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”All alive are fitting.” 「生きてりゃ適者です。」

2009-06-23

「脳死は人の死か」という以前に「脳死判定が本当に脳の死を意味しているのか」が問題

臓器移植法案に関して、「脳死は人の死か」、ということに関する意見表明がちらほら見られて、それはそれでいいことだと思うのですが、脳死についてはそれ以前に考えるべきことがあります

脳死に関する問題は大きく三つに分類されて、

1.どのように『脳の死』を判定し定義するか

2.脳の死が個人の死であるのか

3.個人の臓器をどう扱うべきか

と考えることができるわけですが、臓器移植法関連では2以降がよく議論されて1がスルーされがちです。

しかしまず考えるべき、重大なことは1の問題です。

皆さんは脳の死、と言ったとき脳のどのような状態をイメージするでしょうか。

脳波がピーーー、とフラットになった時? それとも脳組織そのもの豆腐のように崩壊してしまった状態?

二つはイコールではありません。

前者のイメージ脳の機能が外部から測定不能になったときを脳の機能死」といいます

後者の状態、組織自体が修復不能に崩壊した場合「器質死」といいます

器質死が起きた場合、もちろん脳の機能はありませんから、同時に機能死になっています

しかし、機能死が起きたからといって必ずしも器質死が起きているわけではない。部分的な損傷により、脳の機能麻痺しているとも解釈できるわけです。たとえばフグ毒で神経をやられて一時的に脳の機能死状態に陥リ、のちに回復した例もあるようです。

現在の日本の脳死判定は前者、機能死」を基準に行われています

もちろん、完全に一致しないとはいえ、機能死がいずれ器質死につながる確率は高いといえます。厚生省の調査では、機能死解剖例の7割が器質死にあったということです。残りの3割もより時間をかければ器質死におちいった可能性は高いでしょう。

しかしながら、機能死ではやはり怖い。回復の可能性がないとはいえないし、内的な意識もあるかもしれない*1

からより確実な死といえる器質死を判定基準にしよう、という意見もあります

器質死を判定するには、機能死に加えてプラスアルファ検査が必要です。たとえば脳血流の測定。組織崩壊していれば脳の血流は止まっているはずですし、脳全体の血流がなければ酸素を多量に必要とする脳の器質死は不可避です。

ではそれでいいじゃん、とも思うのですが、現在の判定基準はそうなっていません。

なぜか。

優先順位の問題なのです。

器質死まで待つとすると、移植用の臓器の劣化は避けられません。脳の機能が停止した時点よりさらに時間をかけねばならないからです。

まり脳の死の確実性よりも移植用臓器の新鮮さを優先したのが現在の判定基準といえるでしょう。

これはいい悪いというより、どういう価値基準でなにを優先するか、の問題です。

脳死は人の死か、という以前に、脳のどういう状態をもって脳死と判定するのか。

完全な死の確定を優先するのか、移植用臓器の新鮮さを優先するのか。

なにより、そこを議論しなくてはなりません。

個人的には、一般的な脳死基準はやはり器質死に近づけたいと思います。それならば脳死は人の死、ということにも抵抗が少ない。しかし一方で臓器提供によって貢献したい意志も尊重すべきですから、あらかじめ提供希望する場合に限り、機能死を選択する権利を保持できるようにするのはどうでしょうか。


ブログで論ずるにはなかなか複雑な問題ですので、それぞれの立場を取る以下の二冊を読んでみることをおススメします。

脳死再論 (中公文庫)

脳死再論 (中公文庫)

立花隆サイエンス関連では怪しいことも多いですが、少なくとも事実認識に関してはそうはずしていません。ただし氏は脳の死の確実性を極めて重視する立場にあり、これに関しては当然意見の分かれるところでしょう。


追記:7月13日A案通過してしまいました。これは禍根を残すと思います。考える材料としてこちらにもTBしておきます

こんな例もあるようです。

UK teen recovers “fully” after 4 doctor found him “brain dead”

http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10037#When:10:50:47Z

*1フグ毒のケースでは意識記憶もあったといわれています

trshugutrshugu 2009/06/25 14:08 これはかなり重要ですね。
器質死した場合は自律神経もいずれは死んでいくのでしょうか。
それとも部位によっては生き続けることができるのでしょうか・・・

sivadsivad 2009/06/25 18:43 どうも。いずれは死滅するでしょうね。しかしどのくらい生存可能かはっきりいえるほど分かっているわけではないようです。

kumakuma1967kumakuma1967 2009/06/26 12:18 小児移植では「脳死判定なしで心停止後2分で臓器保全のために血抜きを始めた」とかいう論文出てるみたいですが、本物なんだろうか....
「心停止後2分」って、「心臓死」なんですかね?

sivadsivad 2009/06/26 15:32 どうもです。個々のケースについては私がここで判断できるものではないと思いますが、小児の場合回復能力が成人より優れている可能性もあり、同じ基準でよいかどうかは微妙ですね。
いずれにしろ流通している情報量が少なすぎて、この状態で法案を通すのは問題でしょう。

北の虎北の虎 2009/07/28 15:13 脳みそを機能で考えてくれるなら、脳幹がいかれちゃえば、たとえ大脳がピンピンしていても機能発揮出来ないので、その脳みそは回復の望みはありません。大脳なんか生きてても、脳幹が死んでたら機能しないんです。回復しません。そういう弱い臓器が脳幹です。脳幹死が欧米では標準です。なぜ日本人の脳みそだけ特別なんでしょうか? 機能していない脳を生かし続ける、脳が機能していない人間を生かし続けることのほうが、よほどゾンビに近いと思います。倫理的に問題なのは、むしろ機能回復の望みのない脳幹死を生かし続ける事の方ではないのでしょうか? 脳幹死の判断が間違うことは専門家にはあり得ません。専門家でない方は間違います。偽専門家が日本には多いのが一番の問題でしょう。ちなみに評論家は専門家ではありませんね。欧米式の脳幹死に統一出来ないところに日本人の幼さを感じますし、偽専門家に欺される日本人のアホさかげんにウンザリします。

sivadsivad 2012/05/08 19:59 記事の紹介です。

http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10037#When:10:50:47Z

UK teen recovers “fully” after 4 doctor found him “brain dead”

by Michael Cook | 28 Apr 2012 | 2 comments

tags: brain death, organ donation

Miraculous recoveries from brain trauma are always good news, but they may not be as miraculous as they first seem. However, the Daily Mail’s account of a boy who recovered fully after four specialists declared that he was brain dead makes one question if doctors really understand brain death.

Steven Thorpe was 17 when he was involved in a serious car accident in 2008 which left another passenger dead. He had serious injuries to his arm, face and head and was declared “brain dead”. ‘The doctors were telling my parents that they wanted to take me off the life support,” Steven told the newspaper. “The words they used to my parents were “You need to start thinking about organ donations”.’

Fortunately his parents sensed that their son was still there. ‘I think if my dad had agreed with them then I would have been off the life support machine in seconds,’ says Steven sardonically. They contacted a GP with expertise in traditional and alternative medicine and she persuaded another neurologist to examine him. He detected some brain activity and had him released him from his induced coma. Two weeks later he woke up.

As the GP said, “one worries that this may happen more often than we know”. A spokesman for University Hospitals Coventry and Warwickshire NHS Trust said: “The injury to Steven’s brain was extremely critical and several CT scans of the head showed almost irreversible damage. It is extremely rare that a patient with such extensive trauma to the brain should survive. We were delighted to see Steven recover.”

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