東雲侑子は短編小説をあいしている

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

【ストーリー】何事にも無気力、無関心な毎日を過ごす高校生、三並英太。
楽そうだからという理由だけで図書委員になった彼は、ともに委員を務める東雲侑子の熱のない静けさに、自分の空虚さに似たものを感じていた。しかし偶然彼女の秘密を知ってしまったことから、自分との違いを思い知らされる英太。だが、その秘密のために、彼女との距離を縮めることとなり、失ったはずの感情に胸を締め付けられていく…。


あぁもうもどかしぃ!


ついったーで

「なんかこう、青春臭くてキュンキュンするような恋愛モノはないんですかねぇ…。」とつぶやいたところ、1分も待たずにがれさんにマッハでオススメして頂いた作品。ホントにありがとうございました。 


読み終えた今から

振り返ってみるとこの作品は、特別な設定があるわけでもなく、かといって激動の展開があるわけでもないんですよね。
 無気力な少年と無口な少女が出会い、色んな悩みや想いを経てお互いの距離がゆっくりと縮まっていくという、至ってシンプルなストーリー。恋愛モノと言えば感情の起伏も盛り上がる場面も多いものですが、この作品の場合はむしろ淡白な、あるいは冷めている性格の主人公の英太視点で語られる分、淡々と進んでいきます。しかもヒロインの東雲侑子も無口なので二人の会話と言うもの自体が少ないという…。

 
じゃあ何が良かったのか。

 それは行間から伝わる甘酸っぱさ!

 多くを語らずとも伝わる想い、ではありませんが、二人の会話と相槌から漂う雰囲気がすっごくイイ!セリフ自体は短くとも、二人の表情がありありと浮かんできました!シンプルな会話と適度な相槌だけでも、地の文章次第で会話以上のものが伝わってくるものですね。 
 よく演劇などでは会話の「間」によってセリフの効果を引き出すことがありますが、同じ様なものを感じますね。別に文章の善し悪しが分かるわけでもないんですが、何となくセリフとセリフの間の地の文の使い方がとてもうまいように感じます。
 本当に何気ない会話なのにお互いの距離が縮まっていくのが感じられました。でも二人はそれぞれ自分自身の気持ちにすら気付いていないし、お互いに惹かれあっていることにも気付いていないのもわかるんです。だからこそもどかしい!カップルにはなっていないけど、後一押し何か切っ掛けがあれば!という雰囲気とでも言いますかね。
 

そんでもって

 英太と侑子の無口な性格がすっごくやきもきします!
 お互いに冷静と言うか変に落ち着いているからか、行動が起きにくくてもどかしい!二人とも自分の中でぐるぐる考え込んでばっかりなのが何この焦らしプレイ!?と思わずにいられない!
 思ったことを素直にそのまま伝えればもっと距離が近づくのに!そこで引かずにもう一歩踏み出せ!と、読んでいる側としては二人が想い合っていることはみえみえなので余計にもどかしくて堪まりません!

 それが小説の取材を通して少しづつ、本当に少しづつ近づいていくことが嬉しいんですよね。…かと思いきや、トラブルがあってせっかく縮まった距離がまた開いてしまって悲しくなったりも…。良い意味で展開に振り回されましたし、一喜一憂できました。


まとめ

☆5つ!
 盛り上がる場面はちゃんと盛り上がりますし、全体を通して丁寧な描写にとても惹きつけられる良作でした。
 二人のもどかしい関係とはまた別に、英太のちゃんと終わらせることのできなかった初恋がまたほろ苦いんですよね。同情を禁じ得ない不憫な状況なだけに、微妙に引きずってるのもしょうがないですし。それも相まって二人の関係が発展していく嬉しさがありました。

既に今現在2巻の最後に差し掛かってますが、今までこんな良作を見逃していたのが悔しい!
最後にオススメして下さったがれさん、本当にありがとうございました!