復活歌〜熊本地震復興に寄せて〜

今月12日、京都清水寺で森貫主(かんす)みずから、縦1.5横1.3メートルの和紙に「今年の漢字」を揮毫(きごう)する―、その模様がテレビで放映されました。年末の風物詩でもあります。
今年は『北』という字で、主催者の日本漢字能力検定協会によると、全国から寄せられた(応募)中から、「選んだ理由」で多かったのは“北朝鮮による脅威”、次いで“九州北部豪雨による被害”だとのことです。
九州北部豪雨は、今年7月5日から6日にかけて、福岡県と大分県を中心とする九州北部で発生した集中豪雨です。福岡県で死者34人、行方不明4人、大分県で死者4人にのぼる被害を出しました。
この地域より南になりますが、熊本県大分県で昨年4月14日以降に相次いで発生した熊本地震では、関連死も合わせた死者247人が犠牲となりました。2年続きで起きた災害に心を痛めるのは、関係者ばかりではありません。
話は少しさかのぼって、6月11日、この日放映のNHKテレビ、Eテレクラシック音楽館」の最後の残り25分は『音楽の力で復興を〜熊本地震・1年〜』と題した番組でした。内容は、「2017年4月14日、熊本県立劇場コンサートホールで<熊本地震復興祈念 マーラー交響曲第2番「復活」演奏会>が開催されました。指揮は、熊本と縁が深い山下一史。日本全国から駆けつけた演奏家たち、地元の合唱団、そして満員のお客様、全国の祈りが音楽となり、人々の心に残るコンサートとなりました」と、本コンサートの模様のほか、指揮者のインタビューも紹介された短いレポートでした。
このコンサートは、全国のコミュニティチャンネルで生中継となったようです。
私は、この模様のDVDあるいはCDがあれば聴いてみたいと、都内に出かけた展覧会の帰りに、偶然に見つけた熊本県のアンテナショップに立ち寄って、問い合わせてみました。が、「販売されていません」と素気ない返事で、なおも店内をくまなく探してもあるはずがないのでした。
「復活せよ。復活せよ。汝(なんじ)許されるであろう」と歌う、あの感動的な賛歌『復活』を、私は、今でも復興コンサート版で、ぜひとも聞いてみたいと思っています。
熊本県といえば、学生の頃、春の部活「西表島縦走ワンデリング」の帰り途、かの地の大学に入った友人を訪ねたことがありました。あの、満開の花咲く熊本城の石垣も天守閣も大きく崩れて、ご存知のとおりかろうじて立っているような状態にまで荒れ果ててしまい、現在、震災3年後の完了を目指して修復工事が急ピッチで進められているそうです。
火の国や 稲刈る人の 復活歌
肥後の国は、肥の国、そして火の国。だが、農耕地の復興は途上にあって、「(地震で大きな被害に遭った南阿蘇村では)水稲や園芸など農業はほとんどが再開できていない。復興の道のりは見えない」(10月18日付け日本農業新聞)との記事も見られます。
最後に、12月10日の「朝日俳壇」から、一句
(こがらし)や あなたが眠るまで歌ふ(寺崎久美子、熊本市
木枯らしの夜、聞こえてくるのは子守唄でしょうか、賛美歌でしょうか、それともご詠歌のたぐいでしょうか。「あなた」は眠れないすべての人。「眠るまで歌う」のは、母親でしょうか、神でしょうか、それとも仏でしょうか・・・、広く“慈愛に満ちた存在”に違いないと、読み手がおのずと確信するような名句だと思います。
(理事長 矢部 薫)