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2015-08-02 書評 「クマムシ研究日誌」

[] 「クマムシ研究日誌」 09:30  「クマムシ研究日誌」を含むブックマーク


本書は東海大学出版部のフィールドの生物学シリーズの最新刊.今回はクマムシについてのブログ(むしブロ http://horikawad.hatenadiary.comメルマガ(むしマガ http://www.mag2.com/m/0001454130.html)や商品化(クマムシさんのお店 http://kumamushisan.shop-pro.jp)などで有名な研究者の堀川大樹によるもの.シリーズのお約束通りに自伝風の研究物語に仕上がっている.

クマムシを最初に知ったきっかけは「たけしの万物創世記」の紹介だったそうだ.その後生物の研究者になることを志すようになるが,この超級の耐久性を持つ生物を研究している研究者は非常に多いのだろうと考えて,クマムシを研究するのはあまのじゃく的にあきらめていた.しかし調べてみると実は非常にマイナーな研究対象であることを知り,一気にその研究を志すようになる.このあたりの経緯はなかなかドラマティックで面白い.著者はこれを「カーブのすっぽ抜けが,ストライクゾーンの真ん中やや高めに甘く入ってきた」と表現している.後は確実にボールをレフトスタンドにたたき込むだけだ.*1

そこからは著者のクマムシの耐久性を調べる研究歴が語られていく.甘ちゃんの研究者がだんだん鍛えられてプロになっていく過程はなかなか読ませる.内容的に印象的なのは,このような生物の生理特性を調べる研究では,飼育系を確立することが非常に重要だということだ.最初は採ってきたクマムシを使うのだが,それでは乾眠状態のクマムシにストレスをかけてその後水分を与えた場合に復活するかどうかだけしかわからない.これではどの程度のダメージを受けているのか判断できないし,また日齢がわからないために齢毎の耐久性の変化や寿命への影響も測定できないのだ.

すでに飼育法が知られていたオニクマムシは飼育の手間が非常にかかるために断念し(著者は測定中にそのあまりの過重な負担に倒れそうになる),紆余曲折の末にクロレラで育つヨコヅナクマムシの飼育系の確立に成功する*2

そこから研究は進み始める.そしてその結果得られた様々なクマムシのウルトラ耐久性にかかる知見が紹介されている.(本書ではその究極因については「凍結耐性は乾燥耐性に対する副産物であるのではないか」ということ以外あまり考察されていないが,私的には興味深いところだ.何故クマムシにはこのようなさまざまな耐久性が進化したのだろうか?ほかの生物と何が異なるのだろうか?)

様々な成果は上がるものの,研究者としてのキャリアはマイナーな研究対象のためになかなか苦労を強いられることになる.幸運にもNASAの宇宙生物研究グループで研究を行うことができたり,フランスでいい加減な招聘者に苦労させられたりしながらも,著者はへこたれずに独自の道を開こうともがいている.その心意気やよしというところだろう.読後感が爽快だ.


関連書籍


堀川大樹の本


クマムシの本.これは2006年の岩波ライブラリー,基礎講座として楽しい本だ.最近電子化されたようだ.



 

*1:このほか本書には通常とは少しずれたメタファー表現が満載で読んでいて楽しい.たとえばガンマ線の強さが距離の二乗に逆比例する事について台所の三角コーナーのゴミの臭いで説明し,クマムシ放射線を照射する気持ちを豚を出荷する養豚農家の心情にたとえていたりする.

*2:著者はこれを「クマムシ革命」と呼んでいる.なお成功したときの嬉しさについてはジュリアナ東京のお立ち台にあがったボディコン女子のように踊りだしたかったと表現している

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