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★≪路地裏より愛を込めて≫全エントリー   ★カテゴリー別タイトル一覧【2014/11/16更新】    .          

2016-11-25

『太陽の蓋』感想

太陽の蓋』 感想

映画として面白いかどうか、というより、
ひたすら やるせなくて、切なくて、苦しかったです。

この映画は、
東日本大震災による福島第一原発事故当時の数日間
官邸で一体何が起きていたのか、を、
菅直人元首相(三田村邦彦)をはじめ、当時の政治家たちの
実名を使って描いています。
新聞記者・鍋島(北村有起哉)の目を通す、という形ではあっても、
実在の政治家たちが登場する、というインパクトは大きく、
映画というフィクションであっても、
当時私たちが知らされることのなかった「原発事故の真相」に
限りなく近づくものになるのではないか、という期待を抱かせてくれたし、
ある意味、その期待を裏切らない内容になっていたと思います。

当時、東京電力(映画では東日電力)の隠蔽によって、
福島第一原発の様子をまったく知らされていなかった官邸。
未曽有の危機がぱっくりと大きな口を開けて彼らの前に立ちはだかる中、
短い時間の中で次々と新たな問題が噴出し、大きな決断を迫られる、
その苛立ちと もどかしさが 対策本部内で交錯するシーンは、
まるで『シン・ゴジラ』のシリアス版リメイクを観ているようで、
かたずを呑んで画面に見入ってしまいました。

一方で、鍋島の妻・麻奈美(中村ゆり)や息子の存在が、
当時の市井の人々の不安や動揺を丁寧にすくい上げてくれていて、
地震直後の「大丈夫?」という麻奈美のメール
福島原発の危うい実情を知った鍋島が
「大丈夫だ」と返信するのをためらうシーンや、
原発の爆発をニュースで知った麻奈美が
あわててベランダで遊んでいた子を部屋に引き入れるシーン、
麻奈美の妹がアメリカ人の夫に日本退去命令が出たことを知らせに来て
「肝心なことを知らされていないのは日本人だけじゃないの?」
と言うシーン、
鍋島に「逃げろ」と言われた麻奈美が
「どこに逃げればいいの、日本中どこにも原発はあるわ」と言うシーン等々、
「突然日常に入り込んで来た放射能という得体のしれないモノ」への
言いしれない不安や怯えが ひしひしと伝わって来ました。

また、イチF(福島第一原発)で働く若者・修一(郭智博)とその家族の、
原発を抱えた土地に住む人々のリアルな生きざまにも、
つまされるものがありました。
彼らにとって、就職先としての原発は、決して特別な場所ではなかった。
自分の職場で事故があれば何とかしたいと思うのが当たり前で、
そこで働く人たちは実直に事故対応に当たっていたのだ、と。
だからこそ、数年後、鍋島に向かって淡々と言った、
「あの時テレビを観てた人たちは、今何を考えてるんですかね」
という修一の言葉は、胸が痛かったです。


当事の官邸の人々が実名で出ている以上、
しかも彼らのほとんどがまだ政治家であり続けている以上、
彼らを厳しく追及する、という形にはならないんじゃないか、という
若干の気掛かりが ないではなかったし、
実際、保安委員会や東電の人間を
分かりやすく悪者にしてしまっている、という気がして、
正直、少し残念な気持ちを抱きつつ観ていたところもあったのですが‥
終盤、鍋島の一言で、その思いは完全に覆ります。

数年後、鍋島は、
書くことが新聞記者の使命であると信じ、
事故の検証をするため、当時の関係者にインタビューします。
元内閣副官房長官だった福山(神尾佑)は言います、
情報が官邸にまったく上がって来なかったんだ」と。
それに対して、鍋島は尋ねるのです、
情報が上がっていたら 何とかなったんですか」
その言葉に、福山は一言も返せず沈黙してしまいます。

あの時、正確な情報が逐一上がっていたら、
これほどの被害にならずに済んだんだろうか‥
あの時、東電の人間が、保安委員会が、的確な判断をしていたら、
何とかなったんだろうか‥
あの時、現政権の首相があの立場にいたら、
少しでもいい方向に進むことが出来たんだろうか‥
そう考えた時、
すべてに首を振らざるを得ない暗澹(あんたん)たる思いに
心塞がれる自分がいました。

あの事故の真相はどうだったのか、結局誰が悪かったのか、
この映画で、真犯人探しをしようとしていた私は、
それが間違いだったことを思い知らされた気がします。

自然の驚異は、人間の想定を軽々と超えて突然やって来る‥
人間は万能じゃない、どこかでミスをする‥
「原発」という太陽モドキの怪物は、
不完全な人間なんかには到底歯が立たないし、手に負えない。
そんな人間が 安易に太陽を手に入れようと考えること自体、
不遜だったのではないか――
この映画は、暗に、そのことを伝えようとしているのではないか、
と、私にはそんなふうに感じられました。


映画は、福島では、公開数か月経ってようやく、
しかも、1日1回だけ、数日しか上映されませんでした。
私が観た時は、他に50人ほど、
普段の映画にはあまり足を運ばないような50代以上の人がほとんど。
映画が終わって明るくなった館内を、
彼らは、ただ言葉もなく黙々と歩き、階段を下りて行きました。
その中には、ひょっとしたら原発の事故のせいで、
福島市やその近辺に生活を移さなければならなかった人も、
いたかもしれない。

わずか数十キロ先に、かろうじて蓋をされつつある壊れた太陽がある‥
福島は、これから先何十年も、
原発の廃炉に向けた危うい作業に付き合って行かなければならない‥
一方で、日本の人々のフクシマへの記憶は、
おそらく ゆっくりと薄れて風化して行くのだろう‥

そう思うと、
映画を観終わって家路に向かった人たちのやるせない沈黙が、
一層重く 心に響いてくるような気がしました。


                             11月2日 福島フォーラム


    *公式サイトスピンオフ映画と同じくらい見ごたえがあります。
     興味のある方はぜひ。《公式サイト》

    *福島民報コラムです。(この映画を取り上げています)
     《あぶくま抄/11月4日「何も終わっていない」》



太陽の蓋』
監督:佐藤太 脚本:長谷川隆 音楽ミッキー吉野
プロデューサー:大塚馨 製作:橘民義 
制作プロダクション:アイコニック 配給:太秦
キャスト:北村有起哉 袴田吉彦 中村ゆり 郭智博 神尾佑 
三田村邦彦 菅原大吉 青山草太 大西満信 
菅田俊 井之上隆志 宮地雅子 菜葉菜 阿南健治 伊吹剛 他
公式サイト

2016-11-07

シネマ歌舞伎『ワンピース』感想

シネマ歌舞伎スーパー歌舞伎 ワンピース』感想

一部ネタバレしています。
これから映画をご覧になる方はご注意下さい。


わははは〜楽しかった!
すごいなぁ、歌舞伎って半端ない跳躍が出来てしまうんだなぁ!
ONE PIECE』という国民的大人気マンガ歌舞伎で、と聞いた時、
奇想天外なストーリーといい、奇抜なキャラ群といい、
なんて無謀なことを!生半可な出来じゃお客は満足してくれないぞ!
と内心思ったけれど、
でも 市川猿之助さんだからなぁ、きっと何とかなっちゃうのかもなぁ‥
なんて 信じたい気持ちがどこかにあったのも事実で。

で、フタを開けてみたら、まぁ思い切りよく 小気味よく
舞台上に見事に違和感なく「ONE PIECE世界」を作ってくれて、
そこに、大量の水滝での立ち廻りやら、紙吹雪の中での空中戦やら、
天井まで届くほどの宙乗りやら、早替わりやら、
歌舞伎だからこそ出来るケレン味たっぷりの見せ場をふんだん加える
という、エンターテインメントとしての魅力満載の舞台になっていて、
楽しく笑って、ほろっと泣けて、また笑って、
心地良く楽しめたことに、本当にびっくりしてしまった。

長年歌舞伎を愛して来た方々が、
これを邪道だと思わないでくれるといいなぁ、なんて、
余計な心配までしたりして。
だって、歌舞伎舞台とは到底思えない
大勢のおかまさんたちのダンスまであるんだもん!(爆)

多分これは歌舞伎じゃなくても出来る脚本
だけど、歌舞伎だから一層面白くなった、とも言える。
衣装も、メイクも、歌舞伎の風味をうまく加えつつ違和感を持たせない、
ゆずの北川さん提供の耳馴染みよい主題歌とか
プロジェクションマッピング等々新しい手法も取り入れながら、
ちゃんと「歌舞伎」という世界観の中の『ワンピース』になっている‥
歌舞伎が持つ「突き抜けた自由さ」に、改めて驚く。

異種格闘技みたいなこの舞台を、
強引に馴染ませ、細やかに消化させ、見事に結実させたのは、
横内謙介さん(劇団扉座)の脚本・演出、猿之助さんの演出をはじめ、
製作陣の力が非常に大きかっただろうし、
白ひげの市川右近さんやサンジ中村隼人さん、
ボン・クレー坂東巳之助さん等
それぞれの役に見事にはまった演者たちの
MAXまで振り切った役つくりもすごく大きかったように思います。

ゲストの人たちも とっても良かったなぁ。
浅野和之さんのイワンコフは最高だったし、
(最初誰がやってるか全然分からなくて、後で浅野さんと知って驚いた!)
現代版メイクで出演の福士誠治さん(エース役)は
めちゃくちゃかっこよかったし、
井之上チャルさんのウソップ観て一気にワンピース世界に入って行けたし、
嘉島典俊さんはすっかり馴染んでて歌舞伎の人だと思って観てたしw
そしてそして、私のお気に入りチョッパー
ぬいぐるみと変身後だけかと思ったら‥
く〜あんな可愛い姿で出て来るなんて、ずるいよ、
思わずウルウルしちゃったじゃないか。


今回も、他のシネマ歌舞伎同様、
映画ならではの面白さがあちこちにちりばめられていました。
CGやらスローモーションやら、
舞台の面白さを増幅させてくれる仕掛けも豊富で、
それぞれのキャラの表情もはっきり分かって、
特にボン・クレーの顔芸(って言っちゃっていいのか?w)は
もうほんとにマンガアニメそのもので、
あの表情をアップで観れただけでも映画観に行って良かったな、と思えた。

3時間半の舞台を2時間にぎゅ〜っと絞って映画にした
それには賛否があるだろうけれど、
ストーリ―を知っている原作ファン(歌舞伎に馴染みのない人)にも
かなり観やすくなっていたと思うし、
歌舞伎ファンに対しては、本物(生の舞台)を観たいと思わせる魅力が
詰まっていた、ということで、私はすごく楽しみました。
(個人的には猿之助さんの早変わりをもっとじっくり観たかったけど)

舞台とはまた違った魅力満載で、本当に面白かったです。
チケットの手配までしておきながら舞台を観に行けなかった無念を
かなり晴らしてもらった映画でした。


で‥来年秋のワンピース再演、すでに行く気満々になってる
私なのであった。w


                          10月28日 福島フォーラム

シネマ歌舞伎スーパー歌舞伎ワンピース     
原作:尾田栄一郎 脚本・演出:横内謙介 演出:市川猿之助 スーパーバイザー:市川猿翁
主題歌『TETOTE』楽曲提供:北川悠仁ゆず
出演:市川猿之助 市川右近 坂東巳之助 中村隼人
市川春猿 市川弘太郎 市川寿猿 坂東竹三郎 市川笑三郎 市川猿弥 市川笑也 
市川男女蔵 市川門之助 市川段四郎
福士誠治 井之上チャル 嘉島典俊 浅野和之  他
公式サイト

2016-10-25

『賢者の愛』(WOWOW)感想

『賢者の愛』(WOWOW) 感想

これはもう、源孝志監督をはじめとするスタッフと、
中山美穂さんをはじめとするキャストが作り上げた
「独特の魅力的な閉鎖空間」が醸し出す
洗練された空気感や質感の味わい深さ、に尽きます。
よくもまぁ最初から最後までどこにも破たんなく
この空気感を保ち続けられたものだと驚いてしまいましたし、
観終わった後、それを味わえただけでほぼ満足している自分がいました。
よって、今回の感想は、
ストーリーとか 登場人物の行動や感情について、というより、
もっと感覚的なものになってしまいます、すみません。


物語そのものは現実的なものではない、
決して衝撃的なことが続くわけでもない、
感情は最後まで抑制され、淡々と時は流れて行く‥
しかし、真由子(中山美穂)も 百合(高岡早紀)も、
長い時間の経過とともに蓄積されていくものが間違いなくあって、
30年という時間を行きつ戻りつしながら、
彼女たちの人生ピース(かけら)が少しずつ埋められて行くのを
少し遠く(画面のこちら側)で観続ける というのは、
決して 退屈なものでもつまらないものでもありませんでした。

正直、私はこの物語の登場人物の誰にも あまり感情移入出来なかった。
真由子や百合はもちろん、直巳(竜星涼)も諒一(田辺誠一)も、
どこか 手の届かないもどかしい感じがあって、
身近なものとして納得したり共感したりすることが出来なかった。

それでも、興味深く観続けられたのは、
自分が今いる場所(世界)とは違う「向こう側の物語」を覗(のぞ)き見つつ、
「向こう側の人たちの心の内」を読み解く面白さがあったから、
のような気がします。

初恋の人を友人に取られる、彼らの子を自分の思い通りに育てる‥
それだけなら、いくらでもドロドロの愛憎劇に仕立てることが出来る。
しかし、このドラマは、
そんな「ドラマとして面白くするための分かりやすい濃い味付け」を
ほとんど入れ込まない。
にもかかわらず、真由子も百合も精神的に徐々に追い詰められる様子が
説得力を持って伝わって来る、
激しい感情の発露がないにもかかわらず、
二人の中で確実に崩れていくものがある、ということを、
しっかりと伝えてくれている。

このような一種ファンタジーとも取れる非現実的な世界
どう 受け取る側に納得させるか、というのは、
特に、小説ではなく映像の場合は すごく難しいと思うのですが、
このドラマは、どこにも緩(ゆる)みがなくて、
すんなりとその世界観に入り込んで、酔わせてもらえた気がします。

マンガ原作のドラマなどもそうですが、
ありえない世界に説得力を持たせて観る側を引き込むというのは、
簡単なことではありません。
このドラマにも同じような難しさがあったと思うのですが、
俳優さんたちがその難題を楽々クリアしている(ように見えた)というのは、
本当にすごいこと。
そして何より、彼らが息をしている空間が、
嘘のないものとして彼らにまとわりつくようにそこにある、
彼らの生き方や感情を育ててきた空間として納得の行く世界がそこにある、
始まる前に、撮影場所・小道具・衣装音楽等々において、
そのおぜん立てをしっかりと整えた監督以下スタッフの手腕も、
大きいものがあった気がします。

そうして、物語は、
最後のページを読み終えて小説本を閉じた時のように、
美しい余韻を残して終わる‥‥


出演者について。
中山美穂さん。
真由子のある種の清潔さというか、潔癖さというか、硬質な肌触りというか、
そういうものを本質的に持っていると思わせる凛とした雰囲気が
中山さんには備わっていて、
それが魅力としてすんなり伝わって来たことによって、
真由子の性格や生き方に説得力を持たせていたように思います。
彼女を筆頭に、キャスティングは本当に皆 完璧だったように感じました。

高岡早紀さん。
幻想的あるいは夢想的と言ってもいいこのドラマの中で、
百合の危うさを表現するのは、
かなり難しかったのではないか、という気がします。
男性を惹き付けるコケティッシュな魅力を持っている役にもかかわらず、
女性としての性的な魅力を生々しいものとして演じることは出来ない、
それをやってしまうと、
このドラマが持つ独特の水彩画のような空気感が削がれてしまうから。
さらに、百合の真由子に対する執着の中に、
ゆるやかな狂気だけではなく、それもまた形を変えた愛情に他ならない、
と観る側に納得させるだけの
深くて難しい内面も練り込んで行かなければならない。
でも、高岡さんはそれらの高いハードルを易々と超えて来た。
もともと好きな女優さんだったのですが、
今回ますます惹かれる存在となりました。

竜星涼さん。
この役は、ビジュアルがすごく大事で、
真由子が20年かけて作り上げた作品、という側面もあるので、
よくまぁこういう韓流スターみたいな端正な俳優さんを見つけてきたなぁ、
と感心してしまいました。
その上に、キラキラした若さと、不思議な古風な感じと、
甘さと脆(もろ)さが混在している風情があり、
なんとも魅力的。
直巳役に彼をあてた、ということで、
このドラマの大事なポイントの一つが確実に押さえられた、
という気がしました。

田辺誠一さん。
あいかわらず、中年男性の脂分みたいなものがあまり感じられない、
不思議な軽さとしなやかさを持っている俳優さん。
諒一の中にある乾いた部分とウェットな部分、
それを、さりげない表情やしぐさの中に滑らかに溶け込ませる‥
真由子と百合の「想い」の間をふわりと行き来して、
何にも縛られない軽やかさを表現する‥
いつのまにか余裕でこういう役をやれるようになったんだなぁ、と感慨深し。
まぁ、俳優生活も25年近くになるし、
47歳という実年齢を考えれば当然なのかもしれないけれど。

女性が描く(小説マンガの)男性を不自然なく具現化することが出来る
数少ない俳優さんの一人なのですが、
なかなかそういうドラマで使ってもらえないウラミが、
ファンとしてはあります。
なので、今回、こういう作品に呼ばれたことも、
こういう役をこういうふうに演じてくれたことも、嬉しかった。
長年この俳優さんを観て来た者として、
キャスティングしてくれた人の慧眼に感謝したい気持ちになりました。


連続ドラマW『賢者の愛』
放送日時:2016年8月20日(土)- 毎週土曜 22:00- <連続4回> (WOWOW)
原作:山田詠美「賢者の愛」
脚本:Sawa 監督:源孝志 音楽稲本響
プロデューサー:松村英幹 企画・製作:日本テレビ
出演:中山美穂 高岡早紀 竜星涼  浅利陽介 草村礼子 朝加真由美
浅見姫香 上原実矩 川島鈴遥 小林里乃 内田健司
榎木孝明 田辺誠一 他
公式サイト

2016-10-04

『真田十勇士』(舞台)感想

真田十勇士』(舞台)感想

一部ネタバレしています。
特にこれから舞台をご覧になる方はご注意下さい。


2014年に上演され好評だった舞台の再演。
脚本:マキノノゾミ、監督:堤幸彦、主演:中村勘九郎、ということで、
観てまいりました。
正直、キャストの半分ぐらいの俳優さんしか知らなかったので、
十勇士がごっちゃにならないかな、と不安だったのですが、
知ってる俳優さんはもちろん、
知らなかった俳優さんたちもしっかりキャラ立ちしていて、
ワーッといっぺんに出て来てもちゃんと誰か分かって楽しかったです。

ただ、全員が揃うまでの前半は、
一人一人の個性が紹介される場でもあるので、
どうしても話が広がって行かないもどかしさはあるし、
(「十勇士」とか「八犬伝」とか 登場人物の多い作品をつくる場合
メインキャストをしっかり描こうとするとそうなるのは仕方ないんだろうけど)
ところどころに入るお遊びの部分(俳優が素に戻るところ)が、
私自身の中でうまく消化出来なくて、ちょっと戸惑ってしまったりもして‥
いや、PERFECT HUMANとかランニングマンとか、
某大河「真田丸ネタとか、
笑わせられたり楽しいシーンもいっぱいあったんだけど、
ネタが多くて「十勇士の物語」に集中出来ない場面もあったように
私には感じられたので。

それと、特に前半 気になったのは、
物語」を動かす中心になる人物がいない、ということ。
佐助(中村勘九郎)も才蔵(加藤和樹)も主人公というキャラではないし、
その主君の真田幸村(加藤雅也)は「たまたま」名前が知れ渡っちゃった
だけで、実は本人には大した力もない、ということで、
誰に(どこに)自分の気持ちを重ねたらいいのか戸惑って、
何となく焦点が定まらずにうろうろしちゃった感があったのですよね。
キャラとしてはちゃんと旨味が出てるんだけど、
戦国時代の終焉に最後の花火を打ち上げようとする男たちの
人間としての魅力が十分には伝わって来なかった
(私には感じられなかった)と言えばいいか。
彼らのバックボーン(何を背負って戦っているのか)から生まれる
矜持だとか、戦さに寄せる特別な気持ち だとか、
あるいは逆に、そういうものを持てないゆえの空虚感だとか、が、
それぞれのキャラに もっと乗って来ると、
さらに魅力が増したのではないか、という気がしました。
(まぁそれも、私個人の好みの問題かもしれないんだけど)


でもね、
そんな前半のいくらかの物足りなさは、後半になると吹き飛びますw
それまで感情移入するような場面が少なかった分、
幸村とその息子の大介(望月歩)が心を通じ合わせるシーンには
グッと来るものがあったし、
幸村にしっかり芯が通ることによって、
彼を中心に十勇士がまとまる、という構図がはっきりして来て、
そこらあたりから こちらも気持ちが入って行きました。

まぁとにかく、
戦闘シーンが ものすごく見ごたえがあるんですよね。
段差のある岩場やら、空中やら、舞台の奥やら客席やら、
あらゆる空間を立体的にうまく使っていて、
敵味方なく めちゃくちゃ豊富な運動量で がむしゃらに動き回る、
グワーッと迫ってくるような熱量が半端なくて、
これでもかこれでもかと続く全員総出の殺陣の連続に
ぐいぐい惹き込まれてしまいました。
舞台上であれだけ大勢の人が激しく動いて
あっちでもこっちでも剣を激しくぶつけ合い切り結んでいるのに、
無駄に立ってるだけの人が見当たらない、
誰一人 計算臭さが感じられないのには本当にびっくり。
どんな段取りになってるんだろう、どんな稽古をしたんだろう、
と、のめり込んで観入ってしまいました。 
で、この場面観るだけでも価値がある、と思ってしまいました。
中でも、
客席にまでせり出した高い岩場での佐助と久々津宗介(山口馬木也
一騎打ちは、どっちも頑張れ〜っ!と応援したくなりました。
あと、登場シーンのほとんどが逆さ吊り状態の仙九郎(石垣佑磨)には
本当にごくろうさま、と言いたいですw


淀殿(浅野ゆう子)の幸村への想いとか、
火垂(篠田麻里子)の才蔵への想いというあたりは、
どうしても、書き込み不足・表現不足で弱くなってしまった感否めず、
この二組には、それぞれに、
もう少し「想いの深さ」や「切なさ」が欲しかったように思ったので、
個人的にはそこがちょっと残念だった気がしますが、
まぁ そもそも 愉快・痛快チャンバラごっこ的舞台(いい意味で)なので、
あんまり甘いテイストを入れ込むことが出来なかった、というのも
仕方ないことだったかもしれません。
一方で、佐助を追い回すおみつ(田島ゆみか)はいいキャラだったなぁ。
あのぐらいマンガチックな方が、ストレートで分かりやすい。
もうけ役でしたね。


演出効果を狙って画像を使うのは新感線などでもおなじみですが、
今回は映画畑の堤さん演出ということもあってか、
かなり多用しています。
それがうまい具合に機能していたところもあるし、
そこまで丁寧に画像で見せなくても‥と思ったところも
正直あったように私には思えました。
分かりやす過ぎるような気がしたのですよね。
舞台って、観る側が想像力で補う部分がけっこうあったりするんだけど、
で、それがまた楽しかったりするんだけど、
今回はそういう楽しさを封じられた気がして、ちょっと寂しく感じました。


終盤、佐助と才蔵が戦う場面、
え〜っそんな展開になっちゃうの!?と思ったのですが、
結局は気持ちの良いエンディングになって、
最後には「楽しかった」という気持ちが強く残った舞台になりました。
おそらくそれは他のお客さんも同様だったのでしょう、
気持ちよく自然にスタンディングオーベーションの流れになって、
劇場全体が温かい空気になったのが、
なかなか心地良かったです。


新国立劇場・中劇場について。
私は新国立劇場は初めて。
劇場は、すり鉢型で 列ごとの段差が大きいので、
前に座っている人が気にならず、舞台も観やすかったです。
今回は、通路や階段を使う演出も多く、
12列目(中央通路から3列目)の私の席からは、
何度か、すぐ目の前に勘九郎さん達を観ることが出来、
ちょっとドキドキしました。w


          9月25日(日)12:00- 12列20番台 新国立劇場(中劇場

スペクタクル時代劇真田十勇士     
脚本:マキノノゾミ 演出:堤幸彦 
音楽:ガブリエル・ロベルト 殺陣:諸鍛冶裕太
演出助手:松森望宏 舞台監督:小川亘 制作進行:児玉奈緒子
プロデューサー:松村英幹 企画・製作:日本テレビ
出演:中村勘九郎 加藤和樹 篠田麻里子 高橋光臣 村井良大 駿河太郎
荒井敦史 栗山航 望月歩 青木健 丸山敦史 石垣佑磨
野添義弘 奥田達士 渡辺慎一郎 田島ゆみか 荒木健太朗 横山一敏
山口馬木也 加藤雅也 浅野ゆう子 他
公式サイト

2016-09-25

『シン・ゴジラ』感想

シン・ゴジラ』 感想

エヴァンゲリオン」の庵野秀明さん脚本・総監督、ということで
惹かれるものはあったのですが、
なかなか映画館に行こう、という気になれず‥
しかし、日増しに評判が高まっていたみたいだし、
どうせゴジラ観るなら やっぱり大きなスクリーンに限るよね、
ということで、観に行って来ました。
で、観終わった途端、いやいやいや凄かった! もう一回観たい!
と ウズウズする気持ちを抑えられず 数日後にもう一度観に行って、
さらにその面白さにハマってしまいました。
観るたびに違う何かが感じられる、
どんどん深読みしたくなる映画だと思います。


この映画の観方というのは人それぞれでいいと思うのですが、
私は、想定外の危機に襲われた時の
日本政府の危機管理能力がどれほどのもので どう発揮されるのか、
それを映画としてどう描くのか、というところに注目して観ました。

突然ゴジラが東京湾に出現する、なんて、
それ自体はまさに「ありえない」ことではあるんだけれども、
そんな「ゴジラ=今まで誰も遭遇した事のない未曽有の危機」に対して
国として重要な意思決定をしなければならない
政府内の右往左往ぶりが臨場感たっぷりに描かれていて、
なるほどこうやっていろんなことが決められて行くのか、
さまざまな命令や指示はこんなふうに出され、遂行して行くのか、と、
(もちろん映画という虚構の中での話ではあるんだけど)
すごく納得出来るものがあったし、
ゴジラによってなぎ倒された後のガレキの山、避難所生活、マスク、
除染、防護服、ガイガーカウンターの警告音、マイクロシーベルトの値、
レスキュー隊の出動、等々、
わずか5年半前、福島原発からたった50kmの場所にいて、
刻々 政府や県や東京電力の対応にかたずを呑んでいた人間としては、
何だかトリハダものの既視感(デジャヴ)があったのですよね。


理不尽に何もかも焼き尽くし 破壊し尽くすゴジラ
人によっては、台風や地震や津波といった自然災害と重ねて、
ゴジラを観ていた人もいるかもしれません。
おそらく、制作にあたった庵野さんも、
東日本大震災とそれに続く原発事故をかなり意識していたのではないか、
という気がします。

この映画にも、なぜ 今 ゴジラが出現したのか、という話が出てきます。
他の多くのゴジラ映画と同じように、放射能が関係しているのですが、
だからと言って、それを単純に原発事故と結びつけるような、
安直な作り方はしていなかったように感じました。
しかし、その出自(しゅつじ)をたどりながら、
人が作り上げたものから生まれた得体のしれない不気味なモノ、
としてゴジラを括(くく)って観た時、
私には、その「誰にも止められない巨大な動くモノ」が、
不気味な白煙を上げたあの時の原発のように思えて仕方なかった。
原子炉建屋から吐き出された強い放射線が
風の気まぐれであちこちに運ばれる、
それは、ゴジラが予測不能の動きをするのとよく似ている‥

生き物としての質感(初代の着ぐるみから継承された)を持ち、
幼体から成体へ何度も変化するにもかかわらず、
今回のゴジラには生き物としての息遣いが感じられない、
意思や感情が感じられない。
口や背中から発するのも、最終形態では火炎というより白熱光線で、
身体を動かして暴れまわるというよりも、
その光線によって何もかもが一刀両断にされる。
でも、だから(生き物としての息が感じられない動くモノだから)こそ、
逆に「容赦なく人間に大きな危害をもたらす存在」としてのリアルな怖さが
伝わって来たように思うし、
私にとっては、少なくとも私が観た今までのどのゴジラよりも
「身近に感じられる脅威」だった気がします。


ゴジラ出現という未曽有の危機に対して、
人間(日本政府)は、ひたすら、計画→実行→失敗を繰り返す、
何度も何度も跳ね返される、
未だかつて人類の誰一人として経験したことのない不測の事態に
立ち向かわなければならない人間の、なんと小さいことか、
なんと無力なことか。
しかし、そんな小さい人間一人一人が、
それぞれの持ち場で力を出し切ろうと懸命に努力する。
次から次へアイデアを捻り出す はみ出し者集団だったり、
そのアイデアを受け入れる上の立場の人間の判断力だったり、
科学者や技術者たちの英知だったり、
外国との交渉にひたすら頭を下げ続けるトップの人間だったり‥
何度もの愚かな失敗から猛烈なスピードで立ち直って
アイデアを出し続け戦い続ける日本人の総合力の結集には、
純粋にドキドキワクワクしたし、
無人の新感線や在来線による攻撃とか、
ポンプ車やタンクローリー等の特殊建機隊による 血液凝固剤投入には、
手に汗握って、ひたすら 頑張れ!と願ってしまいました。


ただ、二度目に観て気がついたのだけれど、
ゴジラは最初、自分から危害を加えようとは思っていないのですよね。
最初に上陸した時も、二度目の時も、ただ彷徨っているに過ぎない。
ただそうやって動き回ることが、結果的に建物を壊し、
そこに住む人間の生活を脅かす結果になってしまっているだけで。
ゴジラが最初に彼の唯一の攻撃法(火炎)で本格的な攻撃をするのは、
自衛隊に発砲されてからだし、
もっと強力な破壊光線を放つのは、米軍の攻撃の後。
攻撃は より大きな反撃を生む‥
そんなところにも何か含みを持たせているんじゃないか、
と、私には感じられたのですが、本当のところはどうでしょうか。

そして・・
ゴジラとの戦いは一応収束したけれども、
決してこれが終わりではない、
もしかしたらまた新たなゴジラが動き出すかもしれない、
その不安と常に正しく向き合わなければならない、
ゴジラを決して忘れてはならない、と、
希望だけではなく 重いメッセージが潜んでいるように感じられた、
そのことも、大きな意味があるような気がしました。


登場人物では、
矢口(長谷川博己)と赤坂(竹野内豊)の立場の違いが
(どちらか一人だけではうまく機能しなかったんだろうな、という点で)
すごく興味深かったし、
矢口の下で働く巨災対のメンバー(市川実日子高橋一生津田寛治
塚本晋也等)も非常に魅力的でした。
政府関係者の面々(大杉漣柄本明平泉成高良健吾松尾諭
余貴美子國村隼等)も、
あからさまな悪者だったり 露骨に失敗するような人間はおらず、
能力の差はあれ、それぞれ頑張ってくれていたのが良かった。
また、矢口とカヨコ・アン・パタースン石原さとみ)も、
甘ったるいラブロマンスなんていうありがちなつまらない展開に走らず、
硬派な作りにしてくれていたのが心地良かったです。


最後に。
パンフレットが非常に読み応えがありました。
この映画がどういう過程を経てどう作られて行ったか、
その気の遠くなるような緻密な作業の一端に触れられたのも
とても嬉しかったです。


シン・ゴジラ     
総監督・脚本・編集:庵野秀明 監督・特技監督樋口真嗣
准監督・特技総括・B班監督:尾上克郎 撮影:山田康介
編集・VFXスーパーバイザー:佐藤敦紀 音楽鷺巣詩郎伊福部昭
製作:市川南 企画協力:神山健治、浜田秀哉、川上量生
エグゼクティブプロデューサー:山内章弘
製作プロダクション:東宝映画、シネバザール 製作・配給:東宝
キャスト:長谷川博己 竹野内豊 石原さとみ
高良健吾 大杉漣 柄本明 余貴美子 國村隼 平泉成 手塚とおる 松尾諭 
市川実日子 津田寛治 塚本晋也 高橋一生
小林隆 粟根まこと 古田新太 橋本じゅん ピエール瀧 片桐はいり 
松尾スズキ 光石研 他
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