学生にどんな論文をお薦めするか?

私の出身研究室では、4年生の内に論文紹介を2回する。両方とも先生が論文を指定してくれる。*1

指定された論文は、一度研究室の中で発表する。その後、前期はオーラルで、後期はポスターで、物理学科の人の前で発表する。それをコロキウムと呼んでいたと思う。同期の4年生や物理学科の先生達だけではなくて、大学院の修士課程や博士課程の人達も見に来たり質問したりする。





先ほど、4年生の論文紹介の時に、私が指定された論文を思い出した。螺旋磁性の計算に関するものと、DM相互作用ではなくてKSEA相互作用の効果により中性子散乱の結果が説明できるというもの。


私の指導教員が私に指定した論文は、当時の私には難しすぎたと思う。


でも、今思うと、いろいろな意図が想像できて面白い。


どういう研究がすばらしい研究であるのかということを伝えたかったのだと思う。そのときに全てわからなかったとしても、後でわかればそれでいいという感じなのだろう。まあ、あの先生なら、「その程度のことはわかって当然」と思ってもいそうだけど。




指導教員が学生に読ませるような論文というものは、少なくとも指導者自身が面白いと思うものを渡す。



何を以て面白いということになるのだろうか? それは、研究者それぞれなんだと思うけど、ある種の美しさを持つ結果があるものなんだと思う。実験結果と理論の整合性だけでは不十分。理論自体が面白くて、実験結果自体も美しくなければいけない。少なくとも発表された当時は恐ろしく斬新。そして、その研究が、その後の多くの研究に影響を与える。それを元にして新たな展開が生じる。


M2の半ば頃から、先生が何を大事だと思っているのかが、四年生の論文の指定に現れる、ってなんとなく気がついた(→遅すぎだ!)。研究室のウェブサイトの中に、論文タイトルとリンクのページをつくったのは、そういうのも一つの理由だと思う*2。後の人の標になるように、って。

【2012年10月2日追記】KSEA相互作用については、詳細な日本語解説があります→内野倉國光, 固体物理 Vol.34(1999) No.9(通巻403 号)「解説 二次元スパイラル反強磁性Ba2CuGe2O7 ――忘れられていた“隠れた対称性”の復活」

*1:M1以上になると、自分で読む論文を選んで発表を行う。

*2:http://lee.phys.titech.ac.jp/~tanakalb/seminar_old.html