雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

886『永遠のフローズンチョコレート』

永遠のフローズンチョコレート (ファミ通文庫)

永遠のフローズンチョコレート (ファミ通文庫)

 つまらん。
 センスのいい表紙に、扇情的な口絵。女子高生と殺人鬼。出だしは最高に良かった。初期のブギーポップを感じさせる不安感や、社会に対する不満。上遠野浩平の直系というフレーズを思いつき、傑作を予感させる筆致には目眩すら感じた。脳裏の何処かで警鐘が鳴ったのは32ページで、予感が確信に変わったのは36ページ。ああ、実にくだらないかもしれない。エヴァを引用され、月姫を引用され、様々なアニメやゲームの名科白やキャラクタの名前が脈絡なく引用され、挙句の果てにブギーポップを引用された程度のことで本書を見限っただなんて。しかし、いや、やはりこの手の引用は好きになれない。それなりに重要な場面において、どうして著者オリジナルの言葉ではなく、他の作品からの引用を使えてしまえるのだろうか。この作品や作者のルーツを知らされて、読者が共感するとでも著者は思ったのだろうか。そういう人もいるかもしれない……が、秋山の場合、一気に醒めた。物語世界から強制的に弾き出されて、本書がフィクションであることを、秋山と同じようなアニメやゲームを経た作者がいることを、そういったことを知らされて、醒めた。かーっ、話自体は面白かったのに、くだらない読書体験をしてしまった。この秋山も全く持って、まだまだだなあ。

887『サキュバスの亡霊』

サキュバスの亡霊―ゴスロリ少女MAKI (新次元DUAL NOVELS)

サキュバスの亡霊―ゴスロリ少女MAKI (新次元DUAL NOVELS)

 エロさえあればいいのかと苦悶してしまう。もう全然、納得いかない。黒ロリ・白ロリ・甘ロリ――ゴスロリを身にまとうことによって、主人公はもうひとりの自分を得るのだが、それによって得られる効果や最終的な解決がまるで未完成。同級生の少年に惹かれる理由や、彼の嗜虐性を受け入れる説明も皆無だし、物語として面白くない。状況が理不尽なので物語世界に入り込むこともできない。全てにおいて不満が残った。唯一の救いはイラストだろうか。いずれも上手いのが揃っている。もしかしたらイラストが先にあって、それに合わせて文章を書き下ろしたのかもしれない。

888『逆襲の魔王』

抗いし者たちの系譜 逆襲の魔王 (富士見ファンタジア文庫)

抗いし者たちの系譜 逆襲の魔王 (富士見ファンタジア文庫)

 第17回富士見ファンタジア大賞、審査委員賞受賞作。
 うーん、残念ながら今ひとつ。評判が良かった作品なので期待したし、「自らが魔王になるという異例の手段で魔王を倒した勇者と、その勇者に逆襲する魔王の物語」というあらすじには心が躍った。しかし蓋を開けてみれば、説明不足で展開が急で、説明不足でキャラの行動理由が理解できず、主役以外の登場人物は出番が終われば読者に何の説明もなしに退場……と全体に説明不足が目立った。ここで言う説明不足は、単に割いている文字が足りないというのもあるし、「謀略に長けている」と地の文で書かれているわりに、実際の言動がおっちこちょいというのもある。全体的に力不足の感は否めないが、それでも読んでいる間は興奮したし、楽しかった。新人ということを考えれば充分、と言ったところか。

889『SHI-NO』

 第5回富士見ヤングミステリー大賞、最終選考作。
 不健康そうな小学生が体育座りしている! 裏表紙や口絵も志乃メインで、とにかく目を引く。中身に目を転じれば、とにかくキャラクタが上手く描けている。短編連作という形式を取っているが、ストーリィ性やミステリ性は薄く、むしろ人間の狂気や命の儚さといった概念的なものが中心に描かれている。やや森博嗣らしさを感じるが、鼻につくほどではなくいい具合に消化されているので読んでいて心地よい。一応、主人公が大学生の男、探偵が小学生の志乃ということになっているが、編によっては犯人の視点が主だったりして主人公の影は薄い。中々、面白かった。
(追記)応募時のタイトルは『GOTH+LOLI』であるらしい。変更して大正解。