雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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1058『あいにくの雨で』

あいにくの雨で (講談社文庫)

あいにくの雨で (講談社文庫)

 全編に雨が降っているわけでもないので、しっとりとでも表現すればいいのか、全体的に落ち着いた穏やかな、でも少し耳につくような雰囲気が漂っている。そのせいか、結末は麻耶雄嵩にしては地味としか言えないようなものに見えても、そう違和感は覚えなかった。そんなことを考えながら、千街晶之の解説を読んだら、秋山の中のもやもやとした不明瞭な感情がすべて言葉で指摘されていて少し感動した。そう、そうなのだ。千街晶之の解説があれば、本書に対する感想など不要だろう。
 それはそうと、秋山が思うにこの物語における本当の衝撃というのは、作中の結末で書かれている、その後日なのではないだろうかと思う。つまり「こんなことがあったのに、それでも日々は続く。主人公が受験に成功し、独り暮らしを始めたら犯人も被害者もいない空間での生活が始まってしまう」というのが衝撃なのではないだろうか。

1059『フラッタ・リンツ・ライフ』

フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life

フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life

 実に残酷だ、あんまりだ。
スカイ・クロラ』『ナ・バ・テア』『ダウン・ツ・ヘヴン』に続くシリーズ四作目。最新の情報では全五作(当初の予定では全三作ではなかったかしら)とのことなので、後一作で終わってしまう。以下反転。
スカイ・クロラ』から『ダウン・ツ・ヘヴン』に至るまで、筆致がどんどん現実的に、具体的になっているように読めた。言うなれば、徐々に夢が覚め、現実に近づいていくような感じだ。だからこそ、秋山はこのシリーズを草薙水素の成長物語、もう少し穿って言えば、ティーチャとの恋愛を経てキルドレでなくなってしまう物語だと思っていた。しかし、本書『フラッタ・リンツ・ライフ』を一読して驚いた。主人公が草薙水素でないのだ。さらに、草薙水素は自分がキルドレでなくなったと作中で言っている。草薙水素の代わりに主人公に抜擢されたのは、クリタと呼ばれる男性らしいキルドレだ。邪推してみれば、草薙水素キルドレでなくなってしまったから主人公から降格されてしまった。そして主人公ではなくなってしまったから、ティーチャとの対戦の機会が与えられなくなった。キャラクタ小説を読むときのような稚拙な読み方ではあるが、ああ、森博嗣は厳しいなあ、と思った。草薙水素かわいそう。