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中西理の下北沢通信(旧・大阪日記) このページをアンテナに追加 RSSフィード

2015-12-31 2015年演劇ベストアクト

[]2015年演劇ベストアクト

 年末恒例の2015年演劇ベストアクト*1 *2 *3 *4 *5 *6 *7 *8 *9 *10 *11 を掲載することにしたい。さて、皆さんの今年のベストアクトはどうでしたか。今回もコメントなどを書いてもらえると嬉しい。

2015年演劇ベストアクト

1,青年団若手自主企画、綾門企画「汗と涙の結晶を破壊」小竹向原アトリエ春風舎)

2,本広克行×平田オリザ「幕が上がる」「転校生Zeppブルーシアター)

3,青年団リンク ホエイ「雲の脂」小竹向原アトリエ春風舎)

4,木ノ下歌舞伎「心中天の網島」こまばアゴラ劇場

5,悪い芝居「キスインヘル」赤坂RED・THEATER)

6,サンプル「離陸」早稲田早稲田どらま館)

7,Theatres des Annales「後期ヴィトゲンシュタインリーディング」こまばアゴラ劇場

8,地点「三人姉妹」横浜・KAAT)

9,飴屋法水ブルーシート」(フェスティバルトーキョー豊島区旧第十中学校グラウンド

10,森山未來死刑執行中脱獄進行中天王洲銀河劇場

 今年も豊作な1年。10本に絞り込むのは難しかったが、今後への期待を含め、青年団演出部の若き俊英、綾門優季の「汗と涙の結晶を破壊」をベスト1に選んだ。多田淳之介、前田司郎、松井周、岩井秀人ら次々と現代演劇の新たな才能を輩出した青年団周辺で次の世代を担うアンファンテリブルとして驚くべき才能の出現を感じさせたのが綾門優季青年団リンク キュイ)であった。

 「汗と涙の結晶を破壊」はアートコンペの授賞式の場面から始まる。「才能があるとかないとかとを安易に評価するないでほしい。私はちゃんと賞を取るために戦略的に研究しどうしたらいいかを分析して、努力して作品を作っているんだ」と独白する主人公が登場。「才能」という言葉に代表されるような芸術神話性を冷酷に解体してみせる。青年団で先輩格にあたる柴幸男は岸田戯曲賞を受賞した「わが星」で物語の流れではなく作中で使われるラップ音楽の構造と作品世界の構造を相互に呼応するように戯曲を組み立て、それまでにまったく前例がないような構成で驚かせたが、綾門の作劇もその延長線上にある。

 「汗と涙の結晶を破壊」の登場人物は4つの方位に象徴される東、西、南、北と中心を示す中(あたる)の5人のアーティスト。その周囲にさらに何人かの人物が配置されるが、すべての人物が東西南北中を演じる5人の俳優によって演じられる。中はコンペでグランプリを受賞する「天才芸術家」、南はそれに匹敵する才能の持ち主でコンペで2位入選するが審査委委員長である中の父親と対立して、賞を辞退する破滅型の芸術家である。さらにコンペには入賞できないが後にエッセイストとして別の才能を開花させる西、自分の才能のなさに絶望して自殺する北。そして主役格の東は冒頭にも書いたように海外留学の権利が獲得できる2位以内入賞を狙って作品創作しコンペに応募するが、結局とどかない3位となったことを嘆くが南の棄権により、2位の座を手中に収める。

 この5人を作者は「キャラ」として構築して、作品に配置する。その置き方は伝統的に演劇表現が造形してきた人間のリアリティーを感じさせるものではない。ゲームアニメ漫画キャラ的なものといっていい。それが綾門の作劇の特徴である。東にとっては芸術作品を創作する行為は特定のルール(レギュレーション)のもとでゲームを勝ち抜くのとほぼ同義だ。それが1人称の独白で語られるが、この作品が面白いのはそこで語られる内容自体が自己言及的でこの「汗と涙の結晶を破壊」という作品も同様の創作的アプローチによって設計され、作られたものではないのかと感じさせるところである。

 綾門は今年、無隣館若手自主企画 vol.5 ショーケース企画 3 youths on the sandで上演した「不眠普及」でせんだい短編戯曲賞大賞を受賞。2013年にも「止まらない子供たちが轢かれてゆく」で同戯曲賞を受賞しており異例の2回目の受賞となった。残念ながら今回の岸田戯曲賞では最終候補に残らなかったが、2015年は平田オリザが「東京ノート」で岸田戯曲賞を受賞して20年、岡田利規が「三月の5日間」で同賞を受賞してから10年となる年で新たな才能が必ずしも周期的に登場する根拠はないが、実はひそかに「この次」と睨んでいるのが綾門である。評価は分かれるだろうが今年最大の問題作であったことは間違いない。

 青年団では今年から演出部に所属することになった山田百次(劇団野の上・青年団リンク ホエイ)の活躍も目立った。「雲の脂」は地方にある神社が舞台だ。江戸末期における蝦夷地での津軽藩士の悲劇津軽方言を生かした会話劇で「珈琲法要」、東京舞台東京青森の言葉を逆転させた「東京アレルギー」などこれまでの山田作品は津軽方言など地域の言葉を生かした作品が多かったがこの「雲の脂」ではそれを捨て、どこだという場所は特定されないが人里離れた田舎町の神社に起こるなんとも不可思議な出来事を描き出した。ただ、共通点はあってそれは作品がいずれも中央と対比されるような形で放置されたような周縁の出来事を描きだしていることでこの「雲の脂」でも忘れられた神社、その敷地にある廃物が捨てられいる池。いろんな意味が汲みとれそうな寓話的なエピソードを連ねて現代日本を戯画化していく。

15年にもっとも注目していたのが、映画監督本広克行平田オリザによる「幕が上がる」プロジェクトである。人気アイドルももいろクローバーZが主演した映画「幕が上がる」と舞台「幕が上がる」に加えて、21人の若手女優をオーディションにより募集し「転校生」も上演した。