まだ見てないお前らのために『閣下で三国統一』の面白さを解説してみるよ

いきなり言い訳から入りますが、「閣下で三国統一」の面白さに驚嘆して解説するエントリを書くぞ! と宣言してからそうとう時間が経っちゃいました。
えーとですね、僕は動画の紹介エントリ書くときってその動画見ながら書いてるわけですよ。動画見ながらコメントでは書ききれないような感想をまとめる作業ってとっても楽しいものなんだけど……それやるには閣下三国志長すぎるんだよーーーー!! 毎週書いてた某サイトの人とかどんだけ時間かけてんのかと問いつめたい。


ということであまりにも完璧な言い訳終了。では本編いきます。

「閣下で三国統一」とは

三国志10』のゲームプレイ動画+アイマスキャラ+オリジナルストーリーの紙芝居によって作られた二次創作で、主人公は天海春香(通称「閣下」)。今となってはニコニコアイマス動画の一大ジャンルとなったiM@S架空戦記シリーズの先駆けである。現在のところ26話でとりあえず第一部完となっているが、12月上旬から第2部が開始予定。


その存在を知った当初は「アイマスもそんなとこまで進出したのか」と感慨深い気持ちになりつつも、まあ地味な存在だろうと軽く見てました。が、いつのまにかあれよあれよというまに絶大な人気をニコニコ動画アイマスコミュニティで獲得していたようで。マイリストをざっと見て貰えばわかるけど、26話もあるのに本編は1話につきだいたい3万再生。週刊ランキングでは紹介されないけど、なんと除外対象でなかったら毎週ランク入りしているのです。「閣下で三国統一したいなぁとティン!ときたので実際にやってみる。」と1話をはじめた当初は、作者の呂凱P自身もまさかここまで発展するとは思いもしなかったんじゃないかな。
僕がここまで話題になったものを見てないのはもはやアイマス廃人失格だなーと思いたち、ようやくチェックしたのが20話くらいたまってる時点だったかな。驚きましたねえ。これがまあちょっと信じられないくらい面白くって見始めたらやめられないとまらない。いやほんと、アイマスMAD好きでこれ見てないのはもったいなすぎるって! と後追い組のくせにえらそうに言いたくなります。えー、まだ見てないの? おっくれってるー!


ここまででよっしゃ見てやろうじゃないかと思った方は、とりあえず試しに「紙芝居でオリジナルストーリーを展開する」という試みをはじめた5話からの試聴をお薦めします。閣下三国志の特異性が目に見えてはっきりしてくるのはそこからなので。これ以降の話には解説の都合上仲間になるキャラや戦う相手など、どうしても多少のネタバレが含まれるので、ストーリーの事前情報を一切知りたくない方はすぐに動画へ飛んで下さい。

アイマスネタが面白い

さて、すごいすごいばっかり書いてても伝わらないので、ではその面白さは一体なんなのか? ということを順番に考えていきたいと思います。


まず第一にアイマスキャラを使うことによる強みです。当たり前の話ですが、ニコニコ内部でやるならこれは圧倒的に有利。ゲームそのもので設定されたキャラクターの上に、いまとなっては万を数える動画によって培われてきたイメージが乗っかって、それをおそらく数十万*1に届こうかというアイマスMADファンが共有しているわけです。二次創作でこれを利用しない手はない。
定番のアイマスネタを上手く絡めてくれるだけで、アイマスMADファンなら楽しく見れちゃうんだよね。主人公を春香にしたことで「愚民」という強力なネタ師集団を味方にすることもできるし*2

第一話。この時点で愚民ゲット。


魅力値は乳の大きさ。後のほうになるとだんだん開き直ってきて、女性キャラはステータス表記が「魅力」じゃなくて「おっぱい」と表示されたりして。当然「あずささん最強」とか「千早涙目w」とか言われるわけですな。



在野の武将に美希登場。このようにアイマスキャラが初登場しただけで大盛り上がり。



当然雪歩は穴を掘る。ミスミスミスタードリドリラー。ちなみに戦略パートにおいても「落とし穴」が重要だったりする。

死のバミューダトライアングル
 雲南攻め前編にて初めて出た閣下軍の伝家の宝刀。
 三人の武将を三角形に配置し、その中央に落とし穴を設置する事で完成する。
 ちなみに中央の落とし穴は雪歩ではなく呂凱が掘る。
 成都防衛戦編では法正の知略と新たに参戦した武将によって、更に進化した姿を見せた。
――iM@S架空戦記シリーズ補完wiki 閣下で三国統一用語集

↑の用語集は面白いので、閣下三国志好きな人は是非見に行ってみましょう。



小鳥さんによる勢力紹介。毎週のように週刊アイマスで小鳥さんの解説見てるアイマス廃人はもうこれだけでうれしいんですよ。


ニコニコのアイマス界隈強し! しかしまあ、このへんの魅力については見る前からある程度想像できていた部分ではあるんですよね。アイマスに絡めてネタ動画作るなら当然ここらへんはおさえてくるだろうと。『閣下で三国統一』が凄いのは、それだけでは終わらないところ。

三国志のキャラが面白い

で、見る前は全く想像してなくて最も驚かされた部分がここです。「三国志10」を題材にしてるんだから、当然三国志の武将もたくさん出てくるんだけど……これがアイマスキャラと同じくらい魅力的に描かれてるんですよ! てっきり武将の登場率は最小限にしてアイマスキャラを中心に物語を進めると思ってました。


おっと、ここで「なんだ、三国志興味無いからどうでもいいや」って思った方はちょっと待った。これはけして三国志マニアを取り込むだけの面白さで終わってません。
ええとですね、アイマスキャラの魅力というのはある程度完成してるわけです。特に大幅にいじらずとも上記で書いたようにニコニコ内部で発展した豊富なネタで溢れていて、それは少なくともこの動画を試聴するような層には共有されている。それに対して、三国志キャラのイメージというものはよほど有名な武将以外はそれほど共有されていない。絶対数で言えば三国志ファンのほうが圧倒的に多いでしょうが、「ニコニコ内部でアイマス動画を見る層」にとってはそういう比率になってるはず。
だからアイマスキャラのイメージはそのまま使うことが出来、作者の呂凱Pは他の武将のキャラ立てに全力を傾けることが出来るわけです。そう、閣下三国志という物語において「キャラが立っていく」のはアイマスキャラではなく、三国志の武将のほうなんですよ! この逆転現象!


真面目な話、閣下三国志がこれほどの人気を獲得したのはこの「キャラ立ての上手さ」が一番の要因だと思う。それは単純に呂凱P自身のキャラ立てが上手いだけじゃなくて、コメントのノリによって完成するもの。呂凱Pの何が上手いって、その方向性を誘導するのが上手かったんじゃないかなあと。
アイマス界隈でそれほど共有されていないだけで、三国志のキャラには多数のフィクションで語られてきた豊富なイメージというバックボーンがある。呂凱Pはそれをフル活用して登場武将の性格付けを行い、三国志好き、原作ゲーム好きはそれにのってうんちくコメントを付けて、全く三国志に興味無い視聴者をも巻き込んでいくのです。

例えばこれは張遼初登場時の盛り上がり。アイマスキャラの初登場時に勝るとも劣らないほどの反応です。そして、ストーリーと一緒にコメントを見ていればこの張遼という武将がどれくらい有名な武将か、南蛮*3なんかに唐突に仕官に現れるのがいかに奇跡的なことなのかが、三国志知らない人でも原作ゲームやってない人でもわかるんですね。元ネタを知らなくても一緒に盛り上がれてしまう。
僕も小説や漫画で出てくるので名前くらいは知ってましたけど、原典は読んでないし詳しい武将の特徴なんかも知らないんだけど、閣下三国志見るだけでずいぶん詳しくなってしまいました。

で、さっそくアイマスキャラと絡ませると。この初登場時の絡みだけで張遼は「軽いノリのアイマスキャラに翻弄される真面目な武人」という立ち位置になり、以降の戦闘のエースになると共に、シリアスシーンを演出するには欠かせないキャラクターとして成長していきます。ファンの間でも物議を醸した関羽の助命嘆願は『閣下で三国統一』の中でも屈指の名シーン。


さらにおもしろいことに、作者が示した方向性と視聴者のコメントのノリが妙な化学反応を起こし、元のイメージからは想像の付かないキャラクターができあがったりもする。
その例でわかりやすいのは馬超あたりになりますね。馬超というのはあまり詳しくないひとでも名前くらいは聞いたことがあるくらい三国志では有名なキャラで、三国志中もっとも強いとされる5虎将の一人なんだよ、ということが仲間になった瞬間のうんちくコメントで確認できます。ここまでは張遼のときと同じ流れなんですが……

15話の武都攻め編。敵の逃げ道をふさぐために門を守護する役をやってる馬超に「暇なんだが」と言わせる呂凱P。視聴者大受け。

それに乗って悪のりしたコメント職人が、UNOとか麻雀とかやらせる。しかも戦闘のクライマックスの重要なシーンで。閣下三国志ではこんなストーリーとコメントのコラボレーションが多数見受けられます。これは馬超が天海軍に参加した直後の戦闘なんですが、これでさっそく「ちょっととぼけたキャラ」というイメージが馬超に付くわけですよ。
そして、次の話でそれはさらに発展して、

馬鹿超、爆誕
戦乱で故郷を追い出されてきたという馬超を心配して、家族の安否を聞いた真に対して「忘れてた」の返答後、大あわてで家族を迎えにいく馬超。ここに至って方向性は完全に定まりました。おバカキャラ決定。これ以降馬超は強力なオチ担当として素晴らしい人材に成長するのです。いや、戦闘要因としては元から素晴らしいのだけど。

もう出てきただけでウケる馬鹿馬超。なんておいしいキャラなんだ。

コメントが面白い

↑でも既に触れましたが、『閣下で三国統一』ではノリのいいネタコメント、職人芸、地味な武将や小ネタをフォローしたうんちくコメント、盛り上がる箇所でのお約束な弾幕などなど、ニコニコならではの楽しいコメント芸を多数見ることができます。
特に目立つのは下コメでの解説の充実で、ゲームシステム解説、三国志ネタ解説、閣下で三国統一にて発生したネタの解説など、やたらめったら詳しい解説がほぼ全ての動画についています。この下コメを動画止めてじっくり読みつつ、たまに職人が暴走してネタに走ったりするのを眺めるのも閣下三国志の大きな楽しみのひとつ。
ただ困ったことに一話につき5〜15分くらいの動画なのにコメント読んでると恐ろしいほど時間を食われます。コメント読まなくても楽しめるんだけど、面白いコメント多いから読まずにはいられない! うれしいけど困る!

閣下三国志の鬨の声は「ごまえー!」。戦闘の決着が付く場面や盛り上がる場面などはだいたい「ごまえー!」弾幕で画面が埋まります。





神砂嵐コメ。これが大いにウケて、解説職人も便乗して攻撃内容の解説コメに導入。

嘘を書くな、嘘を(笑)。




後生の歴史家に編纂された歴史書風の定番解説コメ「天海拓伝」。銀英伝のノリですな。こちらは成都防衛戦編についたもの。成都防衛戦編は傑作コメントが多くて面白い。
マイメモリーhttp://www.nicovideo.jp/watch/1195318142

展開が面白い

うっかり忘れがちなんですがこれはゲームのプレイ動画を元に作られている物語なので、いきなり超展開が発生したりします。既に触れた張遼馬超の唐突な加入もその一つだし、いきなり閣下が病気で倒れたり、劉備と友好を結ぼうとしたら留守を狙って攻められたり。
まあなんせ一番最初の戦闘からしてこれですから。

いまでも記憶に残る真が勝手に一騎打ち→HPほぼゼロからの逆転劇という神展開。こんなもん生のプレイ動画で狙っても出来るこっちゃありません。やはり人気のある作品には何かが宿るものなのか……。


この一騎打ちにはじまり、張遼の助命嘆願、そしてなんといっても第一部最終話の「ふざけるな」「なにこれ」「来ちゃった」などなど、神展開は枚挙に暇がないのですが……いくら最初にネタバレ警告を出してるとはいえ、「まだ見てないお前らのために」と銘打っておいてそこまでネタバレするのはさすがにアレなので自重しておきます。

閣下で三国統一はニコニコの縮図

さて、長々と解説をしているといつまで経っても終わらないのでそろそろまとめに入りましょう。
ここまでで語ってきたそれぞれの要素は単独のものではありません。全てが絡み合って『閣下で三国統一』という物語を作っているのです。動画の中でキャラクターに新たな魅力が発見され、プレイ動画ならではの神展開が起こり、コメント職人がそれを加速させる。そして僕らのような一視聴者のコメントが大量につく。それら全てが作者にフィードバックされることで、作品そのものの内容にもきっと影響が出ているはず。そうして、生きている物語が作られていく。


初めて見たとき、この『閣下で三国統一』の見せてくれる可能性って何かと似ているよなあと感じたんですが、考えてみればこれってまさにアイマスMAD界で日々作られている「物語」そのもので、もっと言えばニコニコの面白さそのものなんだよね。
『閣下で三国統一』はアイマスMAD界の縮図であり、ニコニコ動画の縮図でもある。このニコニコ動画が作る面白さそのものといってもいい傑作をニコ中でアイマス廃人なのにまだ見てない人がたくさんいるかと思うと、なんてもったいない! と思わずにはいられません。
以前の僕と同じように存在は知ってるけど今さら見るのはなあ、MADPVは好きだけど別に二次創作はなー……とか思ってる人はまだまだたくさんいると思う。そんな人に言いたい。一見違うもののようだけど、閣下三国志の面白さは、アイマスMADの面白さだよ。


だから見ろ。いいから見ろ。確かに長いけど、時間なんか気にするな! 心から面白いと思ったらどうせ無理にでもひねり出すもんだから。思い切って踏み出した先には、きっとあなたの想像以上のニコニコ空間が広がっているはず。

*1:くらいは軽くいるよなあ、たぶん。

*2:http://d.hatena.ne.jp/sikii_j/20071114/p1

*3:閣下は南蛮で旗揚げしてます