映画『CUBE ZERO(キューブ・ゼロ)』 ――キューブ内外の視点が交差する脱出劇

概要

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情報
紹介

1997年のぞっとするような『CUBE』、2002年の『CUBE2』に続き、本作『CUBE ZERO』は、『トワイライト・ゾーン』めいた第1作からの箱に閉じこめられた他人同士というテーマを、多少拡大してみせた。幸運なことに、今回は違いがある。主人公は、しばしば死が訪れる連結されたキューブの部屋で迷った一囚人ではなく、エリック(ザッカリー・ベネット)という名前のギークだ。彼はコントロール室に腰を降ろし、無実の人をみじめに苦しめることに対し、罪の意識を抱いて葛藤している。どこか遠くのオフィスにいる絶対の力を持つ未知の人物から、電話で命令を受けとっている。ある時点で、ついにエリックはみずからがキューブの迷路に乗り込み、女(ステファニー・ムーア)を助けようとする。だが、彼女はエリックの真意を疑ってかかる。シリーズ前2作の不可解な設定が、今回はさらにカフカ的に不条理な設定へと展開されている。独裁的な官僚めいたホワイトカラーの一団が拷問者としてやってくるのだが、キューブの意図を説明できないし、説明しようともしないのだ。想像力あふれる脚本家であり監督であるアーニー・バーバラッシュの力で、退屈な映画になりそうだったものが救われている。(Tom Keogh, Amazon.com)

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

 立方体の密室が集合している空間、キューブ。エリック・ウィン(ザカリー・ベネット)とドッド(デヴィッド・ヒューバンド)は、囚人の様子を、仕掛けられたトラップによって死亡するまで、モニター画面を通して監視していた。

 彼らは、キューブを管理し、中の囚人を監視する職員だ。ドッドは自分の職務を忠実にこなす。いっぽうで、コンピュータのような精密な頭脳を持つウィンのほうは、キューブ自体の謎に興味を抱いていた。

 ウィンは、被験者の女性・カサンドラ・レインズ(ステファニー・ムーア)に注目する。キューブ内部で目を覚ましたレインズは、他の囚人と出会う。彼らは記憶を消去されていたが、彼女だけは外界の記憶をわずかに残していた。

 いっぽう、監視室のウィンは、政治活動家だったレインズが、陰謀によってキューブに強制収容された可能性を疑う。また彼とドッドは、逃亡した同僚の処分を余儀なくされた。そうした非情さに耐えかねたウィンは、ついに脱出を決意する。そして、レインズ救出のため、キューブ内に自らおもむく。

 はたして彼らは、行く手を阻む殺人トラップをくぐり抜け、生きて脱出できるのだろうか……?

解説

キューブ内外の視点が交差する脱出劇

 「キューブ」と呼ばれる殺人立方体に閉じこめられる、という斬新な設定が話題を呼んだ『CUBE』シリーズ。本作『CUBE ZERO』はそのタイトル通り、前2作の序章に相当する。前作『2』の監督が続投して、キューブの内と外、囚人と監視の視点が交差する脱出劇を描く。

 内外の視点が交差するという構成は、同じソリッド・シチュエーションで後発の映画『SAW』にもあった。内外の視点がどう関係するか、というところにサスペンスが生じる。ただ、外が見えてしまうので、閉塞感が薄れるという側面もある。

 キューブのトラップのグロテスクな描写は、『CUBE 2』でいったんややマイルドになった。が、今回はPG-12作品ということもあり、グロさが増している。とくに、冒頭の人間が溶解するシーンは強烈。シリーズ中でも一番グロい。

 これは『SAW(ソウ)』シリーズにも言えることだが、シリーズ初代の作品が持っていたテーマ性が薄れていくかわりに、グロ描写が増していく。だがやはり、グロそのものよりも、そうした極限状況に置かれた、人間の本質を重視して欲しかった。

 たとえば、チップを人間に埋め込むことで、殺人鬼を生みだしている。だが、人格と関係なく操作されている(ように表現されている)のでは、本質どころか、そもそも人間でない。

 これが、前2作の殺人鬼であれば、その描写の善し悪しは措くとして、「怒りが殺意に発展した」とか「恐怖が殺意に反転した」とか、人間の心理を解釈する余地がある。チップによる暴走後には、これが全くない*1

 ストーリーは、ウィンがヒーローになって、レインズを救う話になっている。囚われの姫を救うような、その筋書き自体は王道だ。が、彼が救いに出た時点で、ヒーロー・ヒロインと脇役がはっきり別れて、生き残るメンバーの予測がついてしまう。

 ただ、初代につながるような結末はよかった。最も印象的だったひとりの登場人物の設定を、示唆するラストになっているのだ。

 本作は、『CUBE』シリーズという視点を離れて、単体で評価すれば悪くない出来だ。キューブの設定を知らせる面と、これからの展開を予想させる面が両方あるため、あれこれと推察して、見ていて飽きることはなかった。

 ただ、キューブ以外の場面は、わりと普通の映画だった。横暴に振る舞う義眼の上司や、幼い子供とともに追っ手から逃げる回想は面白い。が、どこかで見たような感じで、キューブ以前の脱出物に戻ったような印象も受ける。

 こうしてみると、初代はなんと非凡なのだろう。映画で描く焦点を、徹底的に絞り込んでいた。大部分で同じようなトラップの殺人をやっていても、こうも違ってくるのか、とあらためて驚く。

 本作は初代の設定を補完するだけでなく、初代と見せ方を対比して見ると、色々と興味深いことが発見できる。

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*1:もっとも、人格を無視した人間の操作、すなわち「マインドコントロール」の恐怖という、90年代に出てきた別の枠組はあるのだが