『夜聖の少年 (徳間デュアル文庫)』浅暮三文

/この世界で「大人になる」と、体が発光を始める。その頃に抑制遺伝子を移植され、反社会的行動を取れないようにされる。それを拒否した者たちは地下で「土竜」と呼ばれ、排除の対象となる。そんな土竜の一人、カオルが主人公。弱かった彼が闘いで仲間を失い、また別の者たちと協力しながら大人の世界(物語では「光」が強調される世界)と自らの出生の秘密を暴いていく物語。
これは単純に子どもが大人の世界を否定する物語では、多分ない。そういう風に読むこともできるだろうけれど。光の世界は不自然なほどに闇を排除した世界であり、光と闇の融合を目指す…という物語でも、多分ない。そういう側面もあるだろうし、途中まではその読み方でいいんだろうけど。最後の一文で、どんでん返しとも違う、別のオチが用意されていたことに気付く。私は映画『ザ・フライ』のラストを思い出して「これはホラーだったのか?」と思ったほどだ。今後、地下世界でカオルの子孫たちが増えていったら…。それはそれでこの世界を変革することになるのだけれど、それはこの世界に何をもたらすのか。答えは、この本の中には、ない。

『刑事ぶたぶた (徳間デュアル文庫)』矢崎存美

/ぶたぶたシリーズ、初読みです。ぶたのぬいぐるみがどうして刑事なのかはスルーしないと話が先に進まないので(笑)その刑事ぶたぶたさんと、新人刑事立川君の事件簿。
ぶたぶたさんはもちろんかわいいんですが、『帰りたがる犬』のカナがかわいい。この話が一番よかったと思う。プロの窃盗犯が案外杜撰なことをしている点はカナのかわいさに免じて。『思い出せない女』はこんなに引っ張っておいて、オチはこれかよ!というのが楽しめる逸品。ただ、オムニバス形式の誘拐事件とそれに絡ませた生意気な小学生の話は、それぞれの解決も含めて微妙でした。この物語はミステリーとして読むより、ぶたぶたのかわいさを堪能するために読むほうがいいのかもしれません。

『“柊の僧兵”記 (徳間デュアル文庫)』菅浩江

/解説(鏡明)で知ったが、この作品は作者の最初の長編で1990年初出らしい。2000年に緒方剛志のイラストで再販されたのは幸運なことだし、この物語にそれだけの力があったということにもなるんじゃないかと思う。
砂漠の世界。主人公ミルン以外の多くの人々は体が大きく力が強く色が黒い。ミルンとジーナとその妹アジャーナだけは力が弱く、色が白く瞳が青い。彼らは「白い子供」と呼ばれている。砂漠にはオアシス(聖域)があり、神ニューラに光の矢を打つ大事な役目は村の英雄であるミルンの兄が担っていた。ある日の儀式の際、空からネフトリアと名乗る異星人たちが来訪。村を襲った。ミルンとアジャーナは命からがら逃げ、賢者「柊の僧兵」を探す旅に出る。「柊の僧兵」と合流し、村々で様々な人と出会い、世界の成り立ちを知り、ミルンはネフトリアとの最終決戦に挑む。本当はもっと複雑な設定なのだけれど、それを書いたらキリがない。
ミルンがネフトリアと手を組んで原住民を根絶やしにするという未来もありえると、読みながら思った。ジュブナイルレーベルでその展開はないとは思えたけれど、人間がやってきたのは常にそんなことばかりだったから。でもやっぱりミルンはそんな未来は選ばない。原住民側もまた、ミルンたちを受け入れて共存していく。この物語で、原住民は力が強いが知能は劣るという設定を、架空のものとはいえできたことがうまく言えないが、すごいと感じた。また、物語では敵役だけれどネフトリアも悪ではない。ミルンが選んだ未来とは逆の選択をした者たちの末路だった。とはいえ、ミルンの星がネフトリアと同じ未来を歩まないとも限らないのだ。