雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

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ギブソン (ミステリ・フロンティア)

ギブソン (ミステリ・フロンティア)

「なにもかもが信じられなくなったとき、呑むのに相応しいものがいいな」

 上司をゴルフ場まで送り届けるため、主人公は彼の自宅まで迎えにゆく。しかし、上司は30分以上も前に家を出ていると彼の息子は言う。果たして上司の行方は――?
 出だしから何となく佐藤正午『ジャンプ』を想像していたのだが、いやいや、凄まじかった。デコボコしているスーパーボールのように、ひたすら読者の期待を裏切る方へ、予想だにしない方向へ跳躍するのだ。次々と明かされてはひっくり返される真相は、驚愕を通り越して、唖然の領域にある。そしてラスト、これ以上はないという驚きの、と言うかある種の呆れでさえ結末に至り、主人公と読者の心は完全に一致する「もう、なにもかもが信じられない」。凄かったなあ。

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砂楼に登りし者たち (ミステリ・フロンティア)

砂楼に登りし者たち (ミステリ・フロンティア)

 戦国時代を舞台に、歴史とミステリを融合させた四編の連作短編集。
 残念ながら、今ひとつの出来。四人の鎧兜で素性を完全に隠した側近に守られる中、姫が消失するという最初の一編だけ面白かったが、後は瑕疵が多く、また探偵役と助手役だけが妙にキャラクタライズされているのも不満。個人的には三編目「大和幻争伝」には少し笑ってしまった。忍者と僧兵による戦いの最中に使われた忍術や幻術をトリックに、探偵役がそれを暴くという形式を取っているのだが、いやあ、素敵な伝奇だった。

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戻り川心中 (光文社文庫)

戻り川心中 (光文社文庫)

 果たして人情は、人を、殺人に至らしめるのか。
 読み手の心すら切り裂きかねない、極上の小説を読んでしまった。
花葬シリーズ」と呼ばれる八篇の短編小説が収録された短編集。舞台や登場人物などが共通しているわけではなく、ミステリと恋愛というテーマと、どの編にもガジェットとして菊や菖蒲などの花が使われている点が共通している。30代以上のミステリ読みがベスト10などを挙げるとするならば、本書は必ずや上位にランクインするだろう。聞いて回ったわけではないので、推測ではあるが、その筋の人の言によると、まず間違いないだろうとのこと。聞きしに勝る、傑作であった。
 特にどれが素晴らしいとは挙げづらい。実に優劣がつけにくいのだ。よしんば面白くない作品があったとしても、著者が連城三紀彦でなければ、傑作と言えてしまうのだ。だが、それでも敢えて、敢えて一作だけ挙げるとすれば「花緋文字」だろう。あまりに凄惨、あまりに凄絶である。

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ラインの虜囚 (ミステリーランド)

ラインの虜囚 (ミステリーランド)

 田中芳樹が面白い! 信じられない、こんなにも面白い小説を書く人だったなんて。『創竜伝』と『薬師寺涼子の怪奇事件簿』を読んで「はあ、こういうのを書く人なのね」と思っていた。完全に誤解。『銀河英雄伝説』も『アルスラーン戦記』も読むつもりはなかったが、食わず嫌い以外の何物でもなかったと気づいた。それほどまでに本書は傑作! 素晴らしい!! だって、もう読んでいて大興奮。勇気以外なにも持ち合わせない少女が、祖父に認められたい一心で頑張るのを、それぞれ特徴ある大の大人三人が守りながら一緒に旅をし、お互いに成長してゆくのだよ? ちょっと、もうどうすればいいの。本書を最高傑作級と呼ばずして何を最高傑作級と呼ぶのだろう。ああ、他のシリーズも読もう。絶対に読もう。