「臨機応答・変問自在」 森博嗣
いかにもで、ちょっと恥ずかしいですが森博嗣は好きな作家のひとりです。文庫で読んでいるのでまだVシリーズの9作目までしか読んでいないのですが、10作目も楽しみしています。他にも文庫落ちした作品は全部買っていると思います。
また作者自身の考え方や生活様式などにも興味や多少の影響は受けていると思います。就職活動中の選考面接用にも尊敬する人物として森博嗣を用意していたぐらいです。まあ、これは他に適当な人物がいなかったというのもあるんですが。
この本は、そんな森博嗣に対して作品だけではなく、作者のパーソナルな部分に対しても興味があるようなファンのための本でしょう。最初の本は国立N大学工学部建築学科助教授である作者が授業中に生徒から集めた質問とその返答を集めたQ&A集です。授業に関係ある質問から、関係ない身近な質問、または人生相談のようなものまで様々な質問が収録されています。ファン以外、単純に言うと森博嗣の考え方やスタイルに共感しない人には、面白くないどころか、受け付けないような本でしょう。
森博嗣のファンではあるのですが、今までこういった小説以外の本に手を出すことに関しては、抵抗がありました。確かに森博嗣の考え方や生活様式に対する憧れはあるのですが、影響を受けすぎて心酔するのではないかという心配があったからです。
この本の一番のポイントは、質問する際には、正しい日本語、明確な質問をする必要があるということです。これは、私の研究室の先生も似たようなことを言っていました。曖昧な定義や解釈を相手に委ねて、自分の考えが相手に伝わる事を期待してはいけない、ということです。日本語の利点である曖昧さを否定する必要はないのでしょうが、正しく自分の意図する事を他人に伝えるためには、正確な文章が求められるということです。話し言葉と書き言葉の違いでもあると思います。ネット上で文章を書く際の注意点でもありますね。
なかなか面白かったです。基本的にQ&Aの羅列なので、いつでも中断できることも電車の中で読むのに適していました。よくある質問に対して、定型文的な回答を反射的にしていないのが、森博嗣らしさですね。例えば、友人とは何か?仕事とはなにか?などの質問です。当たり前というか常識というもののように考えられている、よくある話をしないのは、つまらない人間にならないためには大切な要素かもしれません。
以下は、印象的だった森博嗣の言葉です。本自体は既に返却してしまったので、原文のままではないのですが、メモを参考に書いてみました。
自分に出来ないことを批判してもいいが、説得力がない
これは、私も日頃考えていたことですが明確に言語化できなかったことです。野球などのスポーツの批評や先生やリーダーに対する批判なんかにも当てはまると思います。納得です。自分に出来ないことでも批判はしてもいいんですよね。説得力がないだけというわけです。
読書の速さは食事の速さのようなもの
これはおもしろい喩えです。本をよく読む人は、自分の読書スピードを意識した覚えがあるのではないでしょうか。別に速く読むことはそんなに重要ではないということです。食事に、単なるカロリー摂取のための食事と、楽しみのための食事があるように、読書にも、単なる情報摂取のための読書と、楽しみのための読書があるわけです。味わって食べることも重要ですね。
自分の考えや感情を根拠に相手に何かを強いるのは間違い
異質なものを許容すること、感情に支配されないこと、両方とも重要なことです。
努力出来ることは才能
才能という言葉で逃げるのも格好悪いとは思いますが、その通りだと思います。私には足りない才能です。