shorebird 進化心理学中心の書評など

2016-05-23 Language, Cognition, and Human Nature その27

Language, Cognition, and Human Nature 第2論文 「心的視覚イメージ方略についての計算理論」 その4 19:48 Language, Cognition, and Human Nature 第2論文 「心的視覚イメージ方略についての計算理論」 その4を含むブックマーク


深さ方向のメンタルローテーションを説明しようとした初期の2次元アレイモデルの拡張はうまくいかなかった.ピンカーは自らが練り上げた本命を取り上げる.ここからがこの論文の本論になる.


5.新しい理論:デュアルアドレスアレイ


  • これまで取り上げた拡張の最大の問題点は,視覚認知の2重性について最節約的に扱えないというところにある.地平線に続く鉄道線路は,視野内では1点に交わるように見え,視覚認知としては平行だと感じるのだ.それぞれの心的なセットはそれぞれ認知とイメージ形成に役割を持っている.これから説明する理論はこの2重性を説明できるようにしようとしたものだ.
  • (前回最後に説明した)2.5次元アレイでは深さ情報は(明度情報,色情報などと一緒に)そのセルに格納される.そこでは1つのセルとして扱われていたものを,このデュアルモデルでは(深さ方向の)セルのストリングと考える.すると見えているものはその何番目かのセルにあり,それが知覚できるということになる.その深さのマップ情報はカメラの焦点目盛りのような非線形のものであってもよい(というより非線形なものに違いないとピンカーは考えている).さらにこのストリングの1つのセルのみが満たされている(見えているのは1つのセルのみ)と考えることができる.
  • 隣り合うストリングが同じ深さを持っているならこのアレイは2.5次元アレイと3次元アレイの中間のようなものだ.(これを2.75次元アレイと呼びたい誘惑があるが,それは我慢する)
  • このアレイ配列はトポグラフィー的に3次元空間にマップされる.その意味では3次元モデルに似ているが,しかしこのマップは深さ方向に非線形で不均一だ.さらに見えている面のみがマップされ,セルのアドレスは視点中心になる.このため視点中心のディスプレイになる.
  • 実際にヒトが視野の中でどこかの点を注目するときにはこのような調整システムによっている.焦点となっているものと同じ方向にあるものに(深さが異なっていても)気づきやすいのだ.

  • ここまでのところ,このモデルは2.5次元モデルとあまり異なってはいない.しかしここから,アレイのそれぞれのセルに2番目のアドレスを与える.それは3次元の均一で等方的で線形の物理世界の認知の座標システムを反映するものだ.それは以下のようなスキームを持つ(ピンカーはここで角度と深さによる座標(視点座標)から2次元の線形座標(物理座標)への変換テーブルを示している)
  • ここで最後の仮定がある.物理座標アドレスはコンピュータメモリのような「ベース+インデックス」フォーマットを持ち,物理座標システムはどのセルを起点にすることもできるものであるということだ.
  • どのようなメンタルアレイでもその機能はアドレスと座標のシステムに大きく影響される.そして2つの座標アドレスを持ち,片方は視点座標,片方は物理座標とすることで,全く新しいシステムを持つことなく両方のイメージを扱うことができるのだ.
  • マーと西村は,多様な視覚と推論過程から考えると視点座標と物理座標の相互変換が必要だと主張している.ここで説明したモデルはその変換が単純な仕組みで可能であるとするものだ.この後この詳細について説明しよう.

確かに深さをマクロから無限大のピントリングのように感じて,アレイとして見えている点のみを扱うのはよくわかる.ただ変換テーブルはややトリッキーだ.ピンカーのここからの説明に注目しよう.

2016-05-20 Language, Cognition, and Human Nature その26

Language, Cognition, and Human Nature 第2論文 「心的視覚イメージ方略についての計算理論」 その3 19:22 Language, Cognition, and Human Nature 第2論文 「心的視覚イメージ方略についての計算理論」 その3を含むブックマーク


視覚にかかるメタファーに整合的な2次元アレイモデルでは物体のメンタルローテーションの認知をうまく説明できない.そこでそれを可能にするいろいろな拡張が考案された.ピンカーはそのような試みを順にあげて,問題点を列挙していく.


4. 3次元を扱うためのアレイ理論の単純な拡張


4.1 3次元アレイ

  • 最も自然な拡張はアレイを行と列の2次元から行と列と深さの3次元にすることだ.これにより深さ方向の回転をセルからセルへのなめらかな入れ替えで表現できるし,メンタルローテーションのなめらかさも説明できる.また3次元物体のどんな動きも心的に想像できるし,ローテーションの大きさに比例して想像に時間がかかることも説明できる.
  • このような直感的なアピールはあるが,この拡張にはいくつかの重大な問題がある.
  • まず内省的な経験では3次元物体の心的イメージはある特定の視点から行っているように感じられる.また実験の結果はこの内省を支持している.3次元物体が手前に動くと心的イメージは大きくなり,その視点から見えない部分はより想像しにくくなる.(このほかにもいくつもの支持結果が説明されている)
  • 「心の眼が3次元アレイ物体をある視点から捉えるレンズと網膜を持っている」というような馬鹿げた解釈を除くと,これまで得られたデータは3次元アレイモデルとは整合しない.心的イメージには特定視点があるのだ.3次元アレイに直接アクセスしているわけではない.

4.2 アレイとメモリーファイル

  • この拡張は,2次元アレイを保ったまま,3次元物体の形の情報を長期メモリに持ち,そこからアレイパターンを創り出すというものだ.
  • このアレイパターンを創るプロセスには,単に3次元の形の情報だけでなく,どの視点から見るかというベクトル情報のインプットを含んでいる.そしてその視点からどう見えるかを描き出すのだ.メンタルローテーションは,視点を少しずつ変えることによるアレイパターンの連続的な書き換えによってなされる.
  • 残念なことにこの拡張にも問題がある.
  • このシナリオによるとイメージはどんな方向からのイメージでも瞬時に作られることになる.しかし実証的な証拠は別のことを示している.被験者はどんな方向からのイメージでも瞬時に作り出せたりはしないのだ.被験者はまず最初に学習した視点からのイメージを思い浮かべ,それをメンタルに回転させるのだ.
  • このシナリオでは,被験者は自分の視点の移動による物体の見え方の変更と,物体の回転による見え方の変更を同じように扱うことになる.しかし内省的報告ではそうではないのだ.

4.3 2.5次元アレイ

  • 私は1980年に,マーと西原の「2.5次元スケッチ」を拡張した2.5次元アレイモデルを提案した.2.5次元スケッチとはコンピュータ視覚システムの形状認知プロセスにおいて時に使われるもので,2次元アレイモデルのセル情報(明るさ,色彩,テクスチャー,エッジの方向など)に加えて「深さ」「面の向き」を追加するものだ.モデルをこのように拡張させると回転させるときにはこの情報を使えるようになる.
  • これにより回転が数学的に可能になるとともに,視点効果,視覚認知が深さ方向の情報を持つこと,メンタルローテーションが2次元アレイ上でなされることを説明できるようになる.
  • しかしながら,なおこれは完全に満足できるモデルにはなっていない.
  • まず物体が深さ方向に回転しているときのエッジの追跡において,アレイにどのような変更がなされるかの簡単なメカニズムが提示されていない.
  • さらにより基礎的な問題がある.アレイ上の配置と深さの値は視点に依存する.そして物体の本質的なサイズや形はセル情報から計算されなければならない.もしそうならどのように見えるかという想像より物体の本質的なサイズや形の認知の方が難しいはずだ.しかし後者の方がより簡単だということが,子供の絵の描き方や,いくつもの実験で示されているのだ.
  • この本質的判断の方が視点判断より優先しているという問題は,2.5次元アレイモデルにいくつかの前提を与えることで対処可能だが,そうするとそのモデルは反直感的で,とても簡潔とは言えない物になってしまうのだ.

この最初の3次元モデルが,冒頭のエッセイで触れられていた最初の挫折した取り組みということだろう.ヒトが物体をメンタルに回転させているときに脳の中ではどのように情報処理をしているのかについて,実際にモデル作りに取り組んでみると非常に難しいことがわかるということをよく示している総説ということになる.この後ピンカーは本命のモデル拡張を取り上げる.

2016-05-17 書評 「生物時計の生態学」

[] 「生物時計の生態学19:59  「生物時計の生態学」を含むブックマーク


本書は種生物学会によるシリーズの最新刊.今回は生物時計がテーマだ.周期,メカニズム,生殖隔離への役割,リサーチ法と4部構成になっている.

第1部 さまざまな生物のさまざまな周期

冒頭の第1章の陶山佳久によるタケの話はいきなり面白い.タケやササは60年とか120年とかの周期で開花して世代交代するという話は大昔に読んだことがある.なぜそのような生活史が進化するのかは確かに興味深い問題だ.しかしさすがにこれは研究しにくい素材のようで,あまりその後の進展を聞いたことはなかった.本書ではそこに焦点が当てられている.ここはとても面白いので少し詳しく紹介しよう.

冒頭ではこの問題の見取り図が示されている.まず現象としてタケ集団が長期周期で一斉開花してその後枯れてしまうということが観察される.そしてその間は無性生殖して大きなジェネット(クローンで構成され地下茎でつながるタケの集団)を構成する.この長期周期一斉開花には,親子間競争回避,風媒効率,捕食者飽食などの進化的な説明仮説がある.しかし一方で周期が長いとジェネットが巨大化して中心部分の花では他殖が難しくなるのではないかということが問題になる.

そしてインドのミゾラム州でほぼ48年周期で開花して世代交代するタケが記録されていて,著者たちは4年後の2007年に開花しそうだという情報を入手し現地で長期リサーチを立ち上げる.そしてそのタケは期待通りに一斉開花枯死してくれた.

その結果,同期集団は数千平方キロメートル以上広がっていること,特定ジェネットの一部の桿(ジェネットを構成する1本1本のタケ)は1年早かったり遅かったりすること,さらにごく一部のジェネットは非開花竹林を形成しているようであること,実際にはある程度ジェネットが入り交じって竹林を形成しており大きなジェネットの方が確かに自殖率が高かったが繁殖成功にはあまり差がなかったことなどが観察された.また前回開花時の種子から生じたジェネットが日本でも開花枯死したことからこの開花は内的な時計によって同調しているものと考えられた.

著者はリサーチはなおこれからだと前置きしつつ,ジェネット混在竹林を前提にすると単独開花はジェネット間競争で不利になるために(ESSとして)一斉開花が進化した可能性があり,さらに周りの個体の2倍周期を持つ個体が(ジェネットが大きくなれ,かつ同調開花もできるために)有利になり,それが積み重なって2の累乗の約数を持つ長期周期が進化したのではないかと推測している.

なかなか説得的な仮説で面白い.一回生殖と多数回生殖,さらに近隣ジェネット間のリソース競争をモデル化したら面白そうだ.


第2章は山本誉士による海鳥の月次リズム.バイオロギングの結果オオミズナギドリが1ヶ月周期の行動パターンを示していることが明らかになる.これは月明かりが夜間の海洋での捕食者回避や採餌行動の効率に影響するためと考えられる.


第3章は佐藤綾による昆虫の潮のリズム.マングローブ林にすむスズムシであるマングローブスズの行動パターンをデータ化すると潮の満ち引きのリズムのパターンを持つことがわかる.この際に海水に触れることで体内時計を調節していることを示したもの.


第4章は渕側太郎によるミツバチコロニーの概日活動リズム.ミツバチのワーカーは互いに接触や振動を通じて社会的同調を起こして概日リズムを形成している.驚いたことにクイーンは特別に大きな影響を持つ.これに進化的な意味があるのかどうかは興味深い.このほかコロニー内のリズム多型,他の社会性動物の概日リズムの社会的同期などが扱われている.


第5章は原野智広によるアズキゾウムシの概日リズムの遺伝的変異.

アズキゾウムシの概日リズムを系統間で比較し,さらに交雑実験によってその変異に遺伝的な基盤があることを示したもの.発育期間との関係も扱われている.

章末には熱帯雨林の(多種間の)一斉開花に関する研究の現状報告がコラムとして載せられている.なお調べることはたくさんある様子だ.


第2部 植物がリズムを刻むしくみ

第2部は植物の生物時計の至近メカニズムがテーマだ.中枢神経系を持たないのでどうしているかがポイントになる.

第6章は多振動子系としての数理的な解析(福田弘和),第7章はいわゆる「短日性」とはなにを指すのかも含めたイネの生物時計についての詳細(井澤毅),第8章は昨年の日本進化学会で講演されていた気温の長期記憶について(工藤洋・永野惇)それぞれ解説されている.メカニズムはそれそれ精妙な進化適応産物だという印象をいだくところだ.


第3部 生殖隔離に関わる生物リズム

種分化においては生殖隔離がどのようになされるかが重要だ.地理的隔離のほか時間的隔離でも生殖隔離は生じうる.そしてその場合には生物時計がポイントになってくるのだ.

第9章は山本哲史によるフユシャクガの種分化.クロテンフユシャクは文字通り冬季に活動するガだが,寒冷地においては厳寒期に活動せずに,初冬型と晩冬型に分かれる.著者は執念の標本集めを決行し,系統地理解析を行う.その結果初冬型と晩冬型の分化が遺伝的にも生じていること,これは二カ所で独立に生じていることを見いだした.


第10章は松本知高による夜咲の進化.

ハマカンゾウとキスゲは近縁種だが,ハマカンゾウは橙色の花の昼咲で昼行性のアゲハチョウを送粉者とし,キスゲは黄色の花の夜咲で夜行性のスズメガを送粉者としている.これまでの先行研究で開花時間を制御する遺伝子座が4つ,花色の遺伝子座が2つ知られているので,それらの進化モデルを組みシミュレーションを行ったもの.この結果種分化にはパラメータとして雑種の生存率が重要であることが示された.花色の変化が先に生じても送粉者が減るだけでメリットがないが,夜咲の変化はこれまで利用していなかったスズメガ送粉を利用できるので有利な面がある.このときにある程度雑種の生存率がないと夜咲が広まらない.いったん夜咲が広まると今度は花色の進化も生じうるが,このとき雑種が有利すぎるといつまでも分化が生じない.だから中間域の雑種生存率が重要だということになる.そしてその条件が満たされるなら高確率で種分化か生じることが予想できる.そして実際にこの種分化は複数回独立に生じているという事実とも整合的であるというもの.なかなか面白い.

章末には開花フェノロジーについてのコラム,コオロギの鳴き声のパルススペリオド(「リー」というロングチャープ内の各パルス間の時間間隔)が種識別に重要だというコラムが収録されている.いずれもなかなか深い内容だ.


第4部 生物リズムの研究法

第4部はリサーチャー向けの講座.


第11章は佐竹暁子による数理アプローチ講座.しかし題材には著者の植物のデンプンマネジメントに関する最新の研究が採られており,深い.生物時計を扱う上では「位相」が重要になるので,微分方程式三角関数が登場するのがポイントになる.

さらに力学系と位相を数理的に基礎解説する伊藤浩史のコラム,実験データからどのように周期や位相を読みとるかという粕川雄也のコラムが収録されている.


以上が本書の内容だ.生物時計や生物リズムについてのいろいろなテーマが取り上げられていて多彩だ.これまでこのテーマに関してはあまり考えたことがなかったが興味深いところがあることが理解できた.特にタケの超長期一斉開花の進化,時間的隔離による同所的種分化あたりが個人的には興味深く感じられた.

2016-05-14 Language, Cognition, and Human Nature その25

Language, Cognition, and Human Nature 第2論文 「心的視覚イメージ方略についての計算理論」 その2 14:20 Language, Cognition, and Human Nature 第2論文 「心的視覚イメージ方略についての計算理論」 その2を含むブックマーク


2. 背景:視覚イメージについてのアレイ理論


ピンカーによると視覚記憶と物理的な画像をリンクさせる議論はプラトンにさかのぼる.これを文字通りに読むと馬鹿げた結論に行き着いてしまうが*1,メタファーの賢明な解釈は現代の計算心理学と整合的なものになるとしている.そのひとつがこれから解説するアレイ理論になる.

ピンカーによるアレイ理論の概要は以下の通り.

  • 視覚やそのイメージの基礎構造は2次元のセルの配列(アレイ)による.
  • 目的物や光景は,目的物や光景と同形のセルのパターンによって描写される.
  • セルにはラベル付けされ階層的になった視細胞や長期記憶からの情報(明るさ,色,テクスチャー,エッジの存在,その向きなど)が書き込まれる.
  • この情報は定期的に書き換えがないと急速に消失する.
  • パターンマッチはこのセルのパターンに移動回転拡大縮小などの操作を行うことによって行われる.

ピンカーは視覚システムがアレイ理論に従っていることを支持する証拠を以下のように整理する.

  • 理論は視覚に用いられる配列は単一であると予想する.実際に(左半球にある)特定脳部位が視覚イメージの表出と操作に関わっている.
  • アレイ理論はイメージのサイズ,形状,位置,方向を単一の配列で扱うと予想する.対立仮説はそれぞれ別々に扱うとする.異なるイメージが同一物体かどうかを判別させる実験によると,被験者はイメージを回転させて一致できたときにすべての項目の一致を知覚する.これはイメージの方向の非マッチが,ほかの特質のマッチ判断について干渉していることを示しており,アレイ理論を支持している.
  • マッチ判断に事前の手がかりを与える場合に,サイズ,方向,位置などの手がかりを個別に与えてもほとんど効果はない.事前の手がかりが実際の刺激とそのまま重ね合わせできるように与えられるときにもっとも効果が大きくなる.
  • 被験者はパターンを見るときにイメージを利用していると報告する.

3. アレイ理論の問題点


しかしアレイ理論は完全に受け入れられているわけではない.批判はいくつかあるが,ピンカーはここで「アレイ理論は3次元物体の情報表出についてうまくいかない」という批判を取り上げて吟味するとする.

確かに2次元の配列(アレイ)で3次元のイメージを処理するには問題がある.ピンカーは以下のように整理している.

  • 前後の奥行のある回転をさせるメンタルローテーションが,正面の平面上において回転をさせるメンタルローテーションとほぼ同じ正確性と角度の関係を持つことが可能な二次元アレイをもちいたモデルを構築しにくい.これには3つ理由がある.
  1. 3次元物体の2次元投影像は曖昧性,多義性を持つ.
  2. 回転の角度とともに困難性が増すモデルを平面上の回転について構築するのは簡単だが,奥行きのある回転はこれが難しい.
  3. 奥行きのある回転ではそれまで見えていない面が途中から現れる,この情報は当初2次元アレイにないものになる.
  • 視点や位置に対する視覚的知覚の安定性があるモデルを2次元アレイでうまく構築するのが難しい.

このような困難性に対処するための拡張理論もいろいろ提唱されているそうだ.ピンカーはそれらを紹介して批判し,最後にごく辞の理論を提示したいと予告している.

*1:この馬鹿げた議論の詳細は説明されていない.頭の中の小人の議論に行くつくということだろうか

2016-05-11 Language, Cognition, and Human Nature その24

Language, Cognition, and Human Nature 第2論文 「心的視覚イメージ方略についての計算理論」 その1 07:13 Language, Cognition, and Human Nature 第2論文 「心的視覚イメージ方略についての計算理論」 その1を含むブックマーク

A Computational Theory of the Mental Imagery Medium 1988 Cognitive and Neuropsychological Approaches to Mental Imagery 42 17-32



この論文は1988年のもので前論文(1979年)よりかなり後のものになる.視覚の認知に関する論文だ.


エッセイ


冒頭で心的視覚イメージ(mental imagery)のリサーチを始めた経緯が書かれている.それはあるパラドクスがきっかけになっていた.

1970年代にロジャー・シェパードが行った実験によって,ヒトが心的に3次元物体を回転させる場合に,見える形をそのまま回転させるときと同じように容易に前後が入れ替わる形の回転もできることが明らかになっていた.このときピンカーの指導教官スティーヴン・コスリンは(ピクセルで構成される)2次元的形のイメージを扱うコンピュータモデルを作っていた.彼はここに奥行きを与えて(ヴォクセルで構成される)3次元モデルにすることも簡単だろうとピンカーに示唆した.

しかし網膜のような2次元の表面に投影されたシーンからどうやって3次元空間における3次元物体のイメージが得られるのかという問題が浮かび上がったそうだ.

結局コンピュータのメモリ(あるいは脳のニューロン)の中のヴォクセルを照射する光線があって,何らかの方法ですべてのヴォクセルについて反射が生じ,頭の中の小人の中の網膜に焦点を結ぶわけではないのだ.片方でヒトの心的イメージは確かに知覚効果を持ち,シーンをある視点から描写する.心の眼では,平行する線路は収束するように見え,後退する物体は縮小し,向こう側の表面は見えないのだ.

ピンカーは心的イメージには3次元感覚と特定視点特徴の両方があるという議論を組み立てたが,それがどのようになされているかという問題は残った.この論文はそこに関するものとなる.

またこの論文は「イメージ論争」そして心の計算理論にも関連するそうだ.この第2章のエッセイは,エッセイというより非常に短い論文の背景説明という感じの小文だ.


1. 導入


  • 過去25年間に「認知科学」と呼ばれる科学分野は心的過程についての私たちの理解に革命を起こした.この中心には「心の計算理論」と呼ばれる「セントラルドグマ」がある.これは「心的過程はシンボルの操作,あるいはプログラムであり,神経組織の情報処理能力で可能な単純なプロセスによっている」というものだ.
  • 「心の計算理論」は,知性を説明するには不可欠だがそれまでは曖昧だった「記憶」「意味」「目的「「知覚」などの概念について正確にメカニカルに扱えるということで急速に進展した.さらにそれは,認知タスクについて必要な計算ステップや必要メモリを明確化できるので,ラボでのシミュレート実験も活性化させた.
  • 心的視覚イメージリサーチはこのような新しいアプローチによってもっとも利益を得た分野だ.
  • 20世紀の哲学者と心理学者は,心的視覚イメージについての常識的な理解は科学的にはよくて不要,悪くすると非一貫的で誤謬につながると議論してきた.
  • しかしこの計算理論によって問題は明確化され,今や議論はどの概念体系が首尾一貫しているのかという論理的ななものから実務的なものにシフトしている.
  • 私はここでこの計算理論によってあるパラドクスが解決されうることを示そうと思う.そのパラドクスは「心的画像(mental pictures)は2次元であることを意味しているが,しかし人々のイメージには3次元が含まれている」ことだ.特に画像が生じてそれにどう3次元情報が組み込まれるかについての脳のメカニズムにかかる理論を提示したい.さらにこの理論がほかの空間認知能力(パターン認識,知覚の安定性,注意,感覚間の調整)に必要な計算能力とも矛盾しないことも示したい.

第2論文は視覚に関するもので,やはりハードな内容のようだ.確かにピンカーは「How the Mind Works(邦題:心の仕組み)」において視覚認知の問題も丁寧に取り上げていたことを思い出す.なんとかついていこう.


関連書籍


ピンカーによる進化的な視点を踏まえたヒトの認知行動特性にかかる本.刊行は1997年.当時は衝撃的な本だった.今でも進化心理学副読本としては真っ先に読むべき本のひとつだと思う.

How the Mind Works

How the Mind Works


同邦訳.視覚にかかる説明は第1章の冒頭で説明すべき謎のひとつとして取り上げられ,第4章で詳しく解説される.ながらくNHKブックスの3巻本だったが,2013年にちくま学芸文庫に収められたようだ.Kindle化はされていない.

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