『何を読むための自由? くだらないもの。』訳者改題

 1956年のソ連共産党第20回大会でのフルシチョフによるスターリン批判以降、東欧でも各国で政治の自由化に伴う文化・思想の自由化が現れた。ポーランドではポズナン暴動によって生まれたゴウムカ政権によって文化政策が緩和され、多くの新しい作家が作品を発表した。この記事に名前が出て来るマレク・フワスコもそうした1人で、他にも、ルポルタージュ小説で知られるノバコフスキや詩人のカルポビチ、風刺作家・戯曲作家のムロジェク、映画『尼僧ヨアンナ』の脚本で知られる作家・映画監督のコンビツキらがいる。ダダイストを自認した演出家カントルがクラクフで「新時代美術家グループ」を結成し、実験劇場「クリコ2」を創設したのもこの時期である。チェコスロヴァキアでの自由化は68年の「プラハの春」まで待たねばならないが、スロヴァキアのムニャチェコ、ベドナールら文学の領域で社会主義レアリズムのくびきを脱する試みが行われ、68年を準備するものとなっていった。
 東欧のこれらの地域では、1920年代から30年代に、表現主義ダダイスムシュルレアリスムなどのアヴァンギャルド芸術が次々と生まれ、西ヨーロッパとは異なる独自の色彩を生み出していた。だが、56年以降の自由化の中では、こうした傾向を継続発展させる試みはごくわずかで、SF小説やスパイ小説が許容されたり、「意識の流れ」の手法を用いた小説が発表されたりといった程度だった。ジャンルや手法の自由化という点で、社会主義リアリズムの制約が緩んだにすぎず、シチュアシオニストが求めるような個々の芸術ジャンルの変革を超え、社会変革をも目指したアヴァンギャルドな文化運動に発展するには程遠かった。

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