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2017-09-11 日本進化学会2017 KYOTO

[] 日本進化学会2017 参加日誌 その3 20:04  日本進化学会2017 参加日誌 その3を含むブックマーク

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大会第2日 8月25日


この日も京都は暑い.バスで会場入りしてまずは一般口頭発表Dへ.


口頭発表 4


相利共生系における多様性の維持メカニズム 江副日出夫


相利共生系は多様性にどういう影響を与えるのか.共生者が互いに強い正の利益を得られるなら,他の共生系に対して有利になり,共生系同士の競争において他を馳駆して多様性が下がる可能性がある.片方である系のホストと別の系の共生者の間に相互作用があれば,多様性を増す要因にもなりうる.

そこでホストと共生者からなる共生系が2つあるレプリケータダイナミクスモデルを作ってシミュレーションを行った.この結果,淘汰が強い場合には,競争が激しく共生者が可変である条件で二つの系が共存する安定平衡が現れ,淘汰が弱い場合には競争も弱く,やはり共生者が可変である条件で両者共存の安定平衡が現れるという結果になった.



Some effects of locality in random matching on equilibrium selection of games 宮下春樹


進化ゲームにおいて協力の進化はよく取り上げられているが,初期のアクセルロッドとハミルトンは無限集団を前提としており,ヘイグらのモデルは無限集団から有限メンバーを選ぶことを前提にしている.

ここでは有限集団から有限メンバーを選び,戦略は利得だけでなく周りでうまくいっている戦略をまねるということが生じるという前提でスタグハントゲームを進化的に行うとする.戦略は「協力」,「協力しかし裏切りには罰する」,「非協力」の3つとする.

するとESSは罰付き協力と裏切りになるが,揺らぎを乗り越えて長期的に安定になるのは裏切りだけになった.


発表者はヘイグモデルとの違いをいろいろ議論していた.とはいえ大きくみると裏切りはいったん固定するとそこからは逃れられず,罰付き協力戦略はどうしても単なる協力戦略に侵入されてしまうというよく見慣れたダイナミクスだったように思う.



グッピーにおいて錐体オプシン遺伝子の多型が色覚及びメスの配偶者選好性に与える影響 酒井祐輔


グッピーではオスのオレンジ色のスポットなどの体色が多様化している.これにはメスによる配偶者選択が効いていると考えられ,そうするとメスの色覚も問題になる.

グッピーの錐体には9種類の色覚に関するオプシンがある.この中でLWSは長波長のところに関しており,特にLWS1はオレンジの見え方に関わる.このLWS1には種内多型があり,遺伝子型により発現量が異なってオレンジの見え方が異なるはずだ.グッピーの原産地トリニダード島の2つのサイトではこのアレル頻度が大きく異なっている.さらにこの発現量はどのような色環境で育ったかによって影響を受ける.つまり光感受性は遺伝子型と環境の相互作用で定まっている.

次に行動を調べる.水槽外側に二つの液晶パネルをおいてオスの映像を流しどちらの映像にメスがより近づくかをみる.すると確かに発現量とオレンジスポットの大きなオスに近づく頻度が相関していた.


質疑応答では液晶からの光は自然条件下でのオスのスポットのスペクトルと異なるだろうと突っ込みが入っていた.そのあたりは今後調べていきたいそうだ.



シロオビアゲハにおける擬態と配偶者選択の適応的共進化 辻和希


これは10年以上やってきたことをまとめたもので,限られた時間では手法の細かいところは説明できないとコメントがあり,非常に濃密な発表が行われた.


シロオビアゲハは,メスの一部のみがベニモンアゲハ(毒チョウ)にベイツ型擬態を行うことが知られている.するとメスは,オスと同じ模様(以降正常型と呼ぶ)と擬態模様の多型になっているが,これはどのように保たれているかということが問題になる.

シロオビアゲハは沖縄列島に広く分布している,実はベニモンアゲハは近年沖縄列島に侵入してきているチョウで,まだ侵入していない島もあり,侵入していても島によってその生息密度も様々だ.そこでベニモンの生息密度とシロオビメスの擬態比率をプロットするとかなりよく相関している.念のために島ごとにシロオビが遺伝的に分化していないかを調べてみたが,Fstはほぼ0で分化はしていないので,この相関は淘汰の結果であることを強く示唆している.

そして宮古島ではベニモンの侵入(1968年)前から侵入後長い経年の擬態比率のデータがある.(侵入前から擬態型があるのはほかの毒チョウへの擬態なのかもしれないとのこと).これから見えるのは侵入後急速に比率が上昇し20年程度で平衡のようになっていることだ.

次の問題は本当に擬態に捕食回避効果があるかどうかという問題だ.これは鳥に食わせるとかビークマークを数えるなどの研究例があるが,私は卵で採ってきて孵化させた場合の擬態比率と野外で得られる擬態比率を比べてみた.するとベニモンが入っていない島では両者に差がなかったが,ベニモンがいる島では野外の方が擬態比率が高かった.これは擬態の捕食回避効果を示唆していると同時に,まだ進化的な平衡に達していないことも示している.もし平衡であれば何らかのトレードオフからなる擬態型の被っているコストと釣り合っているはずだからだ.

コストの候補の一つはオスの配偶者選択による不利だ.オスは擬態メスを好まないかもしれない.そこで調べてみた.オスは黒いものが飛んでいると何でも追いかけるが,実際に近くに正常型と擬態型のメスがいると正常型のメスにのみ興味を示す.そして実際に野外では擬態メスにのみ未交尾メスが見つかる.これもベニモンのいる島とそうでない島を比べると擬態比率の高い侵入済みの島ではオスの擬態メス忌避効果が弱くなっている.つまりオスの選好も改善しているのだ.要するにシロオビアゲハではモデルの侵入に対応して擬態メスの比率上昇,さらにオスの配偶者選好の変化が急速に進化していることになる.

今後選好についての遺伝子の探求や別のコスト候補について調べていきたい.


非常に濃密で面白い発表だった.チョウの擬態の話は大崎直太の「擬態の進化」でいろいろ解説されていたが,ここでは実際の進化動態のデータが添えられていて大変興味深い.なおこの一部のメスのみベイツ型擬態の話はこの進化学会ではいろいろな場所で発表されていてあわせていろいろ面白かった.


大崎直太の擬態の進化 私の書評http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20090531

擬態の進化―ダーウィンも誤解した150年の謎を解く

擬態の進化―ダーウィンも誤解した150年の謎を解く


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続いて系統推定についてのシンポジウムに参加


シンポジウム7 系統関係推定研究の現在


これも口頭発表の終了と同じ時間スタートということであわててシンポジウムの教室へ.主催者の斎藤御大がどんとにらみを利かせている.まだ始まっておらずに一安心.三中先生にもご挨拶できた.

さて最初の発表者は三中信宏だったのだが,なんと新しいMacBookがプロジェクターにつながらないというフシアワセが降臨.急遽2番手と交代してシンポジウムは10分遅れでスタートとなった.


シーラカンスの系統位置 竹崎直子


両生類などの)四足動物がシーラカンス類と肺魚のどちらに近縁かというのは古くから議論されている問題だ.古くはローマーが形態からシーラカンスの方が近縁だと主張した.分子的な解析ができるようになると肺魚の方が近縁だという結果が多く報告され,多数説になっているが,それでも一部の研究者はシーラカンスの方が近縁だと主張している.(ごく一部には四足動物との分岐後に肺魚シーラカンスが分岐したと主張するものもいる)

そこで最近大規模なデータセットを使った解析がいくつか出されている.その結果は多数説と一致している.しかし多くの遺伝子を使う分析には特有の問題(ミッシングデータ,遺伝子,系統特有の問題など)もあっていろいろ調べる必要もある.そこでさらに大規模なデータセット(831遺伝子,26種,ミッシングデータ0)を用いて再解析した.サブスティチューションが異なる問題についてもいくつかのサブスティチューションモデルで分析,そしてどれも肺魚の方が近縁という結論は同じだった.

しかしさらに調べると外群の構成を変えると結論が異なってくるという問題が浮上した.外群に新骨魚類と条鰭類の両方を入れると四足動物とは肺魚が近縁になるし,新骨魚類のみでも肺魚が近縁になる.しかし条鰭類のみを外群にするとシーラカンスが近縁になってしまうのだ.なぜかについていろいろ調べた(考察がいろいろと説明される).どうも新骨魚類の枝が非常に長いことが影響しているようだ.実際に新骨魚類の中に枝の短いガー類のデータを入れると肺魚が近縁となった.


いろいろ苦労したことが丁寧に語られて系統解析のリアルがわかる面白い発表だった.



分岐学的最節約法の系統推定法としての位置づけと今後の可能性 三中信宏


データを別のMacに入れ替えて登場.ロスした時間の一部でも取り戻そうとすばらしくなめらかで早口の高座となった.


最節約法は現在系統推定法としてどのような位置づけなのか,今後どうなるかについて話をしたい.じつは現在,系統推定法の歴史についての本を執筆中(仮題「系統体系学の世界」)で来年全2巻で刊行予定だ.

この歴史は1950〜60年代の「そもそも生物の分類をどうすべきか」という問題から始まる.ここで立場の違いが浮かび上がる.マイアは形態の類似と系統の両方を見ようと主張した.これに対して表形学派は類似のみで分類せよと主張し,へニック論文の英語圏への英訳を契機に生まれた分岐学派は系統のみにせよと主張した.

そして最節約法はまずそのへニックの流れを受けた考え方にあり,表形学派も形態類似クラスターだけでなく1965年に形質を最節約的に系統樹にするという考え方を出している.一方1963年にはエドワーズが最尤推定の一時近似として最小進化を打ち出している.さらに1969年にファレスが全体的な類似度から仮想祖先を復元するという祖型発見法を提示している.

これらの考え方はまず距離を推定し,そこから計算機で計算するという考え方で一致する.1970年にはニューメトリカルクラディスティックスが現れる.さらにネルソンたちが古生物学,形態学の世界で論争を引き起こしパターン分岐学も現れる.

そしてこのへニック学派,ファリス,ネルソンは皆とても仲が悪い.要するに最節約法は頭が3つあるキングギドラなのだ.とてもやっかいで,でもいろいろと面白い.

現在系統推定は形態から分子の世界に移行している.そして統計的な系統学になってきている.その中では最節約法は最尤法やベイズ法と並んだツールボックスの中の一つの道具という位置づけになるのが普通だ.

しかし最節約法が使われる文脈は分子だけではなく実はもっと広いのだ.マクロの比較や種の問題にも使われる.このような問題にいつでも最尤法やベイズでモデルが作れるかというと決してそんなことはない.いろいろな形質データを使えるという点で最節約法の考え方は重要なのだ.結論:最節約法は死なない,それはキングギドラだから.


濃密で爆笑ものの面白い講演で,さらに質疑応答では分子の世界の最節約法の先駆者は誰かを巡って斎藤御大と鋭い応酬があって見応えたっぷりだった.確かに分子データのない古生物学の世界では最節約法は引き続き現役で,恐竜の本を読んでいると最節約法の分岐図が良く出てくる.また来年の新刊は名著「生物系統学」のアプデートも兼ねるのだろうか.いずれにしても楽しみだ.


RelTime:進化速度の変化を考慮した分岐年代測定法 その理論的基盤と進化年代測定法の実際 田村浩一郎


進化学会会長自らの発表.自分が開発した進化年代測定法RelTimeに対する批判への理論的な回答という趣旨の発表.

分子推定では樹形だけでなく年代推定も重要だ.どこかに化石などのレファレンスがあれば,あとは進化速度を推定できれば分岐年代も推定できる.ここで私の作った推定法RelTimeはきわめて単純なアルゴリズムで非常に速度が速く,複雑なベイズモデルとほぼ同じ結果を得ることができる.これに対して「理論的根拠が無く怪しい」という批判論文が出されているので,ここでそのよっている原理を解説したい.

ベイズモデルにはBEAST, MCMCTreeなどいくつかある.これらは速度変化に対してある分布を仮定し,それを元にベイズ推定するという手法によっている.そして速度変化をどうモデル化するかで各手法が異なっている.しかしとにかく遅い.みなBEASTがお好きのようだが,とても遅い.これに対してRelTimeは前提の確率分布が不要で距離に基づいて算出できる.このアルゴリズムの鍵はすべての枝の先端は同じ時刻であるという事実を利用するものだ.そしてノードの前後での速度変化について最小変化を仮定するいわば最節約的な手法を取り入れている.するとそこから一意に分岐年代が計算できるのだ(ただし計算に幾何平均を用いるので枝長0があると計算がストップするという弱点はある).これはとても速い.MCMCTreeの千倍,BEASTの百万倍だ.そしてシミュレーションするとリアルとの一致程度はベイズモデルと同じで,さらにリアルよりもベイズ推定とよく一致する.要するにほぼ同じ結果が千倍から百万倍速く得られるのだ.カップラーメンを3ヶ月待てる人なら別だが,私はベイズを使う気にはならない.

そしてベイズが苦手なものもある.たとえば植物の系統樹を描くと,草本か樹木かは簡単に変化し,しばしば独立に進化するが,世代時間の問題などで進化速度が大きく変化することが知られている.ベイスではこれらをうまくモデル化するのは難しい.どうしても速度の遅い木本系統に引きずられてしまう.


これも質疑応答で斎藤御大から「キャリブレーションには突然変異率を使う方がいいのではないか.化石なんか信用できない,私は人類学者に聞いた数字をそのまま信じてひどい目にあった」というコメントがあって面白かった.


系統樹の拡張としての系統ネットワーク 北野誉


まずは系統ネットワークの概説.そしてABO血液型遺伝子についてのネットワークが例として示される.この部分は非常に興味深かった.私はこれまでABO型遺伝子はヒトとチンパンジーの分岐前からある古いもので,過去から何らかの平行淘汰状態にあるという風に思っていたが,真実は遙かに複雑だったようだ.以下(翌日拝見した)小野久志と北野のポスター発表と併せて私が新たに知ったことをまとめておこう.

  • 多くの哺乳類はA型とB型を持つ.どちらかが大半になっていることもある.しかしOは少ない.OはA, Bの機能が変異で破壊されると簡単に生じるタイプなので,どうやらA, Bには何らかの機能があって普通はO型は生じても淘汰されてすぐなくなるものらしい.
  • チンパンジーの基本はA型だ.(ゴリラはB型が基本になる)これとヒトのABOの遺伝子のネットワーク図を書き,その遺伝子の変異も調べると,進化史は以下のように再構成される.チンパンジーのA型から一旦AとBが生じる.このBはそのままヒトのB型遺伝子になる.Aは何回か独立にOになり,その後Aが消滅し全てのAの子孫型はOになる.この何種類かの起源を持つOはO型の変異としてヒトに現存している.そしてこのうち1つのOとBが組み替えを起こして新たにヒトのA型遺伝子が生じた.
  • このようなA型とB型の変化はかなりの動物群で大きな分岐以降にしばしば生じている.例外は奇蹄目でこの動物群のA, Bの分岐は全体の起源より古い時代に生じたようだ.

非常に興味深い知見だ.なぜヒトではO型が淘汰されないのだろうか.哺乳類の分類群(目)によってこれほど異なるのはなぜなのだろう.


距離行列法も捨てたもんじゃない 斎藤成也


御大登場.


私が近隣結合法を提唱したのは1987年でこの論文は今や引用数が45000を越えた.その後これを越える手法を開発しようとしてきたが,近隣結合法はなかなかいい方法でこれを越えることはできなかった.今でも使えるいい方法だということだ.しかし近年ゲノムデータが爆発的に増加している.ヒトの全ゲノムデータは日本でようやく1000人分を越えたが,ベンダーのグループはすでに1万人分を読み,百万人にする計画をぶち上げている.もっと速い処理速度の計算法が求められている.そしてここで考えてみると,特にデータ爆発しているのは皆ヒトのデータだ.だとすると進化速度は全部同じで一定という仮定をおいてもいい.そういう前提ならもっといろいろなアイデアが使えるだろう.今日はいくつか紹介したい.

まずクリフファインダー.余りに簡単な方法なので,すでに別分野で先行論文があるかもしれない.これはデータをえいやっと2分する方法.どこでもいいから1点を取り,そこから各データポイントまでの距離を測る.それを長さ順にソートして最大の差分のところで二つに分ける.こうするとかなりうまく大きな分類群のところで二部できる.

次はエクスターナルエッジエリミネーション.これはデータ全部を計算するのではなく近くの点だけをみて部分計算していくというアイデアに基づくもの(簡単な手法が紹介される).

ほかにもいくつかアイデアがある.まだまだ距離を基本に分析する手法は使えるのだ.


迫力あるプレゼンだった.ここで午前の部は終了.昼食は確か百万遍に新福菜館ののれん分け店があったはずと思って訪ねてみるが,既になく,適当にその辺のつけ麺屋さんへ,いかにも学生さん御用達のお店だった.


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