高くなっていました。この種はおそらくメス間競争が激しいために、メスにおいて高い攻撃性が獲得されているのだと思われます。
  • 自身、魚の研究で論文を出したわけですが、哺乳類研究者にとっては新しいことがたくさんありました。この研究を始めるにあたっては、Aさん、Tくん、K先生はいろいろと教えていただき、とても勉強になりました。ありがとうございました。

2016-03-15 半年遅れの紹介

交尾行動の新しい理解-理論と実証

交尾行動の新しい理解-理論と実証

  • タイトルからしてすごい。交尾行動に関するこれまで研究理解をしていることが前提にされていて、そのうえで、最近の流れを紹介しようというのだから、とても意欲的な本だといえるでしょう。実際、行動生態学の基礎知識がないと、読み通すのはしんどいと思います。このように読み応えのある専門書が出版されたことを喜びたいと思います(海游舎、太っ腹です)。
  • この本には4つの章しかありません。前半二章が理論、後半二章が実証(グッピー、アズキゾウムシ)です。それぞれの章は中身が濃く、一気には読み通すのは難しいでしょう。
  • それぞれが充実した章なのですが、なかでも嬉しいのが、雌の配偶者選択(female choice)に関する第二章です。メスが特定のオスを好む背景には、どんな適応的意義があるのか? この疑問に対しては、様々な仮説があります。ランナウェイ、indicator、性的対立感覚便乗、繁殖干渉。これらの仮説は、異なる仮定・利得構造を持ち、まったく別物であるように見えます。講義で配偶者選択を解説するときも、仮説を羅列するだけの単調な説明になってしまいがちで、「いろいろあるねぇ〜」と言って、お茶を濁すようにして講義を終えています。
  • しかし、理論的な観点からすると、これらの諸仮説は、装飾・選好・適応度という三つの要素の相加的遺伝分散・遺伝共分散の行列を使って、統一的に理解することができます、、、。と、これを読んでもなんのことか分からないと思いますが、この章では、どのように統一できるのか、丁寧に解説されています。この内容を日本語で読むことができるということは、学部生・大学院生にとって、とてもありがたいことでしょう。もちろん、僕にとってもありがたいことです。
  • この本には「過去教科書であなたの学んだこと,それは本当に正しいのですか?」という挑発的な言葉が書かれており、ドキッとします。この言葉は、性淘汰の新しい理解を総説した有名な論文Kokko et al (2006 An Rev Ecol Evol Syst)の論文のなかの SEXUAL SELECTION AND SEX ROLES: IS YOUR TEXTBOOK RIGHT?  という言葉から来ているのかもしれません。こんなことを考える人は日本で数人もいないと思いますが、頭に浮かんでしまったのでここに書いておきます。

2016-02-25 脊椎動物の協同繁殖(3)

  • シママングースの章は、僕が英国にいたときに机が隣だったMike Cantさんが執筆。シママングースの研究がどんどんと発展する様子を傍で見てきましたが、この章のように、成果をまとめて読むことができる論文は嬉しいものです。
  • 初期のシママングース研究は、平等社会の進化を研究テーマとしていました。近縁種であるミーアキャットでは、群れで繁殖する個体は1ペアーのみで、家族を基本単位とした専制的社会を形成します。それに対して、シママングースは複数のメスと複数のオスが繁殖する平等社会を形成し、群れの中に非血縁個体も多数含まれます。このように、マングース科の近縁種二種のあいだで、社会システムに大きな種間差が見られるわけです。この種間差が、なぜ、どのように生じたのか? 社会進化の研究において重要な疑問ですが、答えはいまだに見つかっていないと思います。
  • シママングースの研究が進むにつれて、社会システム以外の点で、シママングースがミーアキャットとは全然異なる行動生態を持っていることが明らかになってきました。たとえば、シママングースは複数のメスが出産タイミングを同調させます。つまり、優位メスの出産に合わせて、劣位メスは出産しなくてはなりません。たとえ劣位メスが妊娠期間を終えていなくともです。このため、劣位メスの仔は生まれたときから、優位メスの仔よりも不利な身体的条件を背負う事になるので、死亡率が高く、成長率が低くなります。このことから、シママングースの社会は、「格差」のある平等社会だといえるでしょう。なお、出産の同調が起きる生理的メカミズムは分かっていません。
  • ヘルパーとなる性も違います。ミーアキャットでは、どちらかといえばメスの劣位個体がよくヘルピングをします。一方、シママングースではオスがヘルパーになります。オスは一匹の仔と一対一の専属関係エスコートシステム)を結び、その仔に集中的に餌をあげます。このような関係は、ミーアキャットでは見られません。
  • これらのシママングース特有の生態は、平等社会という形質と連動したシンドローム複数形質の同時変化)として進化してきたと考えられます。しかし、どのような因果関係で、このシンドロームが生じたのかはわかっていません。最近10年、コビトマングースの野外研究も始められて、シママングース・ミーアキャットとの違いも明らかにされてきています。今後、マングース科の多くの種で研究が増えていけば、このシンドロームが生じた進化生態学的な背景が分かってくるかもしれません。
  • 最後はデバネズミの章。アフリカのデバネズミは、単独性、社会性、真社会性という社会システムが混在し、協同繁殖の進化を研究する上でユニークな分類群です。最近の研究で目覚ましい点が、生理・神経学的なメカニズムの解明です。ハタネズミの研究から、オキシトシンやバソプレシンなどの神経ペプチドが社会性の分子機構として重要であることがわかってきています。同様の分子機構がデバネズミでも見つかっており、真社会性であるハダカデバネズミとダマラランドデバネズミの前頭葉では、オキシトシン受容体の数が、単独性の近縁種よりも多いとのことです。これは複雑な経路の一部でしょうが、社会性を形成する分子生物学的基盤を解明する上で重要な一歩だと思います。
  • 真社会性ハダカデバネズミを研究していたとき、この種の行動の奇妙さには本当に悩まされました。損得勘定をしていないかのようにワーカーはせっせと働くし、群れがひとつの意思をもっているかのように協調して働くこともできます。脊椎動物で、こんな種が本当にいるんだなぁ、と感心させられたし、もっといろいろと研究したかったなぁと思います。
  • 協同繁殖する哺乳類であれば、マーモセット・タマリンの章があってもいいような気もしましたが、この本には入っていません。フィールドで長期研究が行われていないためでしょうか。

2016-02-20 応援しています

  • TJMさんに送っていただきました(ありがとうございました)。
  • 博士号をとって間もない研究者大学院生が分担して執筆したフィールド体験・入門本です。舞台はアフリカ・東南アジア、研究対象は哺乳類(ヒョウ、バク、ハイラックス、チンパンジー、、、)。著者らの研究で明らかになった成果も解説されていますが、それよりも、著者らがなぜ、どのようにしてフィールドワークを始めたのか、実際のフィールドワークはどのように行われるのかという点がおもに描かれています。
  • 読んでいて以前の自分を見ているように感じることが何度もありました。多くの著者は、子供の頃から野生動物に憧れ、動物の研究を目指して進路を模索します。大学・大学院に入って、これまでに憧れていた動物の研究を始めることができます。が、研究に苦労はつきもので、いろいろな失敗や苦労をしながら経験を積み、研究を展開していきます。フィールドワークをしている人であったらば「ちょっと聞いてよ」と誰かに話したくなるエピソードを持っているものです。各章にはそのようなエピソードが描かれています。
  • どの章を読んでも、著者のエネルギーがとても眩しく感じられます。自分もかつては同じようなエネルギーを持っていたように思います。失われてはいないけど、その形は整えられています。上手に手懐ける術も身につけました。そういう身からすると、あぁ、昔は自分もこんなことを思っていたなぁ、と懐かしく感じます。そして著者らが今後出会うであろう苦労についても想像してしまいます。哺乳類研究につきまとうサンプルサイズの問題、フィールドでの理不尽不可抗力就職の難しさなど。それでも、動物を研究できるのは素敵なことだし、不便な海外生活する経験は得難いもの。人生は一回きり。損得勘定をせずに「うらっ」と飛び込んでしまえばいいのだと思います。この本の著者のように、夢を実現するために行動し苦労をも厭わない学生がどんどんと出てきてほしいと思います。

2016-02-17 頼りきりんのシマウマ

  • 協同繁殖の本は気が向いたらば書くとして、、、趣深い論文を見つけると、このblogで紹介することにしていますが、ほぼ5年ぶりに、紹介したいと思える論文が出ていました。

Schmitt et al. Zebra reduce predation risk in mixed-species herds by eavesdropping on cues from giraffe, Behave Ecolこちら

  • 捕食者に襲われないように、動物は視覚的警戒行動(vigilance behaviour; キョロキョロと周りを見渡す行動)を行います。多くの動物で、群れのサイズが大きいほど、各個体は警戒頻度を下げるという「群れサイズの効果(group size effect)」が存在します。みんなでいれば、自分が捕食される危険性は希釈されるし(dilution)、群れのなかの誰かが警戒してくれている可能性が高い(many eyes)ので、それぞれの個体は警戒をさぼってもいいというロジックです。
  • この「群れサイズの効果」は、同種との群れだけでなく、他の種と群れを作る異種間群でも成り立ちます。この時、役に立たなさそうな異種と一緒にいる時と、警戒が得意な種と一緒にいる時では、警戒頻度は変わってきそうです。
  • 今回の論文はシマウマの警戒行動について。シマウマがキリンと一緒にいるときに警戒行動の頻度を下げている、という結果を報告しています。比較対象はシマウマが、ヌーといるとき、同種だけでいるときです。ヌーは背が低いので、役に立たないのでしょう。キリンは背が高いので捕食者を見つけやすく、シマウマやヌーよりも信頼がおける、なんて考察に書かれています。シマウマがキリンに「ライオンが来たら教えてよ」と言っている姿、ヌーには「まじ使えん」などと言っている姿が想像できて、とても微笑ましいです。
  • ちなみに、5年前に紹介した論文「シバかれるシマウマ」もシマウマの論文でした(こちら)。シマウマは愛嬌がある動物ですね。