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2013-12-25 HBESJ 2013 HIROSHIMA 参加日誌 その3 

[] 第6回日本人間行動進化学会参加日誌 大会二日目 その2 f:id:shorebird:20131225065004j:image:right 06:59  第6回日本人間行動進化学会参加日誌 大会二日目 その2 を含むブックマーク


午後は総会から.来年の開催は神戸と決定.続いて口頭発表セッションが2つ続く.


口頭セッション3


間接互恵状況における協力意図のシグナル 田中大貴


間接互恵性のリサーチにおいてドネーションゲームの手で分析しようとすると「利己的意図で相手から搾取しているのか」「裏切り者に対する罰として搾取しているのか」が区別できないという問題が生じる.

ここで自分の得た利益を放棄して,これは利己的意図ではないことをシグナリングできる設定にしたらどうなるかを調べてみた.ここでは「自己罰」と呼ぶ.具体的にはゲームの選択において「協力」「非協力」「非協力但し利得を返還」の3つから選べるようにする.

実際に実験してみると参加者は確かに相手の前回の手の「非協力」と「非協力+自己罰」を区別し後者に対してより協力した.また参加者は実際に「非協力+自己罰」という選択を実際に行うことが示された.発表者はこれは間接互恵性において,シグナリングが重要な機能を果たす可能性があることを示したものだとまとめていた.

直感的にも評判を気にするならいかにもありそうな戦略のように思われる.


さまざまな社会的ジレンマと間接互恵性:スノードリフト・スタグハント・囚人のジレンマ 中村光宏

これまで間接互恵性の研究はノヴァクとシグムンド以来ドネーションゲームを使って行われてきた.これは利得行列を考えると囚人ジレンマ状況となっている.しかしいわゆる社会的ジレンマと言われる利得状況には囚人ジレンマPDの他にもスノードリフトSGやスタグハントSH状況もあり,レプリケータダイナミクスはそれぞれ異なっている.(利得行列によりゲーム状況を切り分け,ダイナミクスをみると,PDはCからDに一方的に向かい,SGでは両側から中央に向かい,SHでは中央から両端に向かう)

SGやSH状況では間接互恵性がどうなるのか,ここではエラーありのオブザーバー付き同時手順ゲームとしてシミュレーションしてみた.どのような評判形成ルールが進化しうるかをみると,SGはPDとおなじになったが,SHでは異なったルールとなった.SHの場合には,Good相手にDを行った手に対する評判の悪化条件が緩く,Bad相手にDすることを良い評判とする必要性が高くなるようだ.

このようなシミュレーションは様々なパラメータに対して少しずつ挙動が異なるというわけだろう.詳細はなかなか面白い.


集団間葛藤回避としての集団愛 横田晋大

ここでの「集団愛」はグループ内の個人への愛着ではなく集団自体に対する愛着を指し,典型的には特定のスポーツチームのファンなどにみられる.これは差別の先行要因として重要視されて研究されてきた.しかしこれには山岸たちの批判がある.これは差別の至近因ではあり得ても究極因ではない.またカテゴリーは容れ物に過ぎず,それに愛着を持つのは適応というより副産物的だというものだ.

本発表ではそうではなく集団愛にも適応的基盤があるのではないかということを議論したい.それは集団愛を「集団間コンフリクトにおいて自分たちが強いことを示すディスプレーの効率を高めるもの」として進化したものだする仮説だ.このようなディスプレーとしての機能の問題点は本当に争いになったときにコストが大きいということだ.だから自分たちからは闘争をしかけない,実際に争いになったときに逃げないなどの集団の統率が必要になる.するとこれは真に争いになったときに逃げないためのコミットメント問題になる.するとそのために日常的にコミットする集団愛が有効になると考えられる.

間接的な証拠としては以下のようなことがある.

  • 高い愛情をディスプレーしている外集団の方が非好意的に解釈される
  • 集団愛傾向には明確な性差があり,男性の方が強い.

そしてアンケート調査を行ってみた.このアンケート調査を同大学に所属する人がみるという前提と,別の国の大学の誰かが見るという前提で日本への愛情に関する項目をアンケートする.その結果なお統計的に有意とまでは行かないが,男性にのみ外国の学生にみられるときにより日本への愛情が高いという傾向が現れた.今後はデータ数を増やすとともに,協力の促進,愛着の操作,結束への反応などを調べていきたい.

調査結果はなかなか興味深いが,しかしこの議論全体が何となくナイーブグループ淘汰的でいただけない.メンバーの利益とコスト,そしてただ乗りをどのように考えているのだろうか?また通常コミットメント問題はその個体が短期的に合理的な行動をとると長期的に不利になるような場合に使われるが,これはそういう状況とは少し異なるようだ.

はたして山岸からこれはコミットメント問題ではないとのコメントが寄せられた.また山岸からは状況をPDからSHに変更する仕組みという視点から捉えてはどうかというコメントもあった.なかなか深い.


外集団脅威は男の外集団攻撃を引き起こすか?:最小条件集団を用いた実験的検討 坪井翔

集団間コンフリクトは特に男性心理にとって進化的に重要だと考えられている.よくいわれるのは内集団協力促進行動で,これは実験的にも確かめられている,

「男性戦士仮説」は,外集団とのコンフリクト状況において,男性は内集団での協力促進をするとともに外集団に対して攻撃的になるとする.これは男性の場合には外集団とのコンフリクトにおいて勝利すると女性へのアクセスが増えるという大きな適応度上昇があるからだというアイデアに基づいている.

ここでは対立仮説として「結束の誇示説」を考察する.この仮説では内集団協力促進は同じだが,外集団には誇示だけで実際の攻撃増加は生じないと予測する.

ここで,外集団脅威のあるなしと集団所属性の知識を操作して被験者にPDゲームをやってもらう実験を行った.結果,女性では協力頻度は操作の有無の影響を受けなかった.男性では,あまり明確な差は出なかったが,相手が内集団だと知ると協力頻度が上がり,外集団だと知ると協力頻度が下がるという傾向が現れた.これは誇示化説より男性戦士仮説を支持するようだ.

質疑応答でも誇示すれば争いになる確率は増えるのではないかと議論されていたが,ディスプレーだけ行って攻撃しないというのは,偽の信号を相手に信用させるという問題になるから,信号の正直性という観点からもなかなか微妙な問題になるように思う.その意味からはこの結果は納得性があるように思われる.


一旦休憩を挟んで最後の口頭発表セッション


口頭セッション4


協調行動における性差に関わる要因:PD ゲームにおける報酬と他者認知を中心に 安念保昌

囚人ジレンマゲームを行った場合の手の推移にかかる性差を調べたもの.何らかの仮説に対する検証実験というものではなく,非常に多くの試行データを分析して傾向があるかどうかをみてみたという形になっている.以下のような知見が得られたとしている.

  • 女性はTFTをとる相手との組み合わせでCD,DCを行き来する傾向がある.これは何とか相手を協力に誘い込もうとして裏切られる,それに報復するということを繰り返すからのように見える.男性はCCDDで固定してしまうことが多い.
  • 女性は相手が人と思うか機械だと思うかで大きく推移が異なる.人と考えているとより協力頻度が高い.男性ではあまり差が出ない.

なかなか相手の採用している戦術などパラメータが多くて複雑だが,手の推移だけを見ると確かに男性と女性で大きく異なる部分があるようで面白い.


人類における分業の起源 中橋渉

分業はどのように始まったのか,よくいわれるのは,集団生活,食糧の分配,役割分担という3要素だ.集団生活はおそらくアファレンシスの頃からあり,食糧分配もエレクトゥスの頃にはあっただろうと思われる.問題は役割分担だ.ユーラシアにおける食糧の多様性の研究によるとネアンデルタールからサピエンスになって大きく多様性が増えた(大型草食獣中心から多様な食物へ)とされている.だからおそらくそこが分業の起源時ということになるのだろう.

ここではこのような役割分担が生じる数理モデルを説明する.

資源が2つ,それぞれを得る技術があり,それぞれ限界効率逓増的な習得曲線があって特定の時間には1つの技術のみが扱え学習か使用の片方しかできないとする.すると様々なパラメータに応じて集団中の個人が片方の技術に特化する方がよいか,両方を学んだ方がよいかが変わってくる.

分業が生じやすい条件には以下のものがあることが示された.

  • 学習効果が高い(片方に特化した方が総ゲインが大きくなる)
  • 集団サイズが大きい(小さいと得られる資源に確率的なばらつきがでるので,両方の技術を習得しておくメリットが大きい)
  • 2つの資源が両方ともある程度ある
  • 分配がある

サピエンスになって学習効率が高くなり,得られる資源の多さとともに人口が増えて正のフィードバックが働いたのではないかとまとめていた.

説明の中では,個人に男女などの2カテゴリーがあり,習得曲線や得意技術に差があるとより分業が生じやすいとも説明されていたが,(習得曲線の形状より)こちらの方が経済学的な視点からは重要であるように思われるところだ.


更年期症状をゲノムコンフリクトから説明する 大槻久

導入としてまず閉経の進化的説明から

ヒトの女性には閉経がある.この閉経があるというのは端的には「繁殖できるのに繁殖しない」ことになるから進化的には興味深い現象といえる.これが観察される動物も少ない.ヒトの他にはゴンドウクジラ.シャチで確認されているだけだ.(アカゲザルニホンザルにはあるという報告もあり議論になっているが今のところ決定的とは言えない)ゾウは60歳でも繁殖し,ヒゲクジラは90歳でも繁殖するという報告もある.

何故ヒトには閉経があるのか.主な仮説には3つある.

  1. Austudによる長寿の副産物説.しかし卵胞は38歳頃から加速的に減少しており,何らかのレギュレーションの結果閉経が起こっていることが強く推測されるし,この減少は他の霊長類では見られない.このような加速メカニズムがあるというのはそれが適応的であることを示唆しているように思われる.
  2. 有名なおばあちゃん仮説
  3. CantとJohnstonによる繁殖コンフリクト説.これは厳密にはおばあちゃん仮説と排他的な関係にあるわけではない.基本的に社会生活をおこなう哺乳類で,メスが分散する場合には,ある(分散後の)メスの集団他個体に対する平均的な血縁度は生活史の中で上がっていく.ここでヘルパーがいる方が子育て上のメリットが大きいとメス個体にとっては年齢が上がるにつれてどこかで自分の繁殖をやめてヘルパーに専念する方が包括適応度が高いという状況が生まれるというものだ.

(ここではこれ以上の説明はなかったが,この仮説は基本的には祖母世代の繁殖子育てと息子・嫁の繁殖子育ての間に繁殖機会を巡るコンフリクトがあるという状況を前提にしている.血縁度の上昇と包括適応度は非常に単純なケースでいうと,(メス分散社会であれば)嫁からみた姑の子は血縁度ゼロだが,姑からみた嫁の子は血縁度0.25となるので,コンフリクトに際して祖母側から譲る方が閾値が低いという形で現れることになる.またおばあちゃん仮説との関係でいうと,繁殖コンフリクト仮説は,実際の閉経の状況がおばあちゃん仮説だけでは定量的に説明が難しいのを補っていると評価できる.また最後の質疑応答で解説されていたが,この仮説はそもそも他の生態要因によって閉経による血縁個体の子育て支援の包括適応度の上昇効果が大きいときに母系分散が効いてくるという説明なので,母系分散だけで閉経が生じると主張しているわけではない.チンパンジーに閉経がないのはそのように考えられる)


この繁殖コンフリクト説は大変説得的だが,なお謎が残っている.それは更年期の存在だ.もし閉経が適応なら,単に切り替えればいいだけのように思われる.しかしヒトの女性の場合(長い場合には)15年もの間更年期に悩まされる.生理的にはエストロゲンが激しく変動を起こしている.そして心理的にも身体的にもコストを払っている.

ここではこれはなぜなのかを解明したと主張する.

まずヒトの社会は過去女性分散型だったと考えられている.(傍証としてはミトコンドリア遺伝子Y染色体遺伝子の状況,アウストラロピテクス化石骨のストロンチウム分析などがある)また男性の方が繁殖成功の分散が大きかったと考えられている.(これもヒトには若干の性的二型性があることなどが傍証となる)

この2つの事象のうちどちらかがあると,ある女性が「何歳で自分の繁殖から嫁の子育てのヘルパーに切り替えるか」という戦略決定について,その女性の父親由来のゲノムにとっての最適年齢と母親由来のゲノムにとっての最適年齢が異なることになり,その間にゲノミックコンフリクトが生じる.

具体的には,父はもとからその集団に属しているので,父ゲノムの方が孫に対する血縁度が(婿経由で)高くなる.すると最適閉経年齢は母ゲノムのものより若くなる.

(なお,説明はなかったが,この議論が成り立つためにはその娘自体は分散していないことが必要になるように思われる.だからすべてのメスが分散するわけではなく確率的にオスより分散しやすいという状況で,分散しなかったときに起こりうる状況だということだろう.またメスが分散しない場合には,オスの繁殖成功の分散の説明も当てはまることになる.)

すると,娘はいつ閉経するかについて,父ゲノム最適年齢から母ゲノム最適年齢までの間常にコンフリクト状況におかれることになる.


ではコンフリクト状況では何が起こるか.ここで月経がうまく生じるために最適エストロゲン量があり,多すぎても少なすぎても妊娠できなくなる.このような状況で,父ゲノムは妊娠を止めたく,母ゲノムは妊娠させたいというゲームを行うとどうなるか.単純化してエストロゲン量について(過大H,適正N,過小L)の3つの手が選べる(そして結果はLL,HHが妊娠可能性が極小で ,HNとNLが中間,NNとHLが通常)とする.これを数理的に分析すると,ナッシュ均衡*1は母ゲノムは常に(適正N)父ゲノムは(過大H)と(過小L)をランダムに選ぶというものになる.これは表現型レベルではエストロゲンのランダムな変動を引き起こすことになる.

そして実際にGNAS1という遺伝子は欠損すると早期閉経が生じることが知られているし,月経に関する遺伝子は母系遺伝的で父経由なら発現せず,父経由なら発現するものが多いことも知られている.これらはいずれもこの仮説の予測通りだ.

なお更年期のつらさには人種差があることが知られており,アフリカ系は10倍苦しいともいわれている.これは母系分散傾向の差で説明できるかもしれない.そしてそれはミトコンドリアY染色体で調べることが可能だろう.

結論としては更年期はゲノミックコンフリクトで生じると主張する.


この大槻の発表は短い時間に濃密な情報が詰め込まれ,それを流れるようにプレゼンし,まことに見事だった.特にゲノミックコンフリクトというアイデアに加えてゲーム理論から至近要因のエストロゲンの変動を説明するというところが魅力的だった.包括適応度,ゲーム理論が組み合わさった素晴らしい理論研究だと思う,

まさに本学会発表のオオトリにふさわしい.個人的にも,遅い新幹線にして最後まで参加してよかったと感じられた.



というところでHBESJ2013は終了した.美しいキャンパス,美味しい食べ物,事務局のホスピタリティ,素晴らしい発表,ほんとに参加して嬉しい学会だった.関係者の皆様には重ねて厚く御礼申し上げたい.


広島まで来てこれを見逃すことはできないということで,前入りした日に呉まで足を伸ばし大和ミュージアムを訪問.

これは1/10スケールの戦艦大和の模型.

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こちらは琵琶湖から引き上げられたという零戦62型の現物

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冬の広島とくればこれも.

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*1:大槻はESSとは表現しなかった,微妙な問題があるのだろうか

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