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”All alive are fitting.” 「生きてりゃ適者です。」

2007-02-24

アメリカの科学教育は76ヶ年計画で着々と進行中。

納豆だの波動水だの血液型だのに沸く日本列島

部首相率いる現政府は「識者」達の「教育再生会議」を招集し、実にステキな対策や提言を通じて教育改革に取り組んでいます

一方、アメリカにおいては既に1985年から大規模な教育改革プログラムが発動しており、現在も進行中です。

その名も"Project 2061"。

Project 2061は、先日も書いた最強の民間理系支持団体AAASを中心として、様々な分野の専門家を集め国ぐるみで作成された一大プロジェクトであり、全アメリカ国民の科学思考力を増進するための76ヵ年計画米国全土、あるいは州レベルにおいて遂行せんとする極めて戦略的で具体的なプランです。

Project 2061ではまず、Science for All Americansという報告をまとめ、科学」とは何か、そして国民が身に付けるべき「科学力」とはどういうものであるか、について徹底的に分析しています。

その冒頭には科学の基本として、

  • The World Is Understandable
  • Scientific Ideas Are Subject To Change
  • Scientific Knowledge Is Durable
  • Science Cannot Provide Complete Answers to All Questions

すなわち、

  • 世界は理解可能である
  • 科学認識は変化するものである
  • 科学知識はすぐには陳腐化しない
  • 科学は全ての問いに答えられるわけではない

が掲げられています。

いや、実にまっとうで骨太ですな。

さらに、科学の性質として

  • Science Demands Evidence
  • Science Is a Blend of Logic and Imagination
  • Science Explains and Predicts
  • Science Is Not Authoritarian
  • Science Is a Complex Social Activity

いや全くその通り。科学論理としないあたりも流石です。ああ、教育エライ人全員に爪の垢を煎じて飲ませたい。

これは、科学哲学の専門書ではありません。

アメリカ国民があまねく身に付けるべき科学的素養の基礎と位置づけられているのです。

以下、数学化学物理学生物学地学社会科学など、様々な科学分野間の関連やそれぞれの特性について論じ、科学教育として何を達成すべきか、すなわち「科学教育のゴール」を設定し、数十年に及ぶ教育プラン達成のための各マイルストーンベンチマークを定めています。

AAASは政府に対して強い影響力を持ちますが、同時に現場科学者エンジニア、教員、学生からなる民間組織です。従って、現場を知らないご隠居が妄想を垂れ流すこともなく、また政局によってあっちからこっちと振り回されることもない。

まさに国全体がAAASを中心に有機的に結合して「科学教育」を実践しているといえましょう。

確かに米国には日本と比べ、宗教言語、階層など科学教育を阻害する要因がはるかに多いといえます。

しかし、それを超える科学への圧倒的な「意志」があります。国全体で科学教育にかけるコストがケタ違いですし、なによりも長期のプランを作成し、広く結束してそれを実行する力がスゴイ。

日本が議論の名を借りたアジテーション合戦を繰り返しているうちに、向こうではちゃくちゃくと地道な「科学力」が育っているということですね。

ああ、これでは勝てないのも無理はない。


関連:

「科学としての経済学」のトリセツ

進化論が科学であり、ID論が科学でない理由

日本の理系が敗北するたった一つのシンプルな理由

弾さんの部分訳。Project 2061 - Science vs. Public Affairs

教育関連:

豊かな時代の教育とは

einstein53einstein53 2007/02/25 02:10 戦後のアメリカによる日本統治。
最大の成果は日本のアメリカナイズに成功し、明治維新の推進力となった知的好奇心とその実行力を、軽薄な覗き趣味に変え批評家を育成し、科学的分析力の普遍化を妨げ、正しく議論する手法が育たぬよう『教育改革』を断行したこと。
愚かにも、その土台に立って政治的改革を行なっている。
今必要なのは、普遍的・科学的見識を育てること。
ワンダーランドでは「帽子屋」が好きなのですが、テーブルをご一緒したいものです。

nosuke42nosuke42 2007/02/25 07:22 SF作家のロバート・ソウヤーは諸外国(たぶん主にカナダ)に比べてアメリカでの科学(知識)の普及率が低いことを嘆いていました.特に宗教の問題から科学教育がうまくなされていないという認識があるから,ここまで本気で取り組めている印象をうけます.
日本に支持母体がない,というより国の在り方とかもっと深い問題があるでしょう.外延的ですが「日本になぜGooglのような会社が生まれないのか」となど同種の問題に思われます.結局,国民の意識の問題に帰着するような.まずは”Project 61”のようなものが必要だという意識が持たれるよう地道に啓蒙する,とか….道は長い気がします.

potasiumchpotasiumch 2007/02/25 11:00 アメリカで働いている新米科学者です。
彼我の科学に対する「意識」の差は、基礎研究が国益に適うと本気で思っているかどうかという点が大きいかと思います。
アメリカは過去に数々の成功体験(原爆作って戦争終結・覇権確保とか、衛星作って市場独占、追随者はつぶしてさらに大儲けとか)があり、

「科学は国益に適う」

と身に沁みて感じている。目標がしっかりしているので実装も現実的になる。
一方で、日本は

「科学…よく判らないけど人類の進歩とか重要そうだよね。なんとなく」

ぐらいの弱い、あいまいな、精神論的な動機で科学を捉えていて、だから施策も精神論的な何か変なものになってしまう。

だから科学に対する成功体験があれば状況は変わると思うのですが、こういうのはwinner-take-all的な部分があるので、今から日本(というかアメリカ以外の国)がそれを目指すのはかなり大変かも。

potasiumchpotasiumch 2007/02/25 11:19 連続投稿すみません。

einstein53さん、nosuke42さんのコメントを拝見して思ったのですが、科学政策に関する施策を云々するにあたっては

(A) 一般市民の科学リテラシー
(B) 官僚の科学リテラシー

を分けて考えるべきだと思います。nosuke42さんのおっしゃる通り、一般市民の科学知識は日米でそれほど差があるとは思えない、というかアメリカの方が低レベルかもしれない。

では日米の差を生んでいるのは何かというと、(B)の圧倒的な差、だと思います。学部、下手をすれば高校レベルの科学リテラシーで止まっている人で構成される日本の官僚組織が、研究経験もあり博士号持ちがゴロゴロいるNIHとかNSFとかDARPAなんかと対等に渡り合えるわけがない。

もちろん(A)が上がるのは良いことですが、より影響力があり現在の日米格差を生んでいるのは(B)の差だと思います。

だから日本の科学に関する状況を変えようと思うのなら、院生・ポスドクを増やすのではなくて官僚組織に科学者をもっと組み込むべきです。(でも官僚にそういう動機がどれほどあるのかは知りません。また今から科学立国を目指すのが日本にとって最適解なのかどうかも判りません。)

sivadsivad 2007/02/25 13:51 皆さんコメントどうもありがとうございます。
とすると結局、科学者やエンジニアの政治力を上げるしか道はないということになりますね。官僚が自ら椅子をあけ渡すことはありえませんから。やはりというか、日本版AAASがない限り状況打破は厳しいみたいですね。。
科学でないとすると、ソフトパワーとしてはあとは文化ということになりますね。ハリウッド並みのパワーを持てればいいんですが、さて。

LL 2007/02/26 16:58 官僚の現状は大変問題です.官僚というと東大のイメージなのでしょうが,いま東大で官僚がものすごく人気ないです.理系はそれだけで出世できないので理系に人気がない.絶対的年功序列なので浪人・留年などを経験した文系にも人気がない(勤続年数での一年の差が最後まで響くらしい).実力も自信もある人は外資系金融の方が給料がはるかに良いので人気がない.これは不況で民間就職が厳しいといわれた時代から人気がなかったので,今はますます人気がなくなっているでしょう.

「でもしか官僚」が増えているというのが現実です.

turimotonaokiturimotonaoki 2008/05/29 22:39 アメリカは色々とお題目だけ立派で実際の伴わない有名無実な国です。
この計画も大変立派ですけど、アメリカを褒めたり日本を嘆いたりするのは
その実現度を確認してからの方が良いでしょう。

sivadsivad 2008/05/30 10:04 まあ、複雑な国ですからね。ただ日本の科学・技術がアメリカに及ばないのは事実ですし、社会に働きかける機構を持っていないのも確かです。学ぶべきところは学んだ方がよいかと。