午後、出発

3:03. TIGER Ⅰ の自転車を借りて、一路附属中へ。最初の角を曲がろうとして、危うく高校生と正面衝突。ブレーキングのタイミングが遅い。反射神経が鈍っている。ペダルを漕ぐと坐骨が痛い。昨日の後遺症。「みやび」の前の交差点で、赤信号なのに飛び出しかける。頭では「赤」と認識しているのに、筋肉が反応していない。どうもとろい。182号線は無事わたる。急ぐ必要は全然ないのに、気がつくと「はぁはぁ」言いながら、気合で漕いでいる。力を抜く。ギアを軽くする。坂道を登る親子連れを追い越す、一組、二組。グラウンドにはもう四列の車。正門から入る。それなりの人。祖父祖母の割合が確実に増えた。

例によって、玄関前にワンボックスカー。段ボール箱に合格通知書搬入。昨日より多い。倍の合格者がいるのだから当然か。3:21、校舎横の入り口から、ボードが出てくる。おじさんふたりが担いでダッシュ。何人かの父兄も小走りに掲示板前へ。僕も生徒の受験番号を控えた手帳をもって続く。
女子からみる。写真をとるお母さんが邪魔。ちょっとどいてくれないかなぁ。
あった! ない、ない、ない、ない、あった! ない、ない、ない。もう一度全員チェック。ううううぅぅ、二名、、、。
男子。ない、ちくしょう。ない、ない、ない。再チェック。再々チェック。
ない。

結果 ○2●11

坂を下る。
脱力感は昨日より大きい。失敗した子どもらの数が一気に五倍に増えたのだから当然だ。どの子にも合格するチャンスはあった。僕の導き方次第で、この結果はどのようにも変えられたはずだ。どこで、何を、どう、、、ぐるぐるぐるとりとめのない想念に支配されながら歩道を走っていると、電信柱に衝突しそうになった。あわててハンドルを切ると、初老の男性とぶつかりそうになった。みっともない右往左往。まるで塾屋のありようをシンボライズする動き。

塾・授業。

5:00前、小6あらため中1準備クラスの子たちが、ぞくぞく現れる。ひとりずつ声をかけていく。僕が失敗させてしまった子たち。健気にいつもどおりバッグを背負い、いつもどおり席に着く。立派なこどもたち。一過性の受験勉強ではない、持続的学習を続けられるタフな子どもたち。

偶然、所用があって駐車場に出た。色々話をしていた、と、突然、聞きなれた声で、「先生、受かりましたぁ!」。ふりむけばまっさきに合格を確認した少女がはにかみながら立っている。
「おめでとう!」と誰はばかることなく大声をあげて駆け寄った。よくぞやった。「附属に合格するんだ」という思いを最も熱くもち、誰よりも学力テストの問題集に熱心に取り組み、毎回全身全霊で学力テストに取り組んできた努力が見事に報われた。休憩時間もひとりもくもくと問題を解きまくっていた執念が実った。命がけ、と言ってすらよかった。その思いの深さを目にするたびに、襟を正して真剣勝負をする気持ちにさせられた。塾屋を育てるのは、至純の魂をもつ受験生であることは間違いない。きょうはご両親ともお休みをとって、家族四人で合格発表に臨むことは昨日耳にしていた。「大丈夫、夜はみんなでお祝いしてください」と気楽に言っていたけれど、内心、不安もあった。ただ、彼女が合格しなくていったい誰が合格するんだ、という開き直りに似た気持ちもあった。そう、彼女は合格するべくして合格した。

もうひとり合格した子は、授業がはじまってから現れた。たぶん、附属のグラウンドから出るのに時間がかかったんだろう。はぁはぁ言いながら駆けつけた。「よっ、おめでとう」としか言えなかったが、もっと語るべき言葉が実はたくさんある。
受験勉強とバイオリンの二足の草鞋を貫き通した努力はどんなに称賛されてもよい。過去問演習と総復習が佳境を迎えた二学期半ば、ちょうど実施される音楽コンクール前は精神的にかなりプレッシャーがきつかったはずだ。一次予選、二次予選、本選と、選ばれていく一時期、ひとりだけ先に帰ることも多々あった。そのときの取り残されていくかもしれない不安は半端ではなかっただろう。コンクールも見事入賞。さらにコンクール終了後、遅れた分をすすんで取り戻したガッツは実に素晴らしかった。作文演習は毎回圧倒的な文章力をみせた。一時的に落ちこんだ成績も、正月以降の過去問演習で復活。ここ一ヶ月常時圏内にあった。彼女も受かるべくして受かった、と言えよう。

では、他の子たちは、彼女らに匹敵する力がなかったのか。そんなことはない。甲乙つけ難い成績は十分にとっていた。
では、合格する子にあって、合格できない子にないもの、とは何か。福山で教えて15年、塾屋生活27年の結論を言えば、それは自信。自分は合格するはずだ、合格できるはずだ、という思いが、魂の一番深いところで自分自身を支える嘘偽りのないパワーになっているかどうか、ということだと思う。
きょう附属中に合格した彼女らにも、僕の知らない多くの障害があっただろう。人知れず涙を流したこともあっただろう。それでも自分を信じ、ひたすら夢を追い続け、遂につかみとった合格は、彼女らにさらにいっそうの自信をあたえることだろう。まさにそのためにこそ、頑張ってきたのだから。より大きく羽ばたいてもらいたい。いっそう大きな夢にむかって、どこまでも飛翔してもらいたい。

たまたま、きょうのボードに番号のなかった子たち!焦ることはない。みんな、素晴らしい成長をしたよ。この秋から冬にかけて、次から次にガンガン勉強したけれど、みんなよくついてきてくれた。一致団結してよく乗り切った。よくやった。本当によく頑張った。この僕が言うのだから本当だ。
「悔しい、なぜだぁ!」と言いたい、でも、言わない、言わずにその思いをそのまましっかり胸に収めて、次の目標に向かって歩み始めよう。チャンスはまた来る。やるべきことをしっかりやって、なるべきものになろう。勝敗は時の運。いつまでもこだわってなんかいられない。次に流す涙は、きっとうれし涙になるから、いや、必ず、うれし涙にしてみせるから。