断章のグリム1 灰かぶり

【ストーリー】この世界に起る怪現象はすべて<神の悪夢>の欠片であり、その欠片は人の意識から溢れ悪夢は現実を変質させ悪夢の物語になる。悪夢の欠片があまりに巨大だと、『昔話』や『童話』に似たエピソードになる。

普通であることが信条の白野蒼衣と、過去の出来事を引きづりなら悪夢と戦う時槻雪乃。人間の狂気が生み出した灰かぶりの悪夢の中で出会った二人が辿る物語とは―――!?


たまにはいつもと違うジャンルを読んでみようと思って読んでみましたが、なかなか面白かった!

この作者は主にホラー系のお話を書くそうですが、このシリーズに関してはそこまでキツいホラーではなかったですね(あくまで私の場合です)。
ホラーではあると思うのですが(もしくはグロテスク)、どこか西洋の童話みたいな雰囲気を感じましたね。

童話ってメルヘンではありますがグロテスクだったりホラーだったり、どこかしら暗い部分がありますよね。赤ずきんのお話とかオリジナルの方はかなりホラーになってますし。

そんな空気を持ってはいますが、この物語全体を漂っている暗い空気は逆にこのお話を引き立てていると感じました。
・・・でもやっぱりグロ耐性ない人は読むのは厳しいかも。


ストーリーはこういったようにシリアス・・・というよりホラーチックですが、登場人物たちはそこまで暗くはありません。
主人公の白野蒼衣はある秘密を抱えてはいますが、「普通」を信条にしているだけあって目立ちすぎず、かといって空気みたいなキャラという訳でもなく、本当に「普通」の人物ですね。むしろその「普通」さが他の作品にはあまり見られないタイプなので珍しいかもしれません。

ヒロインである時槻雪乃はそんな普通な蒼衣と正反対の性格で殺伐としているんですが、この二人のやり取りが何故か読んでいて和むんですよね。

「・・・なんであなたと勉強なんかしなきゃいけないわけ?」
雪乃はぴたりと立ち止まると、蒼衣を冷たい目で振り返った。
気のせいか、それとも怒りのせいか、ほんの微かに頬が赤かった。
「いや・・・そしたら雪乃さんも、先生とかから色々面倒なことを言われたりしないで済むかなあ、とか思って」
「・・・うるさいわね」
一応は図星なのだろう、一瞬の沈黙の後、雪乃は言う。
「それに雪乃さんが幸せな方が、僕もうれしいし」
「・・・・・・・・うるさい。殺すわよ」

この部分だけだとツンデレ?とか思いますが、実際はもっと雪乃は厳しい態度です。ですが、蒼衣の包み込むような雰囲気がそれを穏やかなものに変えているんですね。

あとこの物語で忘れてはいけない人物は、悪夢と戦う「騎士団」の人物のひとりである神狩屋さんです。
彼のセリフはかなり長いものの、物語を語っているようで聞き(読み?)心地が良いんです。助手(?)の田上颯姫と合わせると、まさに童話に出てくる物知りなお爺さん、もしくは魔法使いみたい。


そして、この物語の中心である<悪夢>ですが、これはホラーの恐さではない怖さがありますね。
犠牲になる人物は最初の方から何となく予想はつくんですが、物語が進むにつれてピースがそろっていく程、それがいつ発現するのか?どのようなことが起きてしまうのか?などというように、まるで爆弾を抱えているような不安を感じます。
蒼衣たちはその爆弾が爆発しないように慎重に事を運ぶのですが、そのドキドキ感がまた堪りません。
爆弾が爆発してからも予想できない展開に終始目が釘付けになって読みました。


この物語は童話を幼児用ではなく、オリジナルとして読んだような恐怖、あえて言うならば、「メルヘンホラー」と言ってもいいくらい童話的な雰囲気で満たされてました。
過去に童話を読んで、そのどこか潜むような恐怖の雰囲気が好きだった方は是非読んで欲しい本です。


因みに、

童話の原作ってどんな感じ?と思われた方はこの↓本をお勧めします。(グロ耐性ない人は読んじゃダメ!)

童話ってホントは残酷―グリム童話から日本昔話まで38話 (二見文庫―二見WAi WAi文庫)

童話ってホントは残酷―グリム童話から日本昔話まで38話 (二見文庫―二見WAi WAi文庫)