[] Enlightenment Now その9


第4章 進歩恐怖症 その2

ピンカーはインテリの間にある進歩恐怖症,そして一般の人々にあるニュースの性質の利用可能性バイアスから来る悲観主義を解説し,それを是正するためにデータとグラフを見せるだけでは不十分だったことを述べ,典型的な否定的反応を紹介した.



ここではピンカーは(単なるマーケティングの有効性だけでなく)「悲観主義的な方が楽観主義的であるより利口に見える」という「認知能力のディスプレイ」が生む影響についてはあまり触れていない.職業的マーケティングを指摘しておけば十分だという判断かも知れない.しかしおそらくその基盤の一部は認知能力ディスプレーにあるだろうし,この影響も大きいのだろう(特にインテリの間では強そうだ).そしてこの場合ディスプレイには特有の「うまくディプレイするにはその欺瞞性については報道官は気づいていない方がいい」ということから深い自己欺瞞とセットになっていることが多いだろう.これもなかなか厄介なところだ.


トランプは,アメリカのジャーナリズムのほぼユニバーサルな信念の受益者だ.その信念とは「『重大なニュース』とは『何かが悪くなっている』と定義できる」というものだ.何十年にもわたるメディアによる「治癒不可能な社会の宿痾」問題への集中は,トランプが不満と絶望の種をまく土壌を提供したのだ.その結果今日の多くのアメリカ人は,物事を少しずつ累積的によくすることなんかできないんだと信じるようになった.それは革命的なシステム変更,既往制度をぶっ壊せ運動への嗜好につながったのだ.



ここまでがピンカーによる「なぜ『進歩』があったかなかったかをデータを使ってみていくなどという試みを行うのか」の理由付けの説明ということになる.それは世の中に進歩恐怖症,進歩否定信念が蔓延しているからだ.彼等に対する批判は第3部で行われることになるので,ここではなぜそういう信念が蔓延しているかだけ説明すればいいはずだが,結構辛らつな批判も混じっている.やはり筆が止められなかったということだろうか.あるいはある程度は否定的トーンを入れ込んでおいた方が第2部全体が頭に入ってきやすいからということなのだろうか.


ここからは第5章以下の予告編になる.




ピンカーが紹介しているサイトや本のうちいくつかを並べておこう.


ウェブサイト


<本>

The Infinite Resource: The Power of Ideas on a Finite Planet

The Infinite Resource: The Power of Ideas on a Finite Planet

The Case for Rational Optimism

The Case for Rational Optimism

このうち「The Infinite Resource」についてはピンカーはカバーの推薦文を書いているようだ.この中で私が読んだことがあるのはリドレーの「The Rational Optimist」(邦題:繁栄)だけだ.「The Rational Optimist」についての私の書評http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20100925,訳書情報はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20101020


<リスト>

ピンカーが最後に紹介しているリストはこちら

*1:オバマ大統領は2011年にそういうスピーチをしているそうだ

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