幽霊とは何か
概要
幽霊とは何か。幽霊とそれ以外の怪物との違いや、なぜ幽霊は若い女性の姿で描かれるかを、考察していく。
考察
幽霊とは何か
- 作者: 柳田國男
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1977/04/07
- メディア: 文庫
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誰にも気のつくようなかなり明瞭な差別が、オバケと幽霊との間にはあったのである。第一に前者は、出現する場処がたいていは定まっていた。(……)第二には化け物は相手をえらばず、(……)一方はただこれぞと思う者だけに思い知らせようとする。(……)
(柳田國男『妖怪談義』より)
まず、柳田國男にならって、幽霊と怪物(オバケ、化け物、妖怪)の区別を導入しよう。上記では、出現場所と相手が特定しているかどうかで、幽霊とオバケを区別した。ちなみに、柳田はこの他にも、出現時刻の違いを挙げている。
それを踏まえつつ、私はさらにシンプルに考え、幽霊と怪物の区別を、精神と物質に求める。たとえば、ゾンビは、精神性が感じられない一方で、肉体を有しているので、怪物に分類する。
幽霊は、デカルトのコギトを体現したような存在だ。幽霊は、思う(恨む)ゆえに、存在するのである。いっぽう、ゾンビは、思考しているかどうか怪しい。よって、以下のように大きく分類できる。
- 人間−身体=幽霊*1
- 人間−精神=ゾンビ
もっとも、ゾンビの表現も多様で、思考を有しているように、ときおり描かれることもある。それならそれで、幽霊とゾンビを別にせず、ファンタジーでよくある「不死族」のように、ひとくくりにしても別に構わない。いまは、幽霊と幽霊以外の分類を細分化することより、幽霊の特徴を追求しよう。
疎外された他者の回帰した姿
小説や映画などのメディアで描かれる幽霊は、若い女の姿をしていることが多い。古くは『四谷怪談』や『番町皿屋敷』がそうだし、現代でも『リング』の貞子がそうだ。若い女性のつぎには、子供や老人が多い。
これは、中年女性や男では絵にならないから、という単純な理由も大きいだろう。しかし、男が幽霊に出る場合を想定すると、それだけではないことが分かる。たとえば、平将門や、もっと一般的に、平家の怨霊を考えてみればよい。彼らは歴史的敗者だ。すると、どうなるか。
ようするに、幽霊は「疎外された他者の回帰した姿」なのである。女の幽霊が多いのは、男社会だからなのだ。女の中でも若いほうへの偏りについては、男社会の好みが反映しているからだろう。また、子供や老人など、周縁的な存在が幽霊として表現される。
恐怖とは未知のものに対する感情だから、その共同体にとって未知である他者は、恐怖の対象として描きやすい。
だがここで、その他者像は伝統的なものであって、現代の社会を反映しているとは限らない。たとえば、近年の自殺者の多くを中年男性が占めているが、彼らは幽霊譚の中に語る場所を持たないのだ。
さらに言えば、外国人労働者が増えたからといっても、それは幽霊譚に反映されない*2。幽霊像=他者像はあくまで、リアルな社会の実態ではなく、社会の成員のイメージを反映したもの*3なのだ。
都市伝説
だがここで、「都市伝説」という、比較的新しいジャンルに目を向けてみよう。やはりそこでも、「トイレの花子さん」「口裂け女」など、若い女性のイメージが多い。だが、外国や最近のものに関する伝説も語られている。
これは、都市伝説というジャンルが、伝統的な幽霊譚が取りこぼしているもの*4をすくい上げているからだ。
たとえば、「ひきこさん」などという都市伝説は、これもやはり若い女性のイメージを脱していないものの、「ひきこもり」という最近できた概念の影響が露骨に見られるだろう。
女性、子供、老人の抑圧に関して、だれでもある程度は共感可能だろう。共感とは精神性を感じることだから、精神体である幽霊となって出てくる。しかし、より他者性が高いものは、精神体としても想像しにくい。そこで、都市伝説として描かれるのだ。
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