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2015-03-01

2015年2月の読書

2015年2月の読書メーター
読んだ本の数:11冊
読んだページ数:2880ページ
ナイス数:107ナイス




■フィクション


エリアーデ幻想小説全集〈第1巻〉1936‐1955エリアーデ幻想小説全集〈第1巻〉1936‐1955感想
  分厚いのにしかも全三巻、ということで手に取るのを躊躇していたがこれは読んでよかった。読むべき本だった。透明人間になるとか過去の追体験をするとか巨人になるとか、起きていることは突飛で荒唐無稽なのだけど説得力があったり比喩として効果的だったりして幻想文学という枠外でも通用する作品群。特に鮮烈だったのは「ホーニヒベルガー博士の秘密」。書庫に籠って謎を解いていく登場人物の姿は映画『ドラゴンタトゥーの女』を思い出させる。手記から読み取れるオチはファンタジックなのだけれど、切なくしかもそれが全て嘘である可能性も残る。
読了日:2月26日 著者:ミルチャエリアーデ





脳髄工場 (角川ホラー文庫)脳髄工場 (角川ホラー文庫)感想
  ホラーやSFの短編集。『忌憶』収録の腹話術人形の人格に身体を奪われる「器憶」に近い「友達」が好き。学校でいじめられている少年の妄想が暴走し、想像で生み出した理想の自分に生活の主導権を奪われるという話。表現も想像の具現化というガジェットもコミカルだけど、自分が考えた理想に応えられない現実の自分が押し潰されるという現実にある挫折の比喩的な表現とも考えられて面白い。オチも捻りが効いている。想像の人物の現実での暴走という展開は映画『ファイトクラブ』を思い出させる。玉石混交気味だけど「玉」の部分が煌めく短編集。
読了日:2月16日 著者:小林泰三




忌憶 (角川ホラー文庫)忌憶 (角川ホラー文庫)感想
  記憶にまつわるホラー三作品。幽霊や死とはまたちがった、自分が誰かわからなくなるような、人格が別の器に移るような、三分前の出来事がわからなくなるような怖さがある。コミカルな描写だけど、二作目の「器憶」では男の身体が腹話術人形に奪われ入れ替わる話が特に不思議な驚きがあってよかった。仮に人形に身体を奪われたとしても外見はどちらも全く変わらず、他人には見分けがつかない。人間の男になった人形が男を演じれば、第三者から見れば彼は男でしかない。そうなると人格が自分の意思か他人の目に基づくのかわからなくなるという恐怖。
読了日:2月16日 著者:小林泰三





プリズム (幻冬舎文庫)プリズム (幻冬舎文庫)感想
  「『プリズム』と『モンスター』は実はお互いが『対』になっている小説なんです」と百田さんの言葉が帯に書いてあるけど、確かに恋愛と復讐劇とかの点で中心になっているものが近いように思える。多重人格の男の一人格に恋をしてしまう女の話で、なかなかに切ない。多重人格(解離性同一障害)のキャラってだけでマンガっぽくなりがちだけど、この『プリズム』はギリギリのところで真面目に読める小説になっていて上手い。ただ主人公の聡子は純愛を通り越して色情狂みたいになってるのは現実味があるようでないような……と思うところ。
読了日:2月16日 著者:百田尚樹





お目出たき人 (新潮文庫)お目出たき人 (新潮文庫)感想
  話したこともない娘に惚れるのはまだいい。が、人を介して結婚を申し込んで自分の妻になるべき人だと勝手に盲信し、すれ違うためにわざわざ娘がよく通る場所に行き、目が合えばおれに惚れているのだと喜ぶ。実にお目出度く、思考が変態的だ。途中、あれ田山花袋をまた読んでいるのだっけ?と思い違いしてしまうほどに、「蒲団」や「少女病」に通ずる表現のヤバさとこれを小説という形にした素晴らしさがある。男の娘への餓えや盲信は気持ち悪くもあり病的でさえあるのだが、みんな言わないだけで普遍的でもあるのだからいろいろな意味で凄い作品だ。
読了日:2月8日 著者:武者小路実篤





イリヤの空、UFOの夏〈その1〉 (電撃文庫)イリヤの空、UFOの夏〈その1〉 (電撃文庫)感想
  セカイ系の代表作の一つ。ボーイミーツガールであり少女が兵器なわけだけど、この一巻目では『最終兵器彼女』ほど意外性な爆発力が足りないので物足りなかった。あとあとヒロインのイリヤがどうなるかはわからないけど。夏休みやプールなど、青春っぽい雰囲気がいい。
読了日:2月16日 著者:秋山瑞人






文學界 2015年 2月号 (文学界)文學界 2015年 2月号 (文学界)感想
  筒井康隆さんと佐々木敦さんの対談が面白かった。テーマはメタフィクションなど。佐々木さんの『あなたは今、この文章を読んでいる。―パラフィクションの誕生』や筒井さんの数々の実験的な小説などを読みたくなった。短いけれど濃度の高い情報の詰まった対談。又吉直樹さんの「火花」は小説として一定のクオリティには達しているものの、如何せんおもしろくない。話題性意外の点で読む価値は低い。他に、円城塔「プロローグ」、永井均哲学探究」、伊藤たかみ「母を砕く日」、伊藤比呂美さんと山浦玄嗣さんの対談などを読んだ
読了日:2月11日 著者:


「又吉直樹さんのデビュー中編小説『火花』について」(2015.1.21)





文學界2015年3月号 (文学界 2015年 03月号)文學界2015年3月号 (文学界 2015年 03月号)感想
  矢橋透さんの「輪部の世界劇場―ジャック・ドゥミ試論」はドゥミという20世紀のフランスの映画監督についても映画も観たことないのに、読んだらメタ演劇という観点が面白かったりして映画を観たくなった。伊藤比呂美さんの「切腹考」はまさかの実際に切腹する現場を目撃した回想でエログロキワモノで劇物的刺激。穂村弘さんの「も詩も詩」は散文の中に発見された短歌形式の文章「偶然短歌」を扱っていて、短歌の可能性の鋭さに驚く。なんだか個人的に今回は、気づくと文学から少し離れたところですごく楽しんで読んでいた『文學界』であった。
読了日:2月16日 著者:





■ノンフィクション


メディスン・ホイール―シャーマンの処方箋メディスン・ホイール―シャーマンの処方箋感想
  ネイティブ・アメリカンが人生を旅と見立てて考えた世界の法則、メディスン・ホイール。東西南北に四体の動物が位置し、またスピリット・キーパーも別に四体いる。そして、一年は12等分されそこには動物、植物、鉱物などの性質が決められていてその月に生まれた者はその性質を持つと考えられている。形式としてありふれていて、星座占いにかなり近い部分もあるのだがやはりその中身が文化特有のもので自分がこれらの存在を全く知らなかったということも含め、興味深い世界の一つの解釈方法として読めた。
読了日:2月11日 著者:サン・ベア,ワブン





マザーネイチャーズ・トーク (新潮文庫)マザーネイチャーズ・トーク (新潮文庫)感想
  7人の科学者への立花隆さんのインタビュー集。90年代前半に行われたものなので情報は古くなってるかもしれない。完全に文系の私は科学系の本をほとんど読まないのだけど、サル学や動物行動学、精神分析学、昆虫の話が面白くて、あと樹木などの植物に関する話が多く特に記憶に残っている。どれも比較的素人でも分かり易いように立花さんがうまく質問したりしている。集まった科学者の専門とする分野が幅広く、どれか一つか二つにでも興味があれば楽しめそう。たまには科学方面に好奇心を向けなければいけないなと思わされた。
読了日:2月22日 著者:立花隆,日高敏隆,多田富雄,河合雅雄,松井孝典





賢治の旅 賢治への旅賢治の旅 賢治への旅感想
  賢治にゆかりのある地を訪ねた記録など。岩手県花巻などが中心かと思っていたが、意外に東京、京都秩父など賢治が旅行や地質調査で訪ねた土地なども取り上げている。ちょっと関連性の薄さが感じる部分もあるが。しかし、特に賢治の詩だけを読んでもいまいち意味がわからないことが多いの一つの理由に、書かれた文脈がわからないから、ということがあるだろうから、こうして訪ねた土地や会った人々がわかると、自ずと作品の解説になる。花巻とか遠野とか秩父とか、読んでいると行きたくなる。
読了日:2月12日 著者:三上満






読書メーター


忌憶 (角川ホラー文庫)

忌憶 (角川ホラー文庫)

脳髄工場 (角川ホラー文庫)

脳髄工場 (角川ホラー文庫)

プリズム (幻冬舎文庫)

プリズム (幻冬舎文庫)

モンスター (幻冬舎文庫)

モンスター (幻冬舎文庫)

2015-02-09

『スペース☆ダンディ』第18話「ビッグフィッシュはでっかいじゃんよ」への驚き

f:id:sibafu:20150208230853j:image:w450




  2014年9月まで放送していたスペース☆ダンディというなんだかテキトーな宇宙人ハンターたちが主役のSFアニメ。


  で、今更な感じではあるけど、押山清高さんという方が脚本、絵コンテ作画監督などを担当した第18話(シーズン2の第5話)「ビッグフィッシュはでっかいじゃんよ」を見たら、なんだか神がかっていて正に神回だった。20数分の一話なのに映画一本見ているような世界観やアニメらしい演出の濃さ。すばらしい。


  雰囲気が『マインドゲーム』っぽかったし第16話の「急がば回るのがオレじゃんよ」は湯浅政明さんなので、また担当しているのかな?と思ったら全く知らなかった押山さんだった。ジブリ、特に崖の上のポニョ千と千尋の神隠しっぽくもあり、『老人と海』や『海流の中の島々』などのヘミングウェイの釣りの話のようであり、『まんが日本昔ばなし』のようもであり、土台にある『スペース☆ダンディ』を越えつつ磨きをかけていた。


  今まで見た中で『スペース☆ダンディ』の第18話は特によかったけど、シリーズ全体として意外で奇妙な面白さがあるアニメだ。いろんなクリエイティブなスタッフが参加して、作家性をもろに剥き出しにしていろいろな話が作られていくのだから、オムニバスアニメのようでもある。


  『スペース☆ダンディ』は総監督の渡辺信一郎さんを始めとして、脚本の佐藤大さん信本敬子さんや音楽の菅野よう子さんなど、カウボーイビバップを作ったスタッフが再集結したアニメなので、根底には『カウボーイビバップ』があるわけだけど。


  その『カウボーイビバップ』も一話完結の回がけっこう多くてオムニバス的な要素はあったものの、主人公スパイクの過去の因縁という大筋はあった。けれど、『スペース☆ダンディ』の場合はそういう大きなストーリーがないので、より自由で枠にとらわれないはちゃめちゃなアニメになっているように思える。




  というようなことをツイッターでつぶやいたら、思いのほか『ダンディ』ファンの方々から反響があって驚いた。ちょうどAT-Xというチャンネルで再放送が始まったり、根強い人気があるシリーズだと知ってちょっと嬉しい。


  正直言うと、『カウボーイビバップ』が好きだからこの『ダンディ』もシーズン1の頃からヒマつぶしのようにダラダラと見続けていたのでした。だから大して期待はせずこの時期になってシーズン2も見始めたのだけど、こういう18話目みたいな驚きのある回もあるシリーズと知り、意識を改めようと思った次第なのでした。


  押山清高さんは「作画@wiki」によると、電脳コイル作画監督が代表作で、借りぐらしのアリエッティ』と風立ちぬジブリ作品にも原画で参加しているとのこと。『電脳コイル』もすごくタイプなアニメで今も記憶にこびりついているし、ジブリも言わずもがなだし、この『ダンディ』第18話が自分好みなはずだ。




f:id:sibafu:20150208233416j:image:w450


  このエシメという女の子のキャラがやっぱり好き。神秘的。トップに貼ったアイキャッチもこのエシメ。声は子役の子が演じていて、仕草なども含めてポニョと宗介を混ぜたようなキャラになっている。ダンディに怒った時の表情は、昔話に出てきそうな、風の又三郎のような、子供に秘められた恐ろしさを感じさせるものですごくよかった。




スペース☆ダンディ Opening ビバナミダ」
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2015-02-07

2015年1月の読書

前回の分に比べれば全然読んでいない月になったので、編集がかなり楽に感じる。

意識していなかったが、三田誠さんを三冊も読んでいた。

『ロード・エルメロイ2世の事件簿』よかった。




2015年1月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:3674ページ
ナイス数:131ナイス





■フィクション


羆嵐 (新潮文庫)羆嵐 (新潮文庫)感想
  ヒグマに襲われた村人たちが怯えながら退治を試みる実際にあった話をもとにした小説。襲われて熊を追って、というただただ一本道なストーリーなのに綿密に書かれた描写が一々リアルで熊の恐ろしさがまざまざと伝わってきて、非常に読み応えがある。熊ってただの動物のように思ってたけど、人間を何人も殺してそして食べて農具や旧式の銃を持った人間が数十人集まっても太刀打ちできない、となるともはやこいつはモンスターと言ってもいいくらい。動物ものをよく描き確か熊ものも描いていた谷口ジローさんのマンガで読んでみたくなる。
読了日:1月24日 著者:吉村昭





破船 (新潮文庫)破船 (新潮文庫)感想
  漁村が舞台だが漁だけでは餓えてしまい、家族の一人や二人が身を売ることが常になっている。が、数年に一度「お船様」がやってきた時には村人たちは狂喜する。お船様とは岩礁に座礁した難破船なのだが、村人はそれを待ち望み夜中に火を起こして誘いさえする。積み荷も船の材木も船員の命をも奪う。あまりに悲愴的でひもじく痛ましいのだが、村人たちの無力さと純粋さが度を越していて、安部公房が好きなせいだろうかひどく滑稽にも思えてくる。閉鎖された村で破船を待たなければならない、何の縛りによるルールのある世界なんだ?と不思議に思う。
  読んでいて、このあまりにもバカらしい村と村人たちの話がもしノンフィクションだったらどうしよう、と心配で調べないようにしていたのだが、この『破船』はフィクションだそうだ。とは言え、破船から物を奪うことは一般的にあったのかもしれないし、飢饉などに面した村のひもじさというのは神頼みするしかない状態であり、いまだから嘲笑できるものなのだろう。村人の無知さ加減がアホらしくもあるのだが、『羆嵐』とはまたちがった面白さがあるので嫌いではない。
読了日:1月26日 著者:吉村昭





グレート・ギャツビー (新潮文庫)グレート・ギャツビー (新潮文庫)感想
  野崎さんの訳は好きな方だけど、これはちょっと古すぎて読みづらく描写がわかりにくい。ただ、2013年公開のバズ・ラーマン監督の映画を観ていたのでディカプリオやトビー・マグワイアなどの顔を思い浮かべながら記憶で補強して読むことができた。ギャツビーという男は詐欺師みたいな奴だが、語り手ニックから見ればひどくピュアな奴でもある。解説で野崎さんが書いているように、ギャツビーの出世は手段でしかなくて、昔の恋人デイジーを取り戻すことが目的だ。しかし、成り金と生来のお嬢様では決定的に人間性が異なる。センチメンタルになる。
  実はこの本は買うのも読むのも二度目。酔っぱらって醜態を晒した時になくしたので。敬愛する作家ヘミングウェイがパリ滞在中の思い出を書いたエッセイ『移動祝祭日』で親交のあったフィッツジェラルドとのエピソードをいくつも書いていたり、あと村上春樹がやたらと高く『グレート・ギャツビー』を評価していたりする影響で、一度は読了せずにはいられないと思っていたのでついに読めてよかった。また途中でなくさないかと心配しながらの読書だった。また映画を観たくなったし村上春樹訳も読んでみたい。
読了日:1月25日 著者:フィツジェラルド





スティル・ライフ (中公文庫)スティル・ライフ (中公文庫)感想
  文学の中で科学っぽいことを書いていてそれでも詩的で抒情性があるのは新鮮でいい気持ちがした。染料の話とか好きだな。そういうところは好きなのだが、株とかロシアのスパイの話とかみたいなエンタメ的で現実的な異質なものが混ざってきてその意図が意味不明だし、それは魚の肉だと思って咀嚼してしまいそうになった骨みたいに不愉快だった。理解しがたい。中途半端でもったいない。
読了日:1月24日 著者:池澤夏樹





文明の子文明の子感想
  短編集のようだけど繋がりのある話もあり、連作という風でもある。すべて童話調でSFやファンタジーっぽさがある。同じく芸人の西野亮廣さんの描く絵本もそういう雰囲気で近いものがある。この『文明の子』には宮沢賢治サリンジャーの影が見え隠れしている。過去の作家への尊敬は理解できるが、この本はそこから脱し切れずオリジナリティが不足しているように思える。童話調が悪いわけではないが、夢や妄想のような幼稚さを感じる。どちらかと言うと短編集の前著『マボロシの鳥』の方が好き。
読了日:1月24日 著者:太田光





白い指先の小説白い指先の小説感想
  四編収録。それぞれ別の話だが、やたらと作家や写真家あるいはその志望者たちが主要人物として登場する。数少ない読んだことのある他のいくつかの作品も含めて、なぜか最後には女性が成功者になり男性は変わらないまま、という構成が多い気がする。別に成功するとかしないとか、そういうオチはなくていいんじゃないかなと疑問を感じる。男が女たちを見守る、という形式なのかなと思う。まとまりのある一冊だが、まとめられる素材が光っていなければ良い本にはならないだろう。
読了日:1月10日 著者:片岡義男





老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))感想
  四編収録。他の三つはただの文字の羅列でしかなかったが、最後の「漂った男」はなかなかいい。ほぼ水しかない惑星に不時着して、題名の通りぷかぷかと浮かんで漂い続ける男の話。遭難した時の心境変化や周囲の人々の対応など、巧く書いていてすごいと思った。ただ、ほぼ水しかない惑星でその不思議な水だけで生きていける、という舞台設定がただのご都合主義でリアリティもクソもないのが非常にもったいない。始めの「ギャルナフカの迷宮」が顕著だけど、作品内世界が小説というよりゲームなんだよね。そこらへんはあんま感心しない。
読了日:1月10日 著者:小川一水





ロード・エルメロイ2世の事件簿ロード・エルメロイ2世の事件簿感想
  「Fate」シリーズのスピンオフで、ロード・エルメロイ2世=ウェイバー・ベルベットが主人公。原作の世界観に沿っているが、剣士などが活躍する話ではなくて魔術師たちがメイン。ロード・エルメロイ2世は魔術師としては二流だが、洞察力や博識という設定でこの話では探偵の役割を担っていて、広義のミステリーになっている。やはり三田さんと魔術考証担当の三輪清宗さんの織り成す魔法世界は楽しいものだ。原作のゲームなどの方を知らないので比較できないが、三田誠ファンが納得できる作品になっているとおもう。二巻目も期待。
読了日:1月4日 著者:三田誠





レンタルマギカ  滅びし竜と魔法使い (角川スニーカー文庫)レンタルマギカ 滅びし竜と魔法使い (角川スニーカー文庫)感想
  前巻からの続きで修学旅行で来た京都での魔法使いたちの決闘。終始緊迫しシリアスな展開。残りの巻数も少なくなってきたこともあり、この世界での日常の平和が恋しくなるものだ。嘘やごまかしで隠してきた真実が様々な人物から次々と明かされたりして、今までの常識が崩れていく。それでも結社「アストラル」や仲間を守るために闘うイツキを代表して、それぞれのキャラクターの信念には熱いものを感じる。いざこざの渦中での「ゲーティア」首領のアディリシアの葛藤もよくて、その末、絆は深まっていっているのだろう。第二部完。
読了日:1月24日 著者:三田誠





アガルタ・フィエスタ!―てのひらに女王を! (電撃文庫)アガルタ・フィエスタ!―てのひらに女王を! (電撃文庫)感想
  古代地下王国アガルタの王女・イセリア。ヒロインでもあるイセリアはかつては人間だったようだけれど、今は人形に魂が移っているような状態で、主人公と共闘したり恋愛っぽくもなるのだからそこだけで言うとなかなかマニアックなフェチだ。お話は一般的でライトなドタバタアクションという感じ。地下の世界でありながら地上のように光が照らす世界というのは、富野由悠季さんの『リーンの翼』のバイストン・ウェルに近い印象。この『アガルタ・フィエスタ!』は4巻までと短いしサラッと軽く読めるので続きも読んでおきたい。
読了日:1月24日 著者:三田誠





■ノンフィクション


スピノザの世界―神あるいは自然 (講談社現代新書)スピノザの世界―神あるいは自然 (講談社現代新書)感想
  これは難しい。でも分かりたいと思わせる神秘性も同時に感じさせる。あの『エチカ』の原題を訳すと「幾何学的秩序で証明されたエチカ[=倫理学]」であるように、スピノザの記述方法はユークリッド幾何学に影響されているようで、ひどく数学的で日本語を読んでいる気がしない。内容はほとんど分かっていないけれど、でも「神あるいは自然」というフレーズは好きだ。
読了日:1月10日 著者:上野修





宗教人類学―宗教文化を解読する宗教人類学―宗教文化を解読する感想
  総勢20名以上の研究者たちによってまとめられた、総合的かつ教科書的な宗教人類学の本。祖先祭祀や死者儀礼新興宗教などについてはさほど興味がなかったが、やはり呪術関係はおもしろい。シャーマニズムもいいけど陰陽道も奥深そうだな、とおもうのだった。直接は関係ないけど最近は錬金術にも興味が湧いてきて辿り着く先がまったく見えなくて困る。
読了日:1月10日 著者:





世界音痴〔文庫〕 (小学館文庫)世界音痴〔文庫〕 (小学館文庫)感想
  穂村さん変なひとだなーダメなひとだなー。まさに「世界音痴」。おもしろいんだけど、こういう「俺ってダメなやつ」エピソードを自身で語るっていうのは信憑性が低いし痛くもあるね。キャラ作ってる感じで。そう思ってしまうのは、こういう自虐的エッセイが巷に溢れているからだろうけど。全て真実だとしても、それはそれで穂村さんが変人過ぎて信じられないし気持ちわるいっていう状態だ。穂村さんの書く文章や詠む短歌には興味があるけど、本人のような人には悪いけど近づきたくないなと思ってしまった。
読了日:1月24日 著者:穂村弘





読書メーター


羆嵐 (新潮文庫)

羆嵐 (新潮文庫)

マボロシの鳥 (新潮文庫)

マボロシの鳥 (新潮文庫)

2015-01-21

又吉直樹さんのデビュー中編小説「火花」について

文學界 2015年 2月号 (文学界)

文學界 2015年 2月号 (文学界)


  気づけばここ一年ほど、毎月『文學界』を購読している。もはや日々の習慣の一部になってしまっている。藤沢周さんの連作はおわってしまったようだが、円城塔さんの連載「プロローグ」が毎月の楽しみになっている。


  それで、2015年2月号に掲載された又吉直樹さんのデビュー中編小説の影響で『文學界』は売り切れて増刷までして、先日ようやく手に入ったのでした。


  そして、「火花」読んだ。


  あらすじとしては、20代のお笑い芸人が主人公で少し年上の同じくお笑い芸人と出会い、師弟関係になり何年も時間が経ち、その間に売れたり売れなかったりという紆余曲折がある、というもの。20代以降の話だが、青春お笑い小説と呼べるかもしれない。


  ストーリーとしては何の面白みもないものだ。まぁ、それだけなら全然問題ないのだが。しかし、文体やら描写の仕方にしても、たまにお笑いらしくフフッと笑えるところがあるだけで、文学的でもないしエンタメと言えるほどに軽快なものではない。


  改行がやたらと少なく文字で埋め尽くされた誌面。気張って生真面目に書いているのだが、その文章のほとんどがただの文字でしかなく読む意味があまり感じられない。又吉さんやお笑いが好きなら、お笑いについてのポリシーやボケとツッコミのやりとりに意味があるのだろうけれど、それ以外の人間にとってはそれらは何にもなりはしない。


  死に体の『文學界』を増刷までさせたその話題性と、この中身のなさの落差に驚くばかりだ。


  「火花」はただつまらないだけでなく、ジャンルの立ち位置として中途半端でもある。もっと純文学っぽく書いてもよかったし、開き直ってエンタメに徹してもよかったのではないかとおもう。バランスが良いとは言えず、どっちつかずになっている。


  又吉ファンは「又吉直樹が書いた小説」を読めればよかっただけかもしれないので、内容なんてあってないものかもしれないけれど。しかし、これが売れてしまったというのは呆れてしまう。ツイッターでは絶賛している人を目にするが、どこかがおかしいんじゃないのかと思ってしまう。


第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)

第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)






  以下愚痴的蛇足。


  売れている本には面白いものもつまらないものある。それは当然なのだが、つまらないのに売れているというのは一種の宗教現象のように見えてしまう。人々の本への信仰が数字になって表れている、と思える。


  売れているのにつまらない本があるということは、もはやそれは文字を読まなくていいし本を開く必要さえない。内容の良し悪しなど関係なく、売る側は売れればハッピーだし読む側は「売れていて楽しいものを読んでいる私」という体験を得られればそれでハッピーなのだから、本を読む必要などない。本を開く必要もなく、ただ買えばいいだけだから読むという手間が省けてみんながもっとハッピーだ。


  本は極端に評価すれば良し悪しがあるはずだが、実際に読むまではそれは箱の中の猫の「シュレディンガーの猫」状態であるわけで、読まなければ本当は生死は不明だ。でも、事実に関わらず全て良いのだと判断しゾンビ猫となった本を絶賛すれば売る方も読者もハッピーなのだから丸く収まるのだ。


  そういうリビングデッドの本というのはゾンビ猫とも言うことができる奇妙なモンスターで、売れる本にもかかわらず良し悪しがあるという現実が示すように、人が本を読んでいようがいまいが、この世界にゾンビ猫は徘徊している。そして、ゾンビ猫は信仰がなければ生きられないのだから、ここは地獄だ。


  嘘を嘘と思わずハッピーに生きるのは胡散臭いのだが、地獄な現実を真正面から見詰めつつ生きるのはそれはそれで腐っていきそうなもので、だからバランスよく生きるべきなのだろうけれど、ゾンビ猫への信仰はアホじゃないかとつくづく思うのだった。

2015-01-02

2014年12月の読書

狂ったように本を読むこともある。

読書メーター病」みたいなもので、とりあえず読んだ冊数を増やしたくなる病気。

しかしそれよりも、2015年はもっと落ち着いて本を読みたいなとおもう。

数字ではなく、よい本をよりよく読むということが理想。

そして、読書で得たものを生活に活かせる生活をしたい、とおもう。





2014年12月の読書メーター
読んだ本の数:26冊
読んだページ数:6658ページ
ナイス数:174ナイス


■フィクション


血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)感想
  コーエン兄弟によって映画化された原作。映画自体は絶賛する程ではないが、非人間的な冷徹さとその口から発せられる奇妙な運命論と、酸素ボンベという独特の武器をもった殺し屋シュガーというキャラクターは映画史に残る傑作。映画はほぼ原作通りなので読んでみて真新しさは少ないが、やはりクライムサスペンスでありながら漂うほのかな文学さと哲学さはいいものだった。著者のマッカーシーが脚本を書いた『悪の法則』ではその名の通りの法則を世界として描いていたが、『ノーカントリー』では世界の法則を一人のシュガーという死神で描いている。
読了日:12月3日 著者:コーマック・マッカーシー





蒲団蒲団感想
  受験勉強の現代文で題名と蒲団の匂いを嗅ぐということだけ覚えた「名作」。とてもおもしろかった。ちょっとダメな大人の若い娘への嫉妬。男も嫉妬するんだぞ、っていうあまり普段意識しない面がすごく共感できる。主人公の弟子となった女学生・芳子に恋人ができてその関係を周囲が許さず、彼女たちの行方が気になる書き方になっているし、やはり文学的でもある。恋心を抑制できないダメな男さ、は漱石の『こゝろ』にも通ずる。が、文体はどこか嘲笑的で漱石で言うと『吾輩は猫』や『坊ちゃん』に近い軽妙さもある。固すぎる貞操観念が新鮮。名作。
読了日:12月14日 著者:田山花袋





少女病少女病感想
  10ページほどのロリコン短編。いやー、これは気持ちわるい。清々しいほどにロリコン趣味。しかも職場の同僚や上司にも知れ渡ってて、主人公の書いた新体詩の感想とともに「少女万歳ですな!」なんて言われてしまう。通勤電車では車内の女学生たちを物色するのが日課で、家に帰ったら妻がいるが興味は薄くなんでもっと若い頃恋をしなかったんだ、なんて思ってる。そんなヤバい男の話ですが、死ななくてもいいんじゃないかとは思ってしまうが。過度に露悪的で当時も無論、今書かれてもこれは強烈な小説になりそうな問題作。
読了日:12月14日 著者:田山花袋





田舎教師田舎教師感想
  主人公の林清三は中学(いまの高校?)を卒業するが家庭が貧しいことから進学できず、高等小学校の教師となる。故郷での田舎教師生活に甘んじながら文学者になる夢を抱きつつ、かつての同級生たちと文学の同人誌を作ったり酒を呑んで恋の話で盛り上がることもあれば、東京へ進学していく仲間たちへの羨みや自身の情けなさを嘆くこともある。全体的に平板な物語で中弛みには退屈を感じるのだけれど、結末は意外で感じ入るものがあった。前半は漱石の『坊ちゃん』を思い出すが、後半は宮沢賢治の姿が目に浮かぶ。
読了日:12月31日 著者:田山花袋





陰陽師(おんみょうじ) (文春文庫)陰陽師(おんみょうじ) (文春文庫)感想
  おもしろかった。『コミックリュウ』で連載中の睦月ムンクさんの漫画で興味を持ち読んだ。安倍晴明源博雅の怪異問題解決コンビの一話完結型。一話ずつなのは意外だったが後々長編になっていくんだろうか。二人のコンビはホームズワトソンみたいでもある。二人の意味深な仲の良さからは嫌でもBL的なものを想像してしまうが、これはネタにされてもしかたがないだろうってくらい仲良しで微笑ましくもある関係。晴明が解決していく都で起こる怪異現象が古典から持ってきているようなもので、民間信仰にも近いのでそういう点で自分好みだった。
読了日:12月3日 著者:夢枕獏





反撃〈上〉 (講談社文庫)反撃〈上〉 (講談社文庫)感想
  開始早々、誘拐事件に巻き込まれて主人公ジャック・リーチャーが監禁される。普通なら絶体絶命の状況だが、抜群の戦闘力と推理力で間一髪のことろこ切りぬけていく。息を飲むようなストーリーで相変わらず夢中にさせてくれる。一つ前に読んだ『前夜』では軍に指名手配犯として追われながらも、飛行機で女性の部下と海外を行き来したり、一夜を共にしたりと余裕があり、読者にとっても良い具合に気分の緩急を付けてくれていた。しかし、この『反撃』はずっと緊迫した状況で事件の真相を解くための一直線のストーリーになっていて少しもったいない。
読了日:12月21日 著者:リーチャイルド





反撃〈下〉 (講談社文庫)反撃〈下〉 (講談社文庫)感想
  放浪者だけど元軍人で無敵にさえ思えるジャック・リーチャーという男。でも、その巨体が暗闇の鼠が這い回る洞窟を通り抜け脱出しようとするシーンで、珍しく弱々しい姿を見せる。生まれつき身体が大きいことから閉所恐怖症気味らしい。身体が岩と岩の間に挟まり身動きが取れず冷や汗をかき息が荒くなる。無敵の男の焦り。だが、この男が最後には負けるはずがないとわかっているからこそ、この嵐の前の静けは怒りの爆発までのいい溜めになった。そして、それからの反撃が清々しいのだから。大いに楽しませてもらった。
読了日:12月29日 著者:リーチャイルド





海を呼びもどす (光文社文庫)海を呼びもどす (光文社文庫)感想
  2014年の『文學界』に片岡義男さんの短編が隔月くらいで載っていたのを読んで興味を持ち、図書館で単行本を読んだ。1989年頃に書かれた作品だが恋愛小説で時代は昭和後期頃でありながらも、文体が無機質的なせいか古さを感じさせない。現代に過去を回想してい書いている印象。だが、『文學界』で読んだいくつかの作品の文体が非常に無個性的で非人間的という方向に振り切れているのに対して、『海を呼びもどす』はそこへ至る発展途上という具合で中途半端に感じる。ストーリーに期待はしていないしその通りのものだったが、文体が惜しい。
読了日:12月6日 著者:片岡義男





ふたつのしるしふたつのしるし感想
  1991年から始まる小学生くらいの二人の男女の「ハル」のお話は現代へと至る。小学生、中学生時代の無垢さ純真さがうまく書けていて好きだった。小学一年生の頃の記憶なんてほとんどないけど、「春のしるしを探しましょう」と先生に言われればがんばって探したんだろうな、と思った。しかし作中の時間経過が早すぎて、呆気なさと余韻のなさがもったいない。まぁ、如何にも現代の中間的な小説らしい小説。読もうと思えば1ページ2秒で読めてしまう類の現代小説というもの。スカスカの中に少しでもしるしを探せればいいのでしょうが。
読了日:12月28日 著者:宮下奈都





夜また夜の深い夜夜また夜の深い夜感想
  一応日本人の女の子が主人公だけど日本に行ったことはなく、イタリアナポリのスラムに謎の母親と暮らしている。家出して地下の穴倉に同年代の女の子二人と住み着き盗みで暮らすようになって……。犯罪やら内戦のエピソードやら話はエグいが、良くも悪くも緊張感がない文体で「重いマンガ」くらいの作風。マフィアが支配するような貧民街で手段を選ばず女の子たちで生き抜く姿は逞しく、行く先がどんどん気になる。倫理観など考える部分もあるが、やはり軽い。リアリティに乏しいしマイコの正体など規模を広げればいいというものではないだろう。
読了日:12月14日 著者:桐野夏生





クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky (C・NOVELS BIBLIOTHEQUE)クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky (C・NOVELS BIBLIOTHEQUE)感想
  5冊目。語り手の「僕」が飛行機か薬のせいかで記憶障害になった時点から始まるが、約5カ月ぶりくらいに続きを読んだ僕もまたそれ以前の記憶が断片的で長らく状況が読めずにいた。終盤までずっと地上での出来事で珍しく思えた。そのせいか物足りなく感じたが、終盤でやっと空戦の場面があり、今まで意識したことがなかったが飛行シーンはけっこう刺激的だったのだなと考える。やたら語り手や周囲の人物の名前をボカすのはわざとらしすぎて、すこしうんざりした。シリーズ中あまりパッとしない一冊かもしれない。表紙のデザインもよくない。
読了日:12月5日 著者:森博嗣





R.O.D―READ OR DIE YOMIKO READMAN“THE PAPER” (集英社スーパーダッシュ文庫)R.O.D―READ OR DIE YOMIKO READMAN“THE PAPER” (集英社スーパーダッシュ文庫)感想
  「本が好きです。この世のなによりも好きです」とあとがきで語る倉田英之さん。その言葉の通り、良くも悪くもメタ的にも作品内でも本好きが暴走しているお話。ドタバタコメディ調でありながら意外とバイオレンスでセクシャル。舛成孝二さんが監督、倉田さんが脚本のアニメ『かみちゅ!』のファンなので手に取ってみたが、話が面白いというか倉田さんという人への興味が深まる読後感。最近『ビブリア古書堂』の著者の三上延さんとの共著『読書狂の冒険は終わらない!』が出たけど、この二つのシリーズは本繋がりという点でとても近い。
読了日:12月31日 著者:倉田英之,スタジオオルフェ





know (ハヤカワ文庫JA)know (ハヤカワ文庫JA)感想
  SF小説にはTVゲームみたいに説明書を読んでコントローラーでの操作方法などを覚えなければいけないものがあり、これもそう。でも、用語とか世界観とかこれ一冊きりだからね、そんなのまじめに読んで覚えてどうすんの?という気分になってしまい、ぼくはVery Easyモード(不真面目な読書または真摯でないプレイ)でのクリアでした。
読了日:12月30日 著者:野崎まど





文學界 2015年 01月号 (文学界 2015年 01月号)文學界 2015年 01月号 (文学界 2015年 01月号)感想
  読んだ:円城塔「プロローグ」、永井均哲学探究」、柳美里ウーパールーパー 飼う人 Vol.2」、片岡義男「なんのために生きるの」、西村賢太「無銭横町」、中原昌也「軽率」他。柳美里さんの「ウーパールーパー」が好き。うぱ、るぱ、うぱ、るぱ。西村賢太さんの貫多は相変わらずいつも通り図太く生きていて面白い。リニューアルした『文學界』。正直、表紙はちょっと微妙。「巻頭表現」の写真は以前とは打って変わって素敵だが、文章は不要。疑似恋文特集ってのも別にいらないなって思った。
読了日:12月18日 著者:





■ノンフィクション


哲おじさんと学くん (日経プレミアシリーズ)哲おじさんと学くん (日経プレミアシリーズ)感想
  本書の前半は『日経新聞』に連載されていたしこのタイトルだし、中学生くらい向けに書かれた易しめの哲学本かな?と思い読み始めたがそんなことなかった。序盤この理解は追いつくが、中盤からもう理解不能に陥っているのであった。とは言え学くんの「僕の考えてることはみんなに理解してもらえない」や「学という人がぼくである必然性はない」や独我論的な哲学ゾンビの問題に関する悩みは実に中二病的。そういう悩みが懐かしくもある。私とか神とか世界とか、こうして意識してみなければ考えないことに思考を向ける作業がなかなかに刺激的だった。
読了日:12月6日 著者:永井均





私・今・そして神 開闢の哲学 (講談社現代新書)私・今・そして神 開闢の哲学 (講談社現代新書)感想
  5分前に世界はあったのか、あるいは5メートル前後に世界はないのか、私が二人に分裂したら意識はどうなるか、勝手に作った私的言語の可能性など、普段は意識しないどうでもいいことについての哲学的探究。分かる部分は面白いが、大概が難しい。見た目、思考、言動が完璧に近いが心のないロボットに、今日から心を入れてみるのだが、そのロボットが周囲の人々に「私は今日から心があります」と言っても、本人も他人も誰も意識できないし意味の無い表明だ、みたいな文章が最も読んでいて驚いて、その驚きが嬉しかった。
読了日:12月18日 著者:永井均





スピノザ―「無神論者」は宗教を肯定できるか (シリーズ・哲学のエッセンス)スピノザ―「無神論者」は宗教を肯定できるか (シリーズ・哲学のエッセンス)感想
  『エチカ―倫理学』の著者スピノザだが、本書は『神学・政治論』や『国家論』を中心に解説されている。スピノザ哲学と言うより、17世紀オランダの世相や政治の中でのスピノザの言動、という中身なので期待とはちがったがこれはこれで面白い。宗教学、神学を中心としているが神の捉え方はやはり私の捉え方と繋がるように哲学にも近いものなんだろう。聖書は信用できない、嘘を言っている、でも聖書は神聖だ、のような回りくどいことを言っているスピノザだが、上野修さんが言うように無神論者というわけではないのだろう。
読了日:12月18日 著者:上野修





ジョークの哲学 (講談社現代新書)ジョークの哲学 (講談社現代新書)感想
  分かり易いジョークもあるが、「考えオチ」と呼ばれるものはなんでこれがジョークなのか、話を読み終えても分からないから恐ろしい。解説を読めばなるほど、と納得できるのだが。著者も書いているが、ジョークは謎解きという点で小さなミステリー小説みたいな所がある。序盤はジョークを分析、し構造を解説しジョークやうまいことを言うための実用書風だが、油断しているとニーチェラカンハイデガーなどの立派な哲人たちの言葉や理論を引用、応用してくるものだから、底なし沼みたいに入り易くて奥深い。さらっとジョークを言える人に憧れる。
読了日:12月21日 著者:加藤尚武





世界宗教・神秘思想百科世界宗教・神秘思想百科感想
  洋の東西も時代も問わず、宗教にかかわる人物や思想を集めた百科事典。事典形式だが、この邦訳版はカテゴリー毎に章立てしてあるので読み物として読める。キリスト教仏教神秘主義紀元前哲学者たちの思想も見事にこの一冊に収められて、さすがジャック・ブロスだ、と驚く。実生活でもフィクションでも普段触れている宗教を「神秘思想」という一つの文脈でこうして一直線に並べて眺めることは新鮮な体験だった。ジャック・ブロスの他の著作には『世界樹木神話』や『植物の魔術』などがある。
読了日:12月29日 著者:ジャックブロス





ユング (講談社選書メチエ)ユング (講談社選書メチエ)感想
  ユング心理学の本でもあるけど、ユングの生い立ちから亡くなるまで、父親やフロイト、恋人との人間関係なども含めて一冊の本になっている。あまり読みやすくはないが、ユングとその心理学をサラッと知るにはちょうど良い。
読了日:12月29日 著者:アンソニースティーヴンズ





反アート入門反アート入門感想
  「反アート」って何だ?一つ、簡単に考えて言えるのはいわゆる現代アート。実際中盤くらいまではウォーホルなどのアメリカン・ポップ・アートやミニマル・アートの作家や作品を紹介し、美術史を解説している。もう一つ考えられるのは、アートや美術、芸術という固定観念を疑う、という意味での「反アート」だ。終盤で岡本太郎について書かれている。それによれば、太郎は美術や芸術という言葉以上に呪術という言葉を重視した、とのこと。言われてみれば、自然と芸術やアートという言葉に固まった意味を持っていてもっと解きほぐすべきかなと思う。
読了日:12月21日 著者:椹木野衣





ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ〈1〉 (新潮文庫)ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ〈1〉 (新潮文庫)感想
  小林紀晴デビュー作。写真家というイメージで読み始めたので、写真の少なさに驚いた。著者自身のアジア諸国への「自分探し」の旅の記録でもあり、主に20代の若者たちへの取材でもある。前半は1991年当時、後半は三年後の94年の取材をした人たちとの再会という構成になっている。三年後には旅人同士で結婚し子供もいる者もいれば、日本に戻りまたアジア横断の旅に出ようとする者もいれば、バンコクで体調を崩し日本に帰り家族に囲まれ亡くなった者もいれば、自ら命を絶った若者もいる。旅人の暗澹と希望が混ざり合った一冊。
読了日:12月21日 著者:小林紀晴





身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論感想
  元夜のオネエサンであり『「AV女優」の社会学』の著者によるエッセイ。正に「赤裸」な時もあった赤裸々なあらゆる過去がどす黒い紫色をして饒舌に語られていく。ホストクラブやもっと夜の街的な事情が詳しく語られていて、こんな世界もあってこんな人々もいるのだなと半ば呆れる。かるーく読む分には十分おもしろい。他の文章では使われていなかった気がするがあとがきに「本当の愛」という言葉が使われていて、知り合いの著者と同年代の女性も同じ言葉を使っていたので気になった。そんな経験豊富でない人間は愛の真偽なんて考えないのだろうが。
読了日:12月6日 著者:鈴木涼美





「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか感想
  逞しくそして輝くAV女優たち。性の商品化を問題視したり憐れんだり擁護したりする世論が前提にあり、その反発としてAV女優の逞しさをこの本は語っているのだとおもう。読んでいるとAV業界が至極普通のことに思えてくるので不思議な感覚だ。AV女優たちのプロ意識も達成感を得るためにがんばる姿も、キャラクターを演じることもどんな職業にも共通するものだろう。しかし著者が明かす彼女たちの姿は逞しくカッコよくさえあり、裸で大衆の前に立てるという無敵ささえ錯覚させる。それは負の特別さではなく正の特別さを印象付けてしまう。
読了日:12月8日 著者:鈴木涼美





絶望名人カフカの人生論絶望名人カフカの人生論感想
  名言は嫌いだしその引用者も嫌い。名言だけしか見ず喜んで無責任にリツイートするアホも嫌いだし、こういった名言本も嫌いだ。それは、実際のテクストや人物の捏造に近いからだ。しかし、それを踏まえてもこの本はおもしろいしカフカという作家に今もこれからもずっと価値がある、と読んで気づく。日常に絶望し切っていたカフカはついに後に死に至る結核にかかるが、発症し始めたころ「結核はひとつの武器です」と手紙に書き、他の断片では過去に足を骨折したことを「生涯でもっとも美しい体験」と書いている。日常の不幸が彼に作品を書かせる。
読了日:12月6日 著者:フランツ・カフカ





日本人が知っておきたい森林の新常識日本人が知っておきたい森林の新常識感想
  林業と森林について、私のような素人にも分かり易く書かれている。多くの「森林の常識のウソ」や知らなかったことが書かれていて驚く。いくつか節のタイトルを挙げておく。「森は二酸化炭素を吸収しない」、「原生林の自然は貧弱である」、「火事が育てる森もあった」、「里山ゴルフ場はそっくりだった」など。自然のためとか地球温暖化対策と言って木を守ろうという意識が一般市民にも根付いたかもしれないが、その方法が間違っている可能性もある。かと言って「新常識」が数年後とかもっと先にはウソになっているかもしれないのだから難しい。
読了日:12月6日 著者:田中淳夫





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血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

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