退職金の返還請求は可能か



 この記事に「横浜市教育委員会は、在職期間中に犯行に及んでいたことから、高島容疑者の退職金およそ3000万円について返還を求めていく考え」とあるが、退職した人に対して返還の請求は可能であるのか、『問題社員対応マニュアル』(労働調査会・2015年2/28刊)で調べてみる。
 とうぜん民間の企業の場合について解説がある。就業規則に、「退職後に懲戒解雇に相当する事由が判明した場合には、退職金の全部または一部を返還しなければならない」旨の規定がある場合には、「会社は元社員に対し支給済みの退職金の返還を請求すること」ができる。ただしこの場合でも、元社員の行為が「就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するのみならず」、「永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な背信行為」である必要があるとのことである。
 このような返還規定がない場合は、「一旦支給した退職金の返還を求める法律上の根拠」はないので、「原則として支給済みの退職金の返還を請求すること」はできないことになる。しかし、個別の事案に応じて、「懲戒事由が存在し退職金を受ける地位に無かったにもかかわらず退職金の支給を受けたことが不当利益に該当しないか(福井新聞社事件・福井地裁判昭和62・6・19の判例あり)」、対応を検討すべきとしている。
 今回の事案は、横浜市の公務員であるから地方公務員法およびそれに基づく横浜市職員服務規程に従っての対応となり、教育職員として、かつ学校教育の経営・管理責任者としての地位にふさわしい「勤続の功」を認められるかどうかが問われるだろう。同容疑者の対応によっては、法的トラブルに発展する可能性はあるのか、門外漢(野次馬?)には、わかりかねるのである。


⦅写真は、東京台東区下町O公園に咲く桜・関山(かんざん)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。コンパクトデジカメ使用。⦆