幸せを感じるとき

 読まなくてはいけない本やマンガが積まれていて、見なくてはいけないアニメがHDに溜まっている状態って非常に幸せな状態なのかもしれません。あとは、他にやらなくてはいけないことがなくて、それらを消化する時間さえあれば完璧です。
 卒論を書かなくてはいけないので、マンガの感想を書きました。頑張った。

「もっけ」(5) 熊倉隆敏

 妖怪を見ることができる姉の静流と、妖怪に憑かれやすい妹の瑞生の生活を描いたマンガ。妖怪は、上手く付き合って共存していくべき存在として描かれています。
 単なるお気楽な話ではないので、気軽に読むことができなかったりします。姉妹の平和な日常生活のなかに、時折別れの雰囲気が影を落とします。妖怪が身近な存在ということで、現世から少し浮いた世界観を形成しているのかもしれません。瑞生の修学旅行のエピソードは、これから先が気になる話でした。上手いマンガです。

「それでも町は廻っている」(1) 石黒正数

 商店街にあるメイド喫茶を舞台に、女子高生のドジメイドがどたばた活躍するギャグマンガ
 メイド喫茶の必然性がまるでありません。あとがきで作者も書いていますが、メイドに関するこだわりはまったくないようです。そのため、萌え要素は極めて薄くなっていますが、私はその方がありがたいです。
 序盤は、無理矢理にメイド喫茶を舞台にしているという感じでいまいちだったのですが、中盤ぐらいからメイド喫茶に縛られなくなったのか、自由にやっていて面白くなってきました。具体的には、数学教師が持ち込んだ絵の話ぐらいからです。作者がミステリ好きなようで、微妙にミステリ要素が入っていてストレートじゃない捻くれた展開がいいです。キャラクタが普通じゃなくなったというか、こなれて作者の味が発揮されてきたという感じがしました。おかげで、ますます萌えからは遠くなりましたが。
 これは2巻も買います。こういうマンガを連載しているのがアワーズぽくて好きです。

「怪物王女」(1) 光永康則

 タイトルどおり怪物たちの王女と、その下僕に選ばれた主人公の少年が狼男や透明人間と戦う話。高飛車のゴスロリ王女や、ロリメイド、巨乳メイド、ケモノ娘などあざとく狙ったキャラばかりで意外性はあまりないですが、お決まりのアイテムを上手く組み合わせて手堅い話づくりをしています。
 単純に読んでいて楽しいですし、予想以上に面白かったです。この手の雑誌では、貴重な戦力になると思います。ただ、ちょっとスプラッターな描写があるのでそういうのが苦手な人はダメかもしれません。

「ぼくと未来屋の夏」(1) はやみねかおる・武本糸会

 小学6年生の主人公が夏休みの前日に、100円で未来を売ってくれるという「未来屋」に出会ったところから始まる話。原作者のはやみねかおるは、児童文学においてジュヴナイル・ミステリというジャンルで活躍されている方だそうです。
 小学生らしい主人公の夏休みに時々加わるミステリ要素が絶妙で原作の上手さを感じます。確かに、児童文学ぽいですが、子供だましというわけでもなく、うまくまとめています。こういう話は需要がありそうです。絵の雰囲気もよく、キャラクタも可愛いくて、さわやかな読後感でした。田舎の町に伝わる神隠しの森という謎がメインになるようです。まあ、個人的には少しさわやかすぎるという感じもするので、次巻を買うかはどうかは半々ぐらいです。でも出来はいいです。

「かみちゅ!」(1) 鳴子ハナハル・ベサメムーチョ

 ちょっと昔のちょっと田舎を舞台に、突然神様になってしまった気弱な中学生の女の子・一橋ゆりえが神通力を持ちつつも友達と一緒に普通の女子中学生の生活を送る話。
 アニメ版を先に見てしまっていたので、どうにもそちらと比較してしまいます。マンガとアニメが両方あると、先に触れた方のメディアに引っ張られてしまうわけです。単純にマンガだけ見れば、キャラも可愛いし話も悪くないのですが、声がないことに寂しさを覚えてしまいます。DVDの方には興味がありますが、マンガの2巻は買わないかもしれません。

「低俗霊DAYDREAM」(8) 目黒三吉

 SMの女王様で口寄屋でもある深小姫が主人公の話。この巻では、前巻に引き続き自殺サイトをめぐるエピソードともう1つ小エピソードが収録されています。
 なんか前巻までの話を微妙に忘れていました。ちょっと子供だまし的な設定が強くて、本気になれないというか、気恥ずかしさを覚えてしまいます。霊に絡めたトラウマとかメンヘルっていうのが、ひと昔前って感じです。ちょっと惰性で買っている感はあります。
 まあ、自殺サイトのエピソードも盛り上がっているし、そろそろクライマックスなのでしょうか。

「僕の小規模な失敗」福満しげゆき

 作者の高校時代からの人生を振り返った自伝的マンガ。小規模な失敗といいつつ、小規模の積み重ねでいつの間にやら自分の理想から大きく外れていったという感じでしょうか。いろいろあるけれど最終的に静かに終わるのが印象的です。
 作者は、内気で要領よくできないことが多いのですが、変なところで積極的だったりもします。ホームレスと談笑していたり、急にあまり親しくない友達を誘って家を出て暮らしたり、柔道部を作ったり、ボクシングジムに通ったりと、私の周りにいない不思議な人です。外に出るのが苦痛だという描写も、ほとんどどありませんし引き篭もりの要素はかなり少ないのでしょう。オタク描写もあまりありません。
 すぐに悩んだり、何かをした後で後悔したり、人と上手く付き合えないけれど人恋しくなったりするような思考回路は、私も似たところがあるのですが、やっぱり根本的な部分で違う部分が多いです。たぶん身近にいても仲良くなることはない気がします。交通事故にあっている時でも、ボンネットに乗ったことを恥ずかしがっている所なんかには、共感を覚えますが。
 そういえば、作中に中島らもに憧れて酒を飲むシーンがあるのですが、似たような事を私もやったことがあります。どの本かは忘れましたが、スクワットをしながら飲むと安い酒でも効率よく酔えるという文章を読んで、私も夜中に一生懸命スクワットをしながら酒を飲んでました。確かに効率よく酔えた気がしますが、完全にバカです。恥ずかしいです。
 あと、この人の描く女の子がなんか可愛くて好きです。美人ばかり描くというわけではないのですが、魅力を感じます。雑誌では結構読んでいる気がするのですが、他の単行本を買っていないので、また買いたいです。

「晴れゆく空」谷口ジロー

 交通事故により死亡したサラリーマンの魂が、事故の相手で一命を取り止めた男子高校生の体に宿り、残された家族に思いを伝えようとする話。家族モノのヒューマンドラマと同時に男子高校生の成長も描いています。
 設定自体には意外性がなく地味なんですが、そこいらの普通の漫画家には真似できないような、実力のあるベテランだからこそ描ける重厚で非常に上手いストーリー展開です。結末を予想できるからこそ、読んでいて辛かったです。私の好み的には、少し外れるのですが、まとめて読むとよくできた話だと思いました。

「村上もとか叙情傑作選 SNOW」 村上もとか

 村上もとかの短編集。帯には叙情傑作選とありますが、個人的には少し物足りなかったです。確かにいい話なんだろうけど、予定調和的な話ばかりで短編に必須の意外性がなかったです。短編の人じゃないのかもしれません。
 ちょっとネタバレになりますが、異なった時空の連結というテーマが多いです。いい話としては飽きてしまいました。そういえば「JIN」なんかは、最近その辺りのテーマがおざなりになっている気がします。
 初出一覧:『SNOW』ビックコミックオリジナル増刊1993年8月号、『あなたを忘れないビックコミック1998年12月25日号、『ピエタ』JUDY1999年11月号、『虹の町』週刊ヤングサンデー1999年16号、『紅蓮の剣 週刊少年サンデー1999年10月16日、13日号。